全国事業承継推進会議、政府の旗振りでスタート

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事業承継問題、先送りしていませんか? 中小・小規模事業者の円滑な世代交代を支援しようと、中小企業庁と若手経営者4団体がタッグを組む「全国事業承継推進会議」が発足し、10月29日に第1回会合(キックオフイベント)を開いた。

安倍晋三首相はビデオメッセージを寄せ、「後継者不在で素晴らしいアイデアを持つ事業者の廃業が相次ぐ事態は日本経済の大きな損失であり、事業承継問題は待ったなしの課題だ。本日の会議をオールジャパンで事業承継問題に取り組む大きなスタートとし、このうねりを全国津々浦々に広げていきたい」と述べた。

来年、全国8ブロックを“行脚”へ

今後、2019年1月から3月にかけて北海度、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州の全国8ブロックで地方会議を開き、事業承継を促進するために当事者意識の醸成や支援機関(税理士、会計士、金融機関など)の連携強化を目指す。

全国事業承継推進会議は、中小企業庁のほか、全国商工会青年部連合会、日本商工会議所青年部、全国中小企業青年中央会、日本青年会議所が共催。同日のキックオフイベントには、中小企業経営者やその後継者、事業承継の支援に携わる地方銀行、信用金庫などの金融機関、弁護士、公認会計士、税理士ら専門家が集まった。

開会挨拶する磯﨑仁彦経産副大臣

会議の冒頭、磯﨑仁彦経済産業副大臣は「政府として今後10年間を事業承継の集中実施期間と位置づけ、切れ目のない支援を講じていく。M&A(合併・買収)を活用した第三者への事業承継について、誤った認識もみられる。事業者と支援機関が手をとり合って、(世代交代が)前に進むことを願っている」と強調した。

今後10年間に70歳を超える中小企業の経営者は約245万人に上ると予測されている。現在380万社ある中小企業の約3分の2の経営者が引退時期にさしかかり、さらに、このうちの約半数の127万人は後継者未定とされる。

経済産業省・中小企業庁のまとめによると、現状を放置した場合、中小企業の廃業の急増により、2025年ごろまでに約650万人の雇用、約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる可能性がある。

実際、中小企業の数も減少の一途だ。1999年の484万社からすでに約100万社減っている。減少の理由は本業の不振による廃業や倒産だけではない。これに拍車をかけているのが経営者の高齢化と後継者難だ。

円滑な世代交代へ事業承継税制を抜本拡充

こうした危機的状況の打開に向けて、政府は2025年までに集中的な支援に乗り出している。目玉の一つは事業承継税制の大幅緩和。2018年度から後継者が株式を引き継ぐ際、贈与税や相続税の支払いが実質ゼロとなった。これまで納税猶予となる対象株式の上限(従来は3分の2)が撤廃されると同時に、納税猶予割合も贈与税と同様に相続税も100%(従来は80%)とされた。

また、M&A(合併・買収)による承継を行いやすくするため、登録免許税、不動産取得税を軽減。親族や社内従業員に代わり、近年、M&Aを活用して第三者に承継するケースが増えつつあるのに対応した。

政策・施策にとどまらず 「事業承継の本質は承継する覚悟」

この日の推進会議には宮沢洋一自民党税制調査会長(元経産相)、西田実仁公明党税制調査会長が来賓として出席。宮沢会長は「相続税や贈与税を軽減するのが目的ではない。若い人に経営をバトンタッチし、新しいビジネスモデルを用意するのが目的。次代に日本をつないでほしい」と、後継者世代にエールを送った。

主催団体の一つ、全国商工会青年部連合会の越智俊之会長は「政策、施策だけではない何かが足りない、と思いませんか」と呼びかけたうえで、「事業承継の本質とは承継する覚悟。経営のすべての責任を負う覚悟にほかならない。今日を機に行動を起こそう」を後継者自身の意識の重要性を強調した。

続いて、日本商工会議所青年部の内田茂伸会長が後継者世代を代表して、「青年経営者の総意をもって、責任世代として同志を支え、背中を押し、未来に踏み出すことをここに表明する」と決意を述べた。

最後に、中小企業支援基盤整備機構の高田坦史理事長が支援機関の連携・取り組み強化へのコミットメントを発表し、会議を締めくくった。

文:M&A Online編集部