2021年1月にしゃぶしゃぶ店を運営する木曽路<8160>が、焼肉店を運営する大将軍(千葉市)の全株を取得して完全子会社化しました。コロナ禍で宴会需要が消失し、大打撃を受けた木曽路がアフターコロナに向けて焼肉業態の強化を図ったのです。
このM&Aを仕掛けたのがPEファンド、刈田・アンド・カンパニー(東京都港区)。同社は2021年9月に再上場したシンプレクス・ホールディングス<4373>のMBO(経営陣による買収)やIPO(新規株式公開)支援にも携わっていました。
日本の独立系投資ファンド、刈田・アンド・カンパニーとはどのような会社なのでしょうか?この記事では以下の情報が得られます。
・刈田・アンド・カンパニーの概要
・投資先一覧
刈田・アンド・カンパニーは2022年12月に飲食店の覆面調査サービス「ファンくる」を運営するROI(東京都千代田区)の全株式を、日本アジア投資<8518>のPEファンドであるWMパートナーズ(東京都千代田区)に譲渡しました。このM&Aを行った後、ROIの経営陣と従業員はWMパートナーズから株式の一部を譲受。投資ファンドからの支援を受けつつ、経営陣と従業員が出資をするMEBOの形をとりながら会社の経営を行います。
刈田・アンド・カンパニーは2017年7月にROIの筆頭株主だった創業者・恵島良太郎氏から株式を取得していました。出資開始時のモニター会員数は80万人。エグジット時は130万人以上まで増加していました。
刈田・アンド・カンパニーは2007年に設立された投資ファンドで、国内の中堅企業を中心に企業価値向上支援を行っています。
代表は刈田直文氏。1985年3月に一橋大学経済学部を卒業し、富士銀行(現:みずほ銀行)に入行しました。国内業務部門を歴任した後、1999年11月にレストランを運営するひらまつ<2764>の代表取締役副社長に就任。その時に代表取締役社長だった平松博利氏とともに会社の成長に尽力しました。
ひらまつは2003年3月にジャスダックに上場しています。当時、業務が属人的で分業化やシステム化を進めづらい高級レストランの上場は珍しく、刈田氏は難易度の高い管理業務全般を担っていました。IPOの一番の功労者と言えます。刈田氏は各管理部門の適任者が適切に配置され、業務遂行が円滑に進む体制が整ったことを理由に2007年5月に社外取締役となり、経営の第一線から退きました。
2007年5月に刈田・アンド・カンパニーを設立しました。設立当初はターゲットファンド(特定の案件に特化したファンド)を組成・運用していましたが、2020年1月にブラインドプール型ファンド(案件を特定せずに出資を先に募る形式のファンド)「K&C1号投資事業有限責任組合」を組成しました。
政府系金融機関、銀行、信用金庫などを中心に91億円を集めています。ブラインドプール型の1号ファンドでは、大企業のカーブアウトや上場企業の資本政策の見直し、事業承継まで幅広い案件への投資を見込んでいます。すでにおせち料理のシンセンフードテック(大阪市)や、桃太郎ジーンズを販売するジャパンブルー(岡山県倉敷市)をこのファンドを通して買収しています。
当初、刈田・アンド・カンパニーは別の投資ファンドとの共同出資を多く手がけていました。2011年に非上場化を果たしたワークスアプリケーションズ(東京都千代田区)はポラリス・キャピタル・グループ(東京都中央区)と、シンプレクス・ホールディングスの非上場化は米国大手投資ファンド、カーライル・グループとの共同プロジェクトでした。
■投資先一覧
企業名 | 業種 | 投資時期 | エグジット | 投資形態 |
ワークスアプリケーションズ | 大手企業向けERPパッケージソフト「COMPANY」の開発・販売・サポート | 2011年4月 | 2017年10月(ACAグループに株式を譲渡) | 創業経営陣による非公開化MBO |
シンプレクス・ホールディングス | 金融機関の収益業務に関わるシステムのコンサルティング業務、システム開発業務、保守・運用業務 | 2013年8月 | 2021年9月(東京証券取引所第一部への再上場) | 創業経営陣による非公開化MBO |
関東運輸 | 特定貨物運送業および倉庫業(主に冷凍・チルド食品などの保管、幹線輸送、集配送業務) | 2015年6月 | 2020年8月(セイノーホールディングス株式会社へ全株式を譲渡) | セカンダリー・バイアウト |
大将軍 | 焼き肉店運営・惣菜加工販売 | 2016年3月 | 2021年1月(株式会社木曽路へ全株式を譲渡) | 事業承継 |
ROI | 覆面調査・コンサルティング事業 | 2017年7月 | 2022年12月(WMパートナーズ株式会社に全株式を譲渡) | 事業承継 |
シンセンフードテック | お節製造事業、水産加工品事業 | 2021年11月 | - | 事業承継 |
ジャパンブルー | ジーンズ製品の製造・販売及び国内外でのテキスタイル販売 | 2022年1月 | - | 事業承継 |
東栄技工 | 陸上機械部品及び船舶用部品の溶接補修 | 2022年5月 | - | 事業承継 |
※公式ホームページの情報をもとに筆者作成
木曽路の焼肉店大将軍の買収は、コロナ禍を象徴するM&Aでした。
年末年始を中心に宴会需要を獲得していた木曽路は、宴会消失の影響を強く受けました。2021年3月期の売上高は310億円で、前期の7割の水準となりました。この期に42億円の営業赤字を出しています。
コロナ禍で飲食業界が大混乱に陥る中で強さを見せつけたのが焼肉店。日本フードサービス協会の調査によると、2022年11月の国内の焼肉店の売上高は2019年同月比で102.0%。売リ上げはコロナ前を上回っています。
これは、居酒屋で仕事仲間とともに頻繁に行われていた宴会が消失し、家族や友人などで会食をする機会が増えたためと考えられます。特に、物語コーポレーション<3097>が運営する「焼肉きんぐ」に代表されるような郊外型焼肉店に人気が集中しています。同様の理由により、回転ずし店も好調。2022年11月は2019年比で売上高が103.5%でした。
刈田・アンド・カンパニーが出資していた大将軍は、千葉県を中心にロードサイド型の焼肉店を運営していました。出資した時期は2016年3月。日本政策投資銀行(東京都千代田区)が出資をし、刈田・アンドカンパニーが運営するファンド刈田・DSG投資事業有限責任組合と、千葉銀行(千葉市)の子会社で投資事業を行うちばぎんキャピタル(千葉市)の共同出資案件でした。出資後は新規出店や既存店のリニューアルなどを行っています。
出資から4年ほどで新型コロナウイルス感染拡大が始まりました。エグジットに相応しいタイミングでもあり、絶好のチャンスでした。
木曽路の2023年3月期第2四半期の部門別売上高を見ると、焼肉事業の回復が顕著。2022年4-9月の売上高は38億6,400万円で、前年同期間比52.3%も増加しています。一方、主力のしゃぶしゃぶの売上高は32.5%の増加に留まりました。
木曽路は2023年3月期の通期売上高を494億円と予想しています。予想通りに着地すると、コロナ前の2020年3月期の売上高を12.5%上回ります。営業利益は6億5,000万円を見込んでおり、黒字転換の予想です。回復の一因にM&Aによる焼肉業態の強化があることは間違いありません。
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