連結会計におけるM&A仕訳を全8回にわたって解説しています。本稿はその第4回に当たります。前回の「事業譲渡」が固定資産などの売買にも似た取引法上の行為だったのに対して、今回のテーマである「株式交換」は100%親子会社関係を作るための組織法上の行為です。
このような株式交換が行われた場合、連結会計にはどのような影響があるのでしょうか。以下では、株式交換の特徴を紹介するとともに、株式交換を行った場合の連結仕訳を確認していきたいと思います。
株式交換が行われた際の個別会計上の仕訳は「株式交換の会計処理」(記事はこちら)ですでに紹介しています。少し復習になりますが、まずは株式交換という手法の特徴と個別会計上の処理を確認します。
株式交換とは、子会社となる会社が発行する株式を親会社となる会社に取得させることにより、完全親子会社関係を作るための手法です。株式交換は、会社法で定められた組織再編行為であり、当事会社どうしの合意により実施することができます。とはいっても、社内的な手続としては、原則として株主総会の特別決議が必要となります。
つまり、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上による賛成が必要です(会社法309条2項12号)。普通決議より要件は厳しいものの、3分の2以上の議決権を持っていれば、少数株主を排除して100%親子会社関係を実現できる点では使い勝手の良い方法といえます。
会計基準では、親会社となる会社を「株式交換完全親会社」、子会社となる会社を「株式交換完全子会社」と呼んでいます。株式交換完全子会社の株主に対する対価は、通常、株式交換完全親会社の株式となります。
ただし、この対価には柔軟性があります。対価として金銭を交付することも可能であるため、株式交換完全子会社の少数株主に金銭を交付して企業グループから退出してもらうことも考えられます。
また、対価として、株式交換完全親会社のさらに親会社の株式を割り当てることも可能です。この場合、プレーヤーとして三者が登場し、「親-子-孫」という関係を形成することができます。こうした手法は「三角株式交換」と呼ばれています。
このように株式交換には様々な活用方法が考えられます。以下では、株式交換完全子会社(B社)の株主に対する対価として株式交換完全親会社(A社)の株式を交付するケースを前提に会計処理を確認していくことにしましょう。
<株式交換完全親会社(A社)の会計処理>
(B社株式)1000 |
(資本金)100 |
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(資本剰余金)900 |
借方の「B社株式」は、株式交換日におけるA社株式の時価などをもとに計上します。また、貸方の「資本金」と「資本剰余金」は株式交換契約の内容に応じて定まります。ここでは、株式交換完全親会社(A社)が1000相当の新株を発行し、そのうち100を資本金とした場合の仕訳例を示しました。
<株式交換完全子会社(B社)の会計処理>
仕訳なし |
株式交換完全子会社(B社)では、特に資産や負債、純資産の変動がないため、個別会計上の仕訳はありません。B社にとっては株主が従来の株主からA社に変わっただけということができます。
A社とB社がもともと同じ企業グループであったというような場合を除き、基本的にはA社がB社を取得したと考えられます。この場合、連結財務諸表を作成する過程でB社の資産や負債を時価評価することになります。仮に資産の評価益が100であった場合、下記のような仕訳を行います。
<連結会計上の仕訳(B社の個別財務諸表の修正)>
(資産)100 |
(評価差額)100 |
その上で、A社が保有するB社株式とB社の純資産の部を相殺消去します。仮にB社の時価純資産が800(簿価純資産が700)であった場合、連結消去仕訳は下記のようになります。
<連結会計上の仕訳(資本消去仕訳)>
(評価差額)100 |
(B社株式)1000 |
(純資産)700 |
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(のれん)200 |
|
B社の時価純資産が800であるのに対して、A社は1000相当の株式を発行してB社を取得したと考えられます。その差額が、連結仕訳上、200の「のれん」として計上されることになります。
以上のように、株式交換に対して個別会計上でどのような仕訳が行われたかを確認したうえで、必要な連結仕訳を考えるというスタンスが大切です。
本稿では、TOBなどを通じ、先行して株式の一部を保有していた会社を株式交換完全子会社にするケースなどには触れませんでした。まずは株式交換にかかる連結仕訳の基本的な仕組みを理解していただければと思います。
文:北川ワタル
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