平成31年度税制改正でM&Aに関係する組織再編税制の変更点は?しっかり学ぶM&A基礎講座(50)

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平成30年12月14日、与党から「平成31年度税制改正大綱」が公表され、同月21日には閣議決定がなされました。M&Aに関係するところでは組織再編税制にかかる変更点があります。内容的には「逆さ合併」や「三角合併」が行われた際のニーズにより柔軟に応えるものとなっています。以下では、その概要をお伝えしたいと思います。

親会社が子会社を完全支配した後に「逆さ合併」を行うケース

親会社が子会社における少数株主をスクイーズアウトしたあとに、両社を合併させるケースはよく見られます。スクイーズアウトというのは、少数株主に出て行ってもらって100%子会社化することを意味しますが、具体的な手法としては株式交換などが活用されます。

ところが、株式交換などの組織再編のあとに逆さ合併を実施する場合、現行制度では当初の組織再編が非適格とされます。非適格ということは一定の資産について時価評価などの問題が生じ、機動的な組織再編の足かせになる可能性があるのです。

なお、逆さ合併というのは、子会社が存続会社、親会社が消滅会社となって合併を行うものです。「それなら、わざわざ逆さ合併にしなくても良いでは?」と思われる方がいるかもしれません。しかし、子会社がビジネス上で必要な許認可を持っているなどの事情から子会社を存続させたいというニーズは少なからず存在します。

そこで、今回の改正では逆さ合併が行われる場合においても、当初の組織再編の適格要件(すなわち、完全支配関係継続要件、支配関係継続要件および親子関係継続要件)は適格合併の直前までの関係で判断することとされました。

これにより最初に完全子会社化を行い、次にさらなる再編を行うといった合わせ技がより柔軟に行えるようになることが期待されます。

間接保有の完全親会社の株式を用いて「三角合併」を行うケース

合併において、最も基本的な対価といえば合併法人の株式ということになります。しかし、会社法上、合併の対価にはかなりの柔軟性があり、例えば合併法人の親会社の株式を交付することも可能です。これがいわゆる三角合併と呼ばれるものです。

現行制度においても、合併法人と直接完全支配関係にある親会社の株式を交付する場合は、その三角合併が適格要件を満たすものとされ、旧株式の譲渡損益も繰り延べることが可能でした。ところが、対価として直接完全支配関係にある親会社のそのまた親会社の株式を交付するようなケースでは適格要件を満たさないことになります。

孫会社から見たお祖父さん(お祖母さん)会社に相当する会社は「間接保有の完全親会社」とも言い換えることができます。例えば間接保有の完全親会社が上場企業で、その子会社や孫会社は非上場企業である場合、被合併法人の株主の立場からは流動性の高い上場企業の株式が欲しいということも考えられます。

そうしたニーズに応えるべく、今回の改正では、間接保有の完全親会社の株式を対価とした三角合併においても、適格要件や旧株式の譲渡損益を繰り延べるための要件を満たすものとされたのです。なお、合併法人の全部の株式を間接的に保有する一定の外国法人(特定関係外国法人)の株式を対価とする場合は適格要件を満たさないものとされました。

組織再編税制は日進月歩

かくして毎年のように組織再編税制がらみの改正は行われており、M&Aや事業再編の選択肢は徐々に広がりつつあります。「逆さ合併」や「三角合併」が適した状況があれば、今回の改正を思い出していただければと思います。

文:北川ワタル(公認会計士・税理士)