地球から火星へ、宇宙技術で切り拓く新たな不動産市場の可能性

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Penetratorは不動産仲介の商習慣に一石を投じる(写真はイメージ)

日本において、ルールに則った不動産取引の始まりは、江戸時代に遡ると言われている。明治期以降に不動産取引に関わるさまざまな法律が整備され、現代に至るまで法改正を繰り返してきたが、不動産業界は古い商習慣が続いてきた業界のひとつでもある。

近年ではコロナ禍の影響もあり、不動産業界にもデジタル化の波が押し寄せてきており、業務効率化やユーザーの利便性を上げるためにDXを加速させるサービスを提供するスタートアップも次々と生まれている。しかし一方で、不動産仲介という領域においては、まだ人の力に頼っており、これまであまり変化が見られなかった。

この不動産仲介の商習慣にテクノロジーの力で風穴を開けようと挑むのが、株式会社Penetratorだ。

宇宙から地球の不動産取引を創造する

Penetratorは、JAXAの知的財産やJAXAの業務で得た知見を利用した事業を行い、JAXA所定の審査を経て認定された「JAXAベンチャー企業」だ。

同社の開発する「WHERE」は、衛星データと画像解析AIにより駐車場や畑、空き地などを検知し、法務局の登記データと照合して所有者を特定することで、不動産情報集約業務の負担を軽減することができるSaaSプロダクトだ。

従来は30時間ほどかかっていたリスト作成の時間を、わずか3分程度まで削減することが可能だという。さらに、収集された情報を基に、仲介業者を挟まずに、不動産オーナーと直接取引ができ、コストの削減に貢献することも特徴だ。

宇宙からAIで不動産取引を想像するWHERE

昨年から提供しているβ版は、すでに大手デベロッパーや不動産仲介の企業をはじめとした複数の企業が有償で利用しており、2024年3月に、正式にサービスをリリースした。システム利用料は年間600万円のトライアルサブスクリプションプランとなっている。

同社は、2023年12月に東大IPCを引受先とした第三者割当増資による資金調達を実施している。

代表取締役CEO 阿久津 岳生氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

膨大な時間を要していた不動産業務を効率化

―― 御社が解決に取り組む不動産業界の課題とは?

阿久津氏:不動産業務には、「物上げ業務」という作業があります。これは、現地に足を運び、取引可能な物件を見つけ、その後、法務局で地図と所有者情報を照らし合わせ、リスト化する作業です。

この作業はオーナー情報が手に入る一方で、非常に複雑で手間がかかります。そのため、不動産業界では、不動産仕入れ情報の収集において、今なお7割以上が人からの紹介といったアナログな手法に頼っています。

また、日本では年々空き家が増えており、今後さらに増加していくことが予想され、問題となっています。空き家が放置されると、倒壊や崩壊、ごみの不法投棄、放火などによる火災発生などさまざまな悪影響が生じます。そして、他業界と同様に人手不足も喫緊の課題となっています。

―― 御社が開発したWHEREの特徴について教えてください。

WHEREでは、宇宙からの衛星データを活用し、画像解析AIによって不動産情報を検知することが可能です。これにより、駐車場や畑、空き地などを検知することができます。さらに、法務局の登記データと照合して所有者を特定することもできます。

その結果、先述の「物上げ業務」にかかっていた時間を大幅に短縮することが可能となりました。また、仲介業者などを介さず、直接不動産業者にアプローチすることもできます。

また、コロナ禍の影響もあり、不動産取引におけるオンライン契約の解禁や電子地図のデータ公開など、さまざまな法改正が進んでいます。これら政府の動きもWHEREの活用の広がりの追い風になると考えています。

画像認識技術で土地の種類を特定し、APIにより土地の所有者を瞬時に表示
画像認識技術で土地の種類を特定し、APIにより土地の所有者を瞬時に表示(画像提供:Penetrator)

月のクレーター解析技術を不動産検知に応用

―― JAXAへはどのような経緯で入られたのでしょうか?

これまでに、不動産会社や建築会社など8社を起業した経験があります。チームメンバーには常に「成長するためには1つ上の視座を持つことが重要だ」と助言してきました。同時に、自分自身も新たなビジネスで世界を変えたいという思いを抱いていました。次に自身が持つべき視座を考えたときに「世界の一つ上の視座は宇宙」だと考えました。

このような経緯から、宇宙ビジネスについて知見を深めたいと思い、JAXA宇宙科学研究所の総研大の田中研究室へ研究生として挑戦を始めました。

―― WHEREの開発を始めようと思われたきっかけは?

以前、複数の衛星データやオープンデータを用いて世界の住みやすさを可視化するプロダクトを開発していました。このプロダクトはコンテストなどで賞を受賞しましたが、事業化までには至りませんでした。

新たな切り口を模索していたとき、JAXAの田中研究室で一緒だった今川(現・執行役員 EM)が行っていた衛星データとAIを活用して月のクレーターを解析する研究に興味を持ちました。

地球上でその技術を応用できないかと今川に相談したところ、彼が数週間でWHEREのプロトタイプを作成してくれ、その時から世界中の空き地や駐車場を探索することができていて、そこから本格的なWHEREの開発に至りました。

Penetratorメンバー
(写真中央)代表取締役CEO 阿久津 岳生氏、(写真右から二番目)共同創業者 田中 智氏、(右)執行役員 EM 今川 裕喜氏 (画像提供:Penetrator)

ボーダーレスな世界と火星不動産探査への挑戦

―― 御社のサービスが普及することにより、社会にどのような影響をもたらすと思いますか?

現在、水道局のデータを活用してメーターの使用状況と古家の情報を掛け合わせ、空き家を検知するシステムを開発中です。今後は、衰退産業や競合企業、行政との連携による不動産相続などの情報検知も進めていく予定です。

これら機能の拡充により、空き家や空き地の活用を促進し、空き家問題の解決に貢献できると考えています。さらに、地域活性化や地域の安全性の向上にもつながります。

将来的には、一般消費者もサービスを利用できるようにしていき、不動産所有者と購入希望者をマッチングする不動産のフリマのような世界が実現することを目指しています。

また、これらサービスを世界に広げていき、国境を超えて旅行するような感覚で移住することが可能になれば、ボーダーレスな社会の実現にもつながっていくと考えています。

Penetratorが取り組む課題
(画像提供:Penetrator)

―― 今後の長期的な展望を教えてください。

20年後には、火星の不動産探査を目指し、WHEREの事業で得た資金を活用したいと考えています。そのために10年後には、衛星データ×AIで世界の不動産市場を変革し、火星の不動産探査事業に向けて潤沢な資金の獲得を目指します。さらに逆算していくと、5年後にはWHEREの事業を大きくスケールさせ、IPOやM&Aなども目指す予定です。

私たちは、驚きや喜びの感覚である「『おっ!』を作る」という精神のもと、「スピード重視/失敗は挑戦の証/仕事は価値創造/知行合一/熱狂した人生を」という5つのバリューを大切にしながら、事業を推進しています。私たちのビジョンやカルチャーに共感してくださる方々にぜひ参画いただけたら嬉しいです。