APIの取り引きに仮想通貨が使われると何が変わるか?

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仮想通貨を巡る動きが急だ。一時はビットコイン取引量の90%以上を占めていた中国元が、中国政府の規制により1%以下に落ち込んだことが明らかになったほか、米国でも米商品先物取引委員会が仮想通貨の取り引きに注意を呼びかけたことが伝えられている。一方で、仮想通貨やブロックチェーンの技術を使った企業による新しい取り組みが相次いでおり、政府と民間の綱引きが続いている状況だ。防戦気味の民間の3つの新しい動きを追ってみると…。

API取引所での売買を仮想通貨で実施

AOSテクノロジ-ズ(東京都港区)が、2018年3月に立ち上げた日本で初めてのAPI取引所である「APIbank.jp」で、有料ソフトの売買に仮想通貨が用いられることになった。

APIはアプリケーション・プログラミング・インターフェースの略で、OS(基本ソフト)やアプリケーションソフトなどの機能を、外部のアプリケーションから簡単に利用できるようにする技術。APIを用いれば、独自にプログラムを開発しなくて済むため、ソフトウェア開発が効率的になる。

API取引所には、現在1000個ほどAPIが登録されているが、今のところ有料APIの登録はまだない。今後APIBankでAPI購入者がトークン(モノやサービスと交換できる代替貨幣、仮想通貨のようなもの)を発行し、希望するAPI入手する仕組みを導入する計画だ。

API取引所内ではすべてトークンで売買を行うため、同社ではAPI取引所がICO(イニシャル・コイン・オファリング=新規仮想通貨公開)のプラットフォームになることを目指す。

ICOは新しく事業を立ち上げる際に、トークンや仮想通貨で出資を募る仕組みで、API取引所ではAPIの購入者がいくつかのAPIを組み合わせて開発する製品に、出資をするような形となる。

API取引所はソフト制作会社やAPIの開発者らが利用する施設。これまではAPIを使う際には、ソフト制作会社やAPI開発者と個々に交渉して、APIを一つひとつテストしなければならなかった。

これがAPI取引所ではAPIを一元管理しているため、個別の交渉やテストが不要となり、ソフトウェア開発の生産性が向上する。

同社ホームページより

さらにAPI取引所では従来の中央集中型のアプリケーションから急速にシフトが進んでいる分散型アプリケーション(Dapp)の開発を行うのに必要なAPIを積極的に提供し、仮想通貨技術の1つであるブロックチェーンベースのソフト開発を支援する。

企業が持つサービスやデータをAPIで公開することで、大きな市場が形成されるとみられており、市場規模は全世界で250兆円に達するとの予測もある。

オペラが仮想通貨ウォレット内蔵のブラウザーを投入

分散型アプリケーション(Dapp)と仮想通貨を結びつけた動きは他にもある。

ノルウェーのソフトウエア開発会社であるオペラが、スマートフォンでインターネットを利用する際に必要なソフトウェアであるブラウザーに、仮想通貨を保管する場所であるウォレットを内蔵した新しい製品を開発した。

グーグルが開発したモバイル用のOS(基本ソフト)であるアンドロイド向けで、このブラウザーを使えば新たなソフトを立ち上げずに仮想通貨の送受信ができるようになる。

新しいブラウザーソフトは分散型アプリケーション(Dapp)であり、この機能によってイーサリアムネットワーク上に構築されている分散型アプリケーションに簡単にアクセスできるようになる。

イーサリアムネットワークは仮想通貨のイーサリアムの促進を目的に構築されたシステムで、2017年にイーサリアムネットワーク上で開発された分散型アプリケーションは1000個を超え、発行されたトークン(モノやサービスと交換できる代替貨幣、仮想通貨のようなもの)は700種以上になったという。

メジャーなスマートフォン用のブラウザーに仮想通貨ウォレット機能が付加されたことで、スマートフォンを使った新しい仮想通貨サービスの開発が期待できる。

一方、仮想通貨を保管する場所であるウォレットとしては、仮想通貨交換業者が運営する取引所がある。ただ、取引所の場合は2018年1月に580億円分もの仮想通貨ネムの不正流出事件を起したコインチェックのように、外部からのハッキングのリスクがある。

これに対しウェッブ上に仮想通貨を保管するサービスや、今回のようにスマートフォンの中に仮想通貨を保管するなどの方法の方がハッキングなどのリスクは減る。

日常的に使用しているスマートフォンで安全に仮想通貨が利用できるようになれば、利用するユーザーは確実に増えるはず。さらに、政府による仮想通貨の監視が強化されれば、不正なども減り一層安心感が高まる。

スマートフォンユーザーと仮想通貨の接点は増えていきそうだ。

仮想通貨交換業 撤退の一方で参入も

金融庁の仮想通貨交換業者への規制強化に伴い、みなし業者の廃業が相次ぐ中、7月に入って大手企業による仮想通貨交換業を巡る動きが活発化してきた。

SBIホールディングス<8473>は7月17日から個人を対象に新規口座開設の受付を始めた。同社の完全子会社で仮想通貨交換業者のSBIバーチャル・カレンシーズが、2018年6月4日に仮想通貨の現物取引サービス「VCTRADE」を正式に立ち上げたのを機に、業容拡大に乗り出したものだ。

取り扱いの仮想通貨はリップル、ビットコイン、ビットコインキャッシュなど。取引時間は午前7時から翌日の午前6時まで。取引手数料は無料だが、出金手数料は必要。決済通貨は日本円。

SBIホールディングスは2017年9月に仮想通貨交換業の登録を完了し、先行予約で2万人強が口座を開設している。

同社ホームページより

LINE<3938>は2018年7月16日に、仮想通貨交換所BITBOX(ビットボックス)を立ち上げた。サービスは仮想通貨同士の交換のみで、仮想通貨と法定通貨との交換はできない。また、サービスは全世界で展開するが、日本と米国では当面事業を行わない。

取引される仮想通貨はビットコイン、イーサリアム、ビットコインキャッシュ、ライトコインなど30種類で、利用可能な言語は日本語を除く英語、韓国語、中国語など15カ国語。取引手数料は0.1%。

LINEは2018年1月10日に仮想通貨事業を担当する「LINEフィナンシャル」を設立し、仮想通貨の交換や取引のほか、ローン、保険といった金融商品を扱えるようにしていた。

ヤフー<4689>は2018年秋にも仮想通貨交換業務に参入する。2018年4月13日に、同社の完全子会社であるZコーポレーションを介して、仮想通貨交換業者のビットアルゴ取引所東京に資本参加することを決めており、現在準備中。

仮想通貨は各国政府による規制や注意喚起などによるブレーキがかかる一方、新規仮想通貨の発行や取引交換業への参入、新たなサービスの開発などアクセルを踏み込む動きも表面化している。どういう方向で落ち着くのか。速い動きに注意が必要だ。

文:M&A Online編集部