KDDIの「親子上場」ヤフー、アスクルの騒動は活かされるか

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KDDI<9433>の連結子会社であるSupershipホールディングス(東京都港区)が、株式上場の準備を始めた。実現すればいわゆる親子上場となる。

KDDIは上場に関して「SupershipがKDDIグループ各社とのシナジー(相乗効果)を追求しながら、さらなる成長をすることで、グループ全体の成長基盤の拡大・強化につながるものと考えている」と当然ながら前向きだ。

だが、親子上場についてはヤフー<4689>とアスクル<2678>が上場企業の独立性や少数株主への配慮などを争点に騒動が起こったばかり。

2019年8月2日のアスクルの株主総会ではヤフーの反対でアスクルの岩田彰一郎社長の取締役再任が否決され、トップが交代した。

ヤフーはソフトバンク<9434>の子会社であり、ソフトバンクはソフトバンクグループ<9984>の子会社であるため、ヤフーとアスクルはソフトバンクグループの孫会社とひ孫会社の関係になる。

アスクルはヤフーの行為はソフトバンクやソフトバンクグループの意向を反映したものであるとしており、これに対しソフトバンクグループは今回のヤフーとアスクルの騒動について「孫個人は今回のような手段を講じる事について反対の意見を持っている」とのコメントを出し、子会社のソフトバンクはヤフーの行為に賛成する姿勢を示している。

こうしたソフトバンクグループ、ソフトバンク、ヤフーの対応に、ちぐはぐな感じを抱く人は少なくなさそうだ。上場企業の独立性や少数株主への配慮とはどのようなものなのか。

経済産業省がガイドラインを策定

経済産業省は2019年6月28日に「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」というタイトルでグループ経営のガイドラインを策定した。

このガイドラインの第6章に「上場子会社に関するガバナンスの在り方」を掲載し、基本的な考え方として「上場子会社においては、親会社と一般株主との間に利益相反リスクがあることを踏まえ、上場子会社としての独立した意思決定を担保するための実効的なガバナンス体制が構築されるべきである」としている。

アスクルはヤフーの行為がこの文言に「真っ向から反するものであると考えている」としていた。

ただ、ガイドラインについては経済産業省も「グループ経営の在り方は極めて多様であるため、本ガイドラインに記載の取組を一律に要請するものではない」としたうえで、「最適なグループガバナンスの在り方を検討する際、本ガイドラインが実務に即した指針として、その検討に資することを期待する」とし、強制力がないことを明記している。

実際、アスクルの株主総会ではヤフーの意思通り、岩田社長をはじめ、独立社外取締役の戸田一雄氏、宮田秀明氏、斉藤惇氏の3氏の取締役再任も否決された。

ではKDDIとSupershipホールディングスとの関係はどのようなものなのか。

スタートアップ企業がM&Aで成長

Supershipホールディングスはデジタル広告やデータコンサルティング、インターネットメディアなどの事業を展開する企業で、スタートアップ企業が合併や買収を繰り返して成長してきた。

始まりは2014年に設立したSyn.ホールディングス。早くも翌年の2015年にはスマートフォンアプリ向け動画広告配信サービスを提供しているアップベイダーと、スマートフォンに特化した販促ソリューション事業を展開しているSocketを子会社化。

同年にインターネットサービス事業を手がけるビットセラー、広告配信事業を手がけるスケールアウト、インターネット上でのメディア事業を手がけるnanapiの3社が合併しSupershipが誕生。2017年にはアップベイダーとSocketがSupershipと合併し、5社の合併会社となった。

その後もM&Aは続き、2017年にインタ―ネット広告におけるアドフラウド(不正広告)の検出・排除サービスを手がけるMomentumと、インターネット広告のプランニングや運用などを手がけるシナリオを子会社化した。

さらに2018年にデータ活用に関するコンサルティング事業を手がけるDATUM STUDIOを子会社化するとともに、社名をSyn.ホールディングスからSupershipホールディングスに変更した。

スマートフォンなどの通信事業を手がけるKDDIと、スマートフォンやインターネット関連のさまざまな事業を手がけるSupershipホールディングスには、KDDIがいうように確かにシナジーが見込める。

Supershipホールディングスの上場後は、独立性や少数株主への配慮が必要となる。独立性や少数株主への配慮によってどの程度シナジーが縮小するのか。上場によって得られる信頼性や知名度の向上といったメリットと、シナジーの縮小というデメリットが天秤にかけられることになる。

ヤフーとアスクルの騒動は活かされるだろうか。

文:M&A Online編集部