司法書士が伝授する起業の法律知識(1)機関設計と資本金 

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 起業や会社経営をする人に欠かせないのが会社法などの法律知識だ。ただ法学部出身者でもない限り、「何から学べば…」と途方に暮れる人も多いだろう。新たにベンチャー企業を立ち上げる起業家が最低限知っておくべき法律知識について、司法書士の田中あゆ美氏が解説する。第1回は株式会社の機関設計と資本金について。

■機関設計はシンプルが良い

 起業家にとって会社を立ち上げる時の最初の関門は、会社の機関設計と会社の登記です。

 まずは、株式会社の機関設計について見ていくことにしましょう。

 株式会社の機関設計は、かなりのバリエーションが考えられます。しかしベンチャー企業の設立段階ではそれほど複雑な組織にすることはなく、シンプルな組織設計にすることが良いでしょう。従ってベンチャーの場合、株主総会と取締役のみ、あるいは、株主総会、取締役会と監査役という形式にすることが多いです。

 ではこの2つの機関設計の違い、及びメリットとデメリットは何でしょうか。

 取締役会を設置している会社のことを「取締役会設置会社」と呼びますが、この取締役会設置会社のメリットとしては、株主総会の決議事項のうち、一定事項を取締役会において決議できるようになることが挙げられます。株主総会の権限を一部、取締役会に移せるという訳です。

■株主多数なら取締役会設置を

 具体例としては、株式分割を取締役会の決議でできるようになったり、取締役の競業取引や利益相反取引を取締役会の決議でできるようになります。従って、株主が多数存在するような場合には、迅速な意思決定のために取締役会をはじめから設置しておくことが良いでしょう。

 また、株主提案権を行使できる株主を限定することもできます。株主提案権とは、会社に対して一定事項を株主総会の目的とすることを請求する権利のことです。取締役会非設置会社では、すべての株主が株主提案権を行使できますが、取締役会設置会社ではこれをある程度制限することができます。

 では反対に、デメリットは何でしょうか。

 会社法では取締役会は取締役3名以上から構成されると定められているため、監査役を含めると役員となる人物が最低4名必要であることになります。最初か人材が豊富な会社であれば良いですが、必ずしもすべての会社がそういうわけでもないのが実情です。

また、取締役会設置会社では、代表取締役および業務執行取締役として取締役会で選定された取締役は、3ヶ月に1度は取締役会にて職務執行状況を報告する義務があります。従って3ヶ月に1度は必ず取締役会を開催なければならず、事務的な負担は増加することになります。

■上場めざすなら会計監査人も必要



 さらに将来、新規株式公開IPO)などを目指す場合には、取締役会設置会社であることに加えて会計監査人を設置することが必須条件になってきます。

 取引所が上場会社に対して、会計監査人を設置し、当該会計監査人を金融商品取引法に基づき財務諸表等監査を行う公認会計士等として選任することを求めているため、上場申請会社も、上場する前にあらかじめ会計監査人を設置しておく必要があるからです。

 ただ会計監査人の設置にはコストがかかるため、創業期は①株主総会+取締役または②株主総会+取締役会+監査役という機関設計として、ベンチャーキャピタルなどから出資を受けるなどして本格的に上場を目指す段階で会計監査人を設置するというのが無難かと考えられます。

 株式会社の機関設計については、以上のようなことに鑑みて決めていくこととなります。

■資本金、少なすぎるのも多すぎるのも問題

 続いて、会社の資本金についても会社の設立時に決定する必要があります。現在会社法上、会社の資本金は1円でもよいことになっており、少額の資本金でも設立登記はできてしまいます。しかし、資本金が少なすぎると会社の信用力が問題となったり、簡単に債務超過に陥ってしまうため、ある程度の額にすることが望ましいと言えます。

 逆に、1億円より多い場合には、中小企業としての課税上の特例を受けることができなくなってしまったり、役員の変更登記費用が高くなることがあります。このように資本金が高すぎる場合もコストが余計にかかってしまうというデメリットが生じる可能性がありますので、資本金の決定には注意が必要です。


次回は会社の種類について解説します。

文:司法書士 田中 あゆ美
編集:M&A Online編集部

田中あゆ美(たなか・あゆみ)

司法書士。大阪司法書士会所属(登録番号4277号)。専門分野は起業支援、企業法務。2012年に司法書士試験、行政書士試験合格し、司法書士として登録後、実務経験を積む。「好きなこと、やりたいことを仕事に!」をモットーとし、起業家やベンチャー企業を、法律の専門家としてサポートする。顧問先企業多数。神戸大学法学部法律学科卒。法律資格予備校東京リーガルマインド専任講師。