【JR東日本・JR北海道】資本統合の可能性を探る(後編)

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MasaoTaira/iStock

JR旅客6社がすべて「優良企業」になったわけではない。本州3社と3島会社との間の経営格差は、この30年の間にむしろ拡大した。

一筋縄では解決しない経営格差の拡大

JR旅客6社のなかで、鉄道事業で利益を上げているのはJR東日本・東海・西日本の本州3社で、赤字幅が年々減少しているとはいえ、JR北海道・四国・九州の3島会社は赤字である。ただし、JR九州<9142>は、1997年に赤字を解消し、98年から営業利益を出している。

JR各社が誕生した1980年代後半は空前の好景気となり、本州3社の営業利益は増加した。3島会社の鉄道事業が苦戦することは織り込みずみであったが、問題は1990年代に入ってバブル経済が崩壊すると、低金利政策が実施され、3島会社に設定された経営安定基金が十分に機能しなくなったことである。低金利は本州3社には長期債務の利息を減らす方向に作用したが、3島会社には経営安定基金の運用益の減少をもたらし、本州3社と3島会社との間に大きな経営格差をもたらす要因の1つとなった。

JR各社は、営業損益、経常損益、当期利益を順調に増加させているようであるが、よくみると営業損益は本州3社が1987年度の4,387億円から93年度の8,625億円へと大幅に増やしているのに、3島会社では減少幅は縮小しているとはいえ毎年度、損失を出している。

3島会社の営業損失は、当初から想定されており、その損失額は経営安定基金が生み出す利子によって補填され、経常損益や当期利益では赤字転落をまぬがれていた。JR貨物は、営業損益を毎年度減らしているが、かろうじて赤字転落をまぬがれている。しかし、経常損益、当期利益では1993年度に赤字となった。

こうして、JR各社の経営状況をみると、本州3社は長期債務を低金利のものに借り換えたり、返済期限を早めて利子負担を減らしたりして株式の上場をめざし、1990年度から1割配当を実施した。一方、3島会社は苦戦しており、本州3社と3島会社の間に顕著な経営格差が広がっている。

廃線が続くJR北海道

とくに深刻なのはJR北海道である。2016年11月に単独では維持することが困難な線区として、営業キロのほぼ半分にあたる13線区・1237kmの路線の廃止を発表し、鉄道を持続的に維持していくための仕組みについて地域住民と相談をはじめたいと述べた。

北海道では、国鉄時代の1983年には約4000kmの路線があった。しかし、赤字路線が多くてはJR北海道の経営が成り立たたないということで、約1400kmの路線を廃止した。あれから三十数年、高速道路が整備され人口が激減するという環境変化があったとはいえ、北海道の鉄道網は、また同じ問題に直面しているのである。

一方、JR東日本<9020>は2002年6月、JR西日本<9021>は2004年3月、JR東海<9022>は2006年4月に、それぞれ完全民営化をはたした。また、JR九州<9142>も2016年4月に完全民営化を達成している。完全民営化されると、経営上の重要事項について国土交通大臣の認可を必要としなくなるので、経営の自主性が高まった。

JR東日本とJR北海道の資本統合の実現可能性

 前回紹介した麻生蔵相の発言にもどろう。「今のところ、2016年度のJR北海道の安全体制について、いろいろ弥縫策はしていますよ。しかし、これで完全に黒字になるかといえば、なかなかそうならんと思います。(略)もともと一緒だったんだから、黒字のJR東日本と北海道と合併するとか、JR四国と西日本を合併させるとか、双方で赤字の分を消して黒字で補うとか、いろんなアイデアは出るんだと思います。」(「朝日新聞デジタル」2017年2月28日)という発言である。

新函館北斗駅。JR北海道再生の起点となるか?(さっぽろっこ/写真AC)

 麻生蔵相は、JR北海道の経営危機を救うためには、JR東日本がJR北海道を合併し、JR北海道の赤字を埋め合わせればよい。かつては、ともに国鉄という経営体に属していたのであるから、合併するのも簡単であると考えているようである。

 しかし、ことはそれほど単純ではない。JR東日本は完全民営化を達成した株式会社であるから、冨田哲郎社長(当時)が言うように、赤字会社のJR北海道との合併に株主の賛成を得ることはできないであろう。したがって、JR東日本とJR北海道との合併は「言うは易く行うは難し」で、現実的にはかなり困難であると思われる。

 JR東日本は、販売施策の共通化、車両の共同開発、人材の派遣など、すでにJR北海道に対する支援を行っている。そうした実績を踏まえて、JR東日本は「地域密着が分割民営化の原点、JR北海道は自身の責任で再建するというのが国鉄改革の理念」としたうえで、「観光面での連携など、できることはサポートする」と述べたと伝えられている。JR東日本としては、JR北海道を合併することはできず、できる限りサポートをするというのが現実的な対応であると思われる。

JR北海道「函館〜札幌間」に観光列車を!

 それでは、どのようなサポートができるであろうか。観光面のサポートということで、私見を一つ述べてみたい。北海道新幹線が開業したとはいえ、まだ新函館北斗までで、札幌まで延長するのには数年を要する。そこで、新函館北斗から大沼公園・森・八雲・長万部・洞爺・伊達紋別・東室蘭・登別・苫小牧・南千歳を経て札幌にいたる路線に観光列車を走らせ、JR東日本の協力を得ながら東北新幹線・北海道新幹線と一体的に運行してはどうだろうか。現在は特急北斗などが運行しているが、JR九州が運行しているような観光列車を走らせるのである。この路線は、海岸線を走っているので大変眺めがよい。

駒ヶ岳を背景に走るキハ283系北斗(中村 昌寛/写真AC)

北陸新幹線が金沢まで延伸したときには、JR東日本、JR西日本が北陸新幹線と連絡するさまざまな観光列車を走らせ、観光客の誘致に努めてきた。東京~札幌間は航空機の利用者が圧倒的に多いからといってあきらめるのではなく、観光客を誘致する努力があってもよいのではないかと思う。

それはさておき、JR各社は発足後30年を経て独自の路線を歩んでいるかにみえる。しかし、JR各社は、それこそJR体制として、鉄道の全国ネットワークを維持するために互いに協力し合うことも重要である。鉄道は、国民生活や産業の発展にかかわる重要なインフラである。完全民営化を達成したJR東日本が、赤字のJR北海道を合併するのは難しいとしても、JR各社は協調しながら全国の鉄道ネットワークを維持する方策を考えていかなければならないのではないだろうか。

文:老川 慶喜(跡見学園女子大学教授・立教大学名誉教授)