M&Aの「株式移転計画書」サンプル書式と注意点

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株式移転計画書とは?   

M&Aの手法の1つに「株式移転」があります。これは、既存の会社株式を全部新設会社に引き継がせ、完全な親子関係を作る方法です。前回ご紹介した「株式交換」と似ていますが、株式移転の場合には「現時点では存在しない会社(=新しく設立される会社)」へと株式を引き継がせるので、既存の会社に株式を引き継がせる株式交換とは異なります。

株式移転を行う場合には、「株式移転計画書」を作成する必要があります。相手はまだ存在しない会社なので「契約書」にはなりません。

今回は、株式移転計画書の書式と書き方の注意点を解説していきます。


1.株式移転計画書の書式

  

株 式 移 転 計 画 書

  

株式会社OOOO(以下「甲」という)と株式会社OOOO(以下「乙」という)は、株式移転によって設立する株式会社△△△△(以下「設立会社」という)に対し、甲および乙の発行済み株式の全部を取得させて完全親会社とすること(以下「本件株式移転」という」に関し、以下の通り、株式移転計画書を作成する(以下「本計画」という)。

第1条(目的)
甲及び乙は、設立会社に対し、それぞれの株式を全部移転する。

第2条(設立会社)
設立会社の商号、目的、本店所在地、発行可能株式数は以下のとおりとする。定款で定める事項は、別紙「設立会社定款」に記載するとおりとする。

(1)商号 株式会社△△△△
(2)目的
(3)本店所在地
(4)発行可能株式数

第3条(役員)
設立会社の役員は、以下の通りとする。

設立時取締役 OOOOOOO
設立時監査役 OOOOOOO
設立時会計監査人〇〇〇〇〇〇〇

第4条(発行株式数)
設立会社は、普通株式OO株を発行する。

第5条(資本金及び準備金)
設立会社の資本金及び準備金の額は以下の通りとする。

(1)資本金 OOOOOO円
(2)資本準備金 OOOOOO円

第6条(株式の割当)
設立会社は、本件株式移転の効力発生日の前日に甲および乙の株主名簿に記載されている株主に対し、その所有する株式に替えて以下の割合によって設立会社の株式を割り当て交付する。

(1)甲の株主に対し、甲の株式1株につき設立会社の株式OO株
(2)乙の株主に対し、乙の株式1株につき設立会社の株式OO株

第7条(設立会社の成立日)
設立会社の登記を行うべき日を2019年〇月〇日とする(以下「設立会社の成立日」という)。ただし進行上の必要性その他の理由により、甲乙協議の上日程を変更可能とする。

第8条(会社財産の管理等)
甲及び乙は、本計画作成後設立会社の成立日に至るまで、善良なる管理者としての注意をもって業務執行及び財産管理、運営を行う。財産または権利義務に重大な影響を及ぼす行為をする場合、あらかじめ相手方による書面による同意を得た上で行うものとする。

第9条(本件株式移転の変更、中止)
本契約締結日から設立会社の成立日までの間に、天災地変や経済環境の激変その他の事情により、甲または乙の資産・経営状況に重要な変動が生じた場合、甲乙協議の上、本計画の内容を変更あるいは中止することができる。

第10条(本件株式移転の効力不発生)
本件株式移転は、次の各号いずれかの場合、効力を失う。

(1) 設立会社の成立日までの間に甲又は乙のいずれかにおいて、本件株式移転に関する株主総会による承認決議を得られなかった場合
(2) 設立会社の成立日までの間に国内外の法令に定める関係各庁の承認を得られなかった場合

第11条(協議事項)
本契約書に定めのない事項については、甲乙それぞれが誠実に協議して定める。

2019年〇月〇日


住所
株式会社〇〇〇〇
代表者代表取締役 〇〇〇〇 印


住所
株式会社〇〇〇〇
代表者代表取締役〇〇〇〇 印

次のページでは、株式移転計画書作成のポイントを解説します。

2.株式移転計画書の書き方と注意点

2-1.法律上必ず書かなければならない事項

株式移転計画書には、法律上必ず記載しなければならない法定記載事項があります。それは、以下のとおりです。

①設立会社の情報
株式移転を行う場合には、完全親会社を新設するので、その会社の目的や商号、本店所在地、定款記載事項、取締役・監査役などの役員などの組織に関する事項を定める必要があります。ただし定款記載事項については計画書にすべて列挙する必要はなく、別紙として添付するケースが多数です。本書式では2条に記載があります。

②株式移転に際し、子会社の株主に交付する親会社の株式数や算定方法、割当に関する事項
株式移転を行う際、子会社の株主には親会社の株式が割り当てられます。そのとき、何株が割り当てられるのか、あるいはその計算方法を明らかにしなければなりません。本計画書においては、6条にて計算方法が明記されています。

③設立会社の資本金及び準備金
株式移転の際には、設立会社の資本金及び準備金を記載する必要があります。本書式では5条に記載されています。

④設立会社の取締役などの役員の氏名
親会社となるべき設立会社の取締役などの役員については、氏名を明記する必要があります。本書式では3条に記載されています。


⑤子会社の株主に交付する社債などがある場合、種類や金額、内容、算定方法、割当に関する事項
普通株式以外に社債や新株予約権などによって対価を与える場合には、対価の種類や金額、内容や算定方法、割り当て方法などを明らかにする必要があります。本計画書では、これらを予定していないので記載していません。

⑥子会社の新株予約権者に交付する親会社の新株予約権などの内容、数量、算定方法や割当に関する事項
子会社がすでに新株予約権を発行していた場合、子会社への新株予約権に替えて親会社の新株予約権を割り当てます。その際、親会社の新株予約権をどのような方法で交付するのかを定めなければなりません。本書式では、こういった対応を予定していないので記載はありません。

2-2.定めておいた方が良い事項

以下で、定めておいた方が良い事由について解説を加えていきます。

設立会社の成立日
本書式では、設立会社の成立日を計画書にて定めています。これは、会社設立登記を行って設立会社をこの世に生み出すべき日です。ただし手続き進行上の必要性などによって日程を変更すべきケースでは、当事者の協議によって変更可能としています。本書式では7条に記載されています。

計画内容の変更や中止
株式移転計画は、どのような場合でも必ず実現しなければならないとすると負担が重くなりすぎます。そこで、天変地異や経済情勢の変動などの事情があれば、協議の上計画内容を変更したり中止したりできるものとしています。本書式では9条に記載されています。

また、株主総会で決議を得られなかった場合や関係各庁で承認を得られなかった場合にも効力を失うと確認しています。本書式では10条に記載されています。

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株式移転を利用するのは、ある程度以上規模の大きなM&Aのケースが多数です。親子関係創設のために株式移転を計画される際には、今回ご紹介した書式例を参考にしてみてください。

※ 上記はあくまでサンプルです。事案により内容は変わります。

文:福谷陽子(法律ライター)/編集:M&A Online編集部