第三者割当増資契約書に必要な「総数引受契約書」のサンプル書式

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第三者割当増資の際に必要な「総数引受契約書」とは?

M&Aでは「第三者割当増資」というスキームを利用するケースがあります。これは会社が新たに株式を発行して特定の第三者へ取得させる方法です。M&Aとして行う場合、売り手企業が株式を発行して買い手企業などの譲受人に取得させて資本提携します。買い手企業の株式取得割合を50%以上とすれば売り手企業と親子関係を作って経営に関与させられます。

完全に会社を売り渡してしまうのではなく、共同経営や親子関係を作ってグループ化するのに向いている方法です。

第三者割当増資の際に必要となる契約書は「総数引受契約書」といいます。具体的にどのような書式となっているのか、作成のポイントと共にみていきましょう。

1.総数引受契約書の書式

募集株式の総数引受契約書

株式会社〇〇(以下「甲」という)と〇〇株式会社(以下「乙」という)は、2019年〇月〇日付取締役会決議及び2019年〇月〇日付臨時株主総会決議にもとづく甲の募集株式の割当てと引受けにつき、以下のとおり合意する。

第1条 甲は乙に対し、下記要領にて発行する募集株式〇〇株(以下「本件募集株式」という)を割り当てる。引受会社は本契約をもって本件募集株式を引き受けることを約する。

1. 募集株式の種類及び数
  普通株式  〇〇株

2. 募集株式の割当方法
  割当てを受ける者 〇〇株式会社
  割り当てる募集株式の種類 普通株式
  割り当てる募集株式数 〇〇株   

3. 募集株式の払込金額
  1株につき 金〇円

4. 増加する資本金及び資本準備金に関する事項
  本契約によって増加する譲渡会社の資本金の額 1株につき金〇円
  増加する資本準備金の額  1株に月金〇円

5. 払込期日
  2019年〇月〇日

6. 払込みを取り扱う場所
  東京都〇〇区〇〇 〇丁目〇番〇号
  株式会社〇〇銀行 〇〇支店

第2条
甲及び乙は以下の事項を確認する。

1.甲の発行可能株式総数
2.その他定款に記載された事項

本契約成立を証して本書2通を作成し、甲乙署名または記名捺印の上、各1通を保有する。

2019年〇月〇日

甲:  東京都〇〇区〇〇 〇丁目〇番〇号
     株式会社〇〇
     代表者 代表取締役 〇〇〇〇     印

乙: 埼玉県〇〇市〇〇 〇丁目〇番〇号
     〇〇株式会社
     代表者 代表取締役  〇〇〇〇    印

2.総数引受契約書作成時の注意点

総数引受契約書を作成する際には、以下のような点に配慮しましょう。

2-1.申込書に書くべき事項を明記する

第三者割当増資を行うときには、まず株式の引受人が募集会社へ引受の申込みをしなければなりません。法律上、申込書には以下の事項を記載する必要があります(会社法203条2項)。

・引受人の氏名または名称
・住所
・引受けようとする募集株式の数

総数引受契約書にも、最低限上記の内容は入れておくべきです。

2-2.第三者割当増資の実施要領

契約書ですから予定している第三者割当増資の具体的な実施要領と引受対象の株式が特定されていなければなりません。

発行を予定している株式の種類や数、払込金額、本件増資によって増加する資本金と資本準備金の金額を契約書上で明らかにする必要があります。

2-3.払込方法

次に、募集株式の「対価の払込方法」も定めねばなりません。第三者増資の株式の対価支払い方法には「金銭による払込」と「現物出資」があります。現物出資とは、お金ではなく資産などの財物を引き渡す方法です。この契約書では金銭払込を前提にした記載としています。また「払込期日」も定めましょう。

2-4.取締役会決議、株主総会決議について

第三者割当増資を行う際には、募集会社は取締役会決議または株主総会特別決議を実施する必要があります。取締役会設置会社では取締役会決議が優先され、非公開会社では株主総会特別決議が必要です。

そこでは法律上、以下の内容を決議しなければなりません(会社法199条、201条)。

・募集株式数
・払込金額または算定方法
・現物出資する際にはその旨と払い込み財産の内容、価額
・金銭の払込みまたは財産給付の期日または期間
・増加する資本金及び資本準備金に関する事項

契約書でも日付を特定して取締役会決議が行われたことを明らかにしましょう。そして契約書に「取締役会議事録」を添付すべきです。

このひな形では、取締役会のみならず臨時株主総会でも第三者割当増資が行われることが了承された前提となっています。

第三者割当増資を行うと、既存の株主の株式保有比率が低下して既存の株主の反発を買うリスクがあります。スムーズにM&Aを進めるには、臨時株主総会を開いて第三者割当増資の必要性やメリットを説明し、株主の納得を得ておくのが望ましいのです。また登記申請をするとき、株主総会議事録も必要です。

3.払込後、ただちに「変更登記」をしよう

第三者割当増資を行ったら、会社の登記事項が変更されるので法務局で「変更登記」をしなければなりません。「対価支払い期間または払込後2週間以内」という期間制限があるので、早めに申請しましょう。

登記申請には以下の書類が必要です。

・変更登記申請書
・株主総会議事録
・取締役会議事録
・総数引受契約書
・株式申込書
・払込証明書
・資本金額の計上に関する証明書
・現物出資の場合、現物出資が行われたことを証する資料

第三者割当増資を利用するとスピーディに資金調達、資本提携や親子関係の構築を実現できるメリットがあります。今後の参考にしてみてください。

※上記はあくまでサンプルです。事案により内容は変わります。

文:福谷陽子(法律ライター)