神奈川県の第二地銀である神奈川銀行は、従業員350人ほどで30店強の店舗網を持っている。だが、県外に支店はない。その意味では、完全な地域密着の金融機関の1つである。
創業は1953(昭和28)年8月、神奈川相互銀行という名称だった。多くの相互銀行が無尽組織としてスタートし、1951年6月の相互銀行法の施行に伴って相互銀行に転換したが、神奈川銀行は相互銀行法が施行された後の開業であった。
その後、1989年4月に普通銀行に転換し、神奈川銀行となる。相互銀行としての開業から約70年、目立ったM&Aはなく、現在も神奈川銀行、通称「かなぎん」として営業する。
実は金融史の中に神奈川銀行という名称の金融機関がもう1つあった。1896(明治29)年から1923(大正12)年まで営業していた金融機関だ。この神奈川銀行は1923年にM&Aのターゲットとなって以降、華々しい発展を遂げる。
合併した相手は安田財閥の保善銀行。同行は安田の金融系財閥傘下の11行を統合するため1923年7月に開業し、半年ほど後の同年11月に安田銀行と改称。その後、全国の地銀や商業銀行、信託銀行などとM&Aを展開して富士銀行となる。さらに第一勧銀や興銀と合併し、みずほ銀行となった。
話を現在の神奈川銀行に戻そう。生粋の地域密着の営業スタイルをとってきた神奈川銀行は、2023年に大きなM&Aを行った。県内はもちろん全国レベルで見ても大手地銀の一角をなす横浜銀行の傘下に入り、連結子会社となったのである。
横浜銀行は2016年、東日本銀行と株式移転により経営統合しコンコルディア・フィナンシャルグループという金融持株会社を設立した。2023年からは、神奈川銀行もその傘下に加わったことになる。
この連結子会社化は当然ながら横浜銀行主導で、神奈川銀行に対してTOBを実施している。いっぺんに100%の株式を買い付けたわけではないが、横浜銀行は残った株式をスクイーズアウトという、いわば強制買い取りの手法により買い付け、2023年中に100%の株式を取得して連結子会社化した。
この対応により、神奈川県の金融は1県1グループ体制となった。横浜銀行としては県下の中小企業との取引基盤の強化につながる。
現時点では連結子会社化であり、合併はしていないが、今後は横浜銀行による吸収合併の話が出てくるかもしれない。他県の地銀は金融庁主導の地銀再編のさなか、どのような対応を示すか注視している。横浜銀行の対応は、その“お手本”を示したと言えなくもない。
帝国データバンクの神奈川県メインバンク動向調査(2023)で県内企業のメインバンク動向を見ると、最近は信用金庫のシェアが増加傾向にあるという。地銀再編が信金のシェア拡大の後押しをしているとも言えるだろう。
文・菱田 秀則(ライター)
【M&A Online 無料会員登録のご案内】
6000本超のM&A関連コラム読み放題!! M&Aデータベースが使い放題!!
登録無料、会員登録はここをクリック