「中小企業の後継者はこのように確保する」しっかり学ぶM&A基礎講座(12)

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日本政策金融公庫総合研究所が2016年2月に公表した「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」によると、中小企業経営者の約5割が自分の代で事業を廃止する予定であり、その理由として約3割が後継者確保の問題であると回答しています。

我が国経済を支える中小企業の事業承継を円滑に進めるためには後継者の確保という課題を避けては通れません。そこで今回は中小企業が後継者を確保するための方策について確認してみたいと思います。

事業承継で重要な後継者確保

事業承継は企業経営の全体を承継するものであり、それを構成する要素はおのずと広範なものになります。事業用の不動産や設備、預金や借入金などの金融商品、それらを包含するものとしての自社株など資産や負債の承継が中心的な要素となります。技術やノウハウ、取引先との関係、企業自体の信用など形のない知的資産もその対象といえます。こうした物の承継だけでなく、後継者の確保という人的な課題も重要な要素です。

後継者という言葉を使う場合、経営者の子息など親族承継者を指すことも多いといえますが、近年では親族外承継や第三者へのM&Aの割合も増えてきています。その背景には子どもの職業選択の意思を尊重する風潮や事業環境の変化なども影響していると考えられます。親族への承継、親族外承継のいずれの場合にも後継者の確保には長い時間や慎重な判断が要求されますので早めの対応が重要になります。

後継者の育成には一定の期間が必要

中小企業基盤整備機構が2011年3月に公表した「事業承継実態調査報告書」では、後継者の育成にかかる期間として半数以上の経営者が5年あるいは5年~10年の期間を考えていることが示されています。そのため、事業承継計画の策定には後継者の育成などの期間も十分に考慮されなければなりません。

後継者を育成する方法は社内での教育と社外での教育に分けて考えると良いでしょう。社内での教育としては様々な部門に異動させて企業全体の経験や知識を身に付ける方法が考えられます。また、早い段階で上級管理職や子会社の社長を経験させたり、取締役として経営会議や役員会に出席させたりすることでマネジメント経験を積ませることも重要になります。

一方で、社外での経験を積ませることも有用です。他の企業で経営や業務に関する新たな視点や知識を得られたり、人的ネットワークを構築したりすることに役立つことが考えられます。また、社外での教育では外部セミナーなどの活用も有用なものといえます。

例えば中小企業大学校では10カ月間におよぶ経営後継者研修が毎年開催されています。この研修は次世代経営者の育成を目的にしており、経営戦略、マーケティング、財務などの経営スキル、自社分析、ゼミナールなどから構成される全日制のカリキュラムが提供されています。また、都道府県の商工会議所や商工会でも経営革新塾などのセミナーが随時開催されていますので後継者の教育に活用したいところです。

親族外承継や第三者へのM&Aも

従来は「会社は長男に継がせる」という考え方が支配的でしたが、現在では役員や従業員など親族外への承継や第三者へのM&Aという手法が増加傾向にあります。親族への承継では生前贈与や相続に関する制度を活用しながら事業承継を進めることになりますが、親族外承継では後継者候補である役員や従業員が自社株の買取り資金を十分に準備できないというケースが想定されます。

こうしたMBO(役員による株式取得)やEBO(従業員による株式取得)における資金調達としては金融機関からの融資が考えられます。例えば経営承継円滑化法にもとづき都道府県知事の認定を受けた事業承継では日本政策金融公庫や信用保証協会の金融支援を受けられるという制度もあります。また、中小企業でも一定規模の事業承継になるとベンチャーキャピタルその他のファンドからMBO、EBO資金を調達できる可能性があります。

第三者へのM&Aになると適切な相手先の選定から条件交渉に至るまでさらなる検討課題が生じます。第三者へのM&Aにおいては事業評価、スキームの選定、バリュエーションなどに関する専門的な判断も必要となります。そのため、実績が豊富で信頼のできるM&A仲介会社をパートナーにすることが秘訣といえるでしょう。特にネットワークが充実した仲介会社に相談することで最適な後継者が見つかる可能性も高くなると考えられます。

文:北川 ワタル