日本では男性の会計士が全体の8割を占め、女性の割合は2割ほどと少ない。男女とも同じ内容をこなすことが求められる世界で、奮闘する3人の女性会計士に、会計士を目指したきっかけや会計士の実態、M&Aとのかかわり、これから会計士を目指す人へのアドバイスなどを聞いた。
3人はいずれも2018年4月に新しい道を選択し、将来の展開を摸索しているところ。独立を果たした細田聖子公認会計士事務所の細田聖子さん、税理士法人のCRESTに所属した鈴木晴子さん、京都大学の大学院で勉強を再開した吉田由佳さんの3人は、口をそろえて「勉強はきついが、会計士の資格を持つと女性として自由な生き方ができる」と後に続く若者にエールを送る。
-日本で女性会計士が少ないのはなぜだとお考えですか。
細田 「私は一時期、中国で会計士をしていましたが、中国では会計士は女性の職業とされています。なぜ中国では会計士が女性の職業なのか、中国の会計士に聞いたところ、重い物を持たなくていいからという答えでした」
吉田 「確かに。昔は結構重い物を持っていましたが、最近は軽くなってきましたね」
鈴木 「出張の時などは重い荷物を持って行きましたが、今はペーパーレスで紙が減ってきたので、かなり軽くなってきました」
細田 「中国で監査をやった経験がありますが、確かに重い物を持って行った経験がないですね」
-重い物を持たなくていいということなら、これからは日本でも女性の会計士が増えそうですか。
吉田 「日本の大学では商学部や経済学部に入学する女性の割合は2~3割ほど。その割合がそのまま会計士の割合になっているのではないでしょうか。数字を扱うため数学のイメージがあって敬遠されているのではないでしょうか。理系のイメージもあるようですしね」
-なるほど、もともとの人数が少ないわけですね。みなさん商学部や経済学部出身ですか。
細田 「私は高校まで理系で、大学では教育学部でしたが、公認会計士試験の選択科目では統計学を選択しました」
鈴木、吉田 「私たちは商学部と経済学部です」
吉田 「細田さんの経歴は会計士としては珍しいですね」
細田 「私は2012年に会計士として登録したのですが、少し変わっています。中国で日本語教師をしたあと2回転職し、OLをしていました。コンサルティングの会社で会計士の案件を担当することになり、初めて会計士という職業に出合った。これがきっかけで日本の会計士を目指そうという気になりました。最初は上海で働きながら、2年くらい勉強していましたが、試験に受かりませんでしたので、会社をやめて帰国し、予備校に通い始めました。2年後の2010年に合格しました」
「会計士として登録した2012年から働き始めた中国の会計士事務所では、夜中の2時、3時まで明かりがついていて、みんな仕事をしていました。ここを1年で転職し、以前OLをやっていた香港の会社に入社しました。1年ほどして、同じ会社の上海事務所に移り、今年4月末まで大阪の会計事務所で働いていました。ここでも中国の会社を担当していました。5月に独立して島根県の実家で会計士事務所を開きました」
-吉田さんはどのような経緯で会計士を目指したのですか。
吉田 「私は実家が自営業なので経理とか税務などを幅広く知ってサポートしたいという気があり、学生時代から会計士を目指しました」
-鈴木さんはいかがですか。
鈴木 「私は大学を卒業して一般の会社で3年勤めていました。働いてみると、思っていたのとは違っていました。また不満を持って働き続けている先輩を見ていると資格を取ってキャリアアップしたいという気持ちになりました。もう少しいい働き方をしたいなと思ったからです。そこで、3年勤めていた会社をやめて6 年間勉強して資格を取りました。会社をやめてしまうと、もう受かるまでやるしかありません。予備校で何年も頑張るのはそう難しくありません。周りにそういう人がたくさんいますので」
-仕事はどのような内容ですか。
吉田 「私は会計士になって8年目です。東京で4年、大阪で4年働きました。東京ではマザーズやJASDAQ上場やベンチャー企業の監査、不動産ファンド会社の財務経理も経験しました。その後、故郷の関西にUターンし、関西の上場企業監査を中心に経験しました。関西では出張が多かったので、全国の企業に往査することができました。」
鈴木 「私は5年間会計士をやっています。2014年に勤めていた監査法人をやめましたが、それまでは繁忙期は土、日も出勤していました。終電がなくなりタクシーで帰ることもありました。繁忙期以外でも平日は半分くらいが終電でした。体力的にきついことも多かったですが、監査チームメンバーの仲も良く、また、優秀な先輩や同期から学ぶことも多く、やりがいを持って楽しく働くことができました」
「この会社に入社したのは2008年でしたが、時間が経つほどに仕事の忙しさがひどくなっていきました。当時、男性の上司から言われたのは、マネージャーとかパートナーに昇格する女性の数が少ない。出産だとか体力的な問題で仕事を継続することを断念する女性が多い、とのことでした。ただ今は働き方改革の流れの中で、残業抑制もなされています。パソコンの電源が夜9時に切れ、土、日は一切使えないというところもあるようです」
-どのような将来計画をお持ちですか。
細田 「ちょっとした集まりやサークルに大変興味があって、いろんなところに参加しています。今、AI(人工知能)にすごく興味があって、先日エンジニア向けのセミナーに参加しました。これは趣味の世界ですが、こういった経験を重ねて、これからの自分の進む道を探ろうと思っています」
鈴木 「監査法人をやめた後、商工会議所に勤めました。売り上げを伸ばすといったような前向きな仕事がしたいと思ったからです。今年4月には、もう少し経営にかかわるような仕事がしたいと思い、今の税理士法人に所属しました。税務などの専門性を高めて独立するのか、また今病院の経営に携わっていますので、こちらの仕事を中心にするのか、今年1年間悩みたいと思っています」
吉田 「実家が飲食店なのでお客さんへのおもてなしについて相当たたき込まれました。監査の仕事は独立性の問題があり、それほどお客さんと近くなれないという矛盾が私の中にはありました。今の大学ではサービスだとか組織行動だとかいろんな分野の専門家が集まっていますので、一旦ここでリセットして勉強したいと思っています。将来的には経営者のそばで自分が何か価値を与えられる仕事、例えばCFO(最高財務責任者)とか、コンサルティングなどをしてみたいですね」
-M&Aについてはどのような経験をお持ちですか。
鈴木 「商工会議所の時に後継者がいなくて困っている企業がたくさんありました。M&Aとは縁遠い小さな企業でも対象になるのだなと感じました。これからはこういうケースが増えていくだろうなと思います」
吉田 「私の実家も後継者がいないので、そういう問題があります。また、M&Aが非常に多い企業の監査をしていたので買収子会社の往査もありました。これからは国内だけでなく、海外企業を対象にしたM&Aが多くなるでしょうが、そこで問題なるのがPMI(Post Merger Integrationの略。M&A成立後の統合プロセスを指す)ではないでしょうか。特に武田薬品とシャイアーの話は大学院の講義でも注目されています。」
細田 「私は直接かかわっていませんが、働いていた会社は買収の前に行うデューデリジェンスをやっていました。日系企業が中国の会社を買うケースがよくありましたので、法務、税務などを調査していました。中国の企業の場合は外に出ている数字と実態が違っている場合がありますので、よく調べる必要があります」
-最後に、これから会計士を目指す若い人たちにアドバイスをお願いします。
細田 「勉強は大変ですが、受かれば資格となり、それは一生モノなので、ぜひがんばってほしいですね。会計士になったからといって、人間の中身が変わるわけではありませんが、世間的に認知されますし、世界も広がります。会社に勤めていると、いずれ中間管理職的なポストに就かなくてはいけませんが、私はそれが苦手です。会計士だとずっと第一線にいることができます。これも魅力の1つではないでしょうか」
鈴木 「資格がないと経営に関わりたいと思ってもお呼びがかかりません。私は40代ですが、会計士であることでこの歳になっても、転職先があります。女性でも男性と同等に働けますし、働き方も選べます」
吉田 「経営に踏み込んだり、働き方が選べるので、お薦めですね。女性はライフスタイルによって選択肢が限られています。ですが資格があれば結婚とか出産などでいったん仕事から離れても、再度就職でき自由な生き方ができます。勉強はきついですが、これを乗り越えれば、一生選択肢を多く持って生きていけます。みんなが遊んでいる2 、3年を我慢して頑張ってほしいと思います。ライフスタイルに変化が伴いやすい女性だからこそ、選択肢の一つとして公認会計士資格をお奨めします」
聞き手:M&A Online編集部 松本亮一