「大丸松坂屋カード」を一新、今後の成長戦略は? JFRカード・二之部守社長に聞く

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JFRカード社長の二之部守さん(東京・日本橋の東京オフィスで)

J.フロントリテイリング傘下で、大丸松坂屋カードを取り扱うJFRカード(大阪府高槻市)が攻勢を強めている。今年1月にカードのデザインを全面的にリニューアルし、「QIRA(キラ)」と名づけたポイントプログラムを導入するなど、新機軸を矢継ぎ早に打ち出している。百貨店事業の構造変革やポスト・コロナを見据え、事業戦略をどう進めるのか、二之部守社長に聞いた。

決済・金融事業をグループの中核に

-J.フロントリテイリンググループにおけるJFRカードの位置づけと期待される役割は。

クレジットを中心とする決済・金融事業を担うのが当社。そのミッションは大きく2つある。一つは決済を通じて大丸・松坂屋やパルコなどのお客様とつながる重要な役割であり、顧客政策の根幹に位置する。もう一つは決済・金融事業を将来的にグループにおける収益の柱に成長させること。決済の提供で得られた顧客との接点を生かし、さまざまな金融サービスの展開につなげていきたい。

-ご自身、JFRカードに転じて3年半となります。

カード事業については元々、グループの中核事業の一つにしたいとの思いがあった。しかし、百貨店の同業他社と比べ、事業規模や利益率を見た場合、遜色があった。J.フロントリテイリングの経営陣にとっても忸怩(じくじ)たるものがあった。一方で、百貨店を取り巻く状況はどんどん変化している。

そうした中、クレジットを中心にビジネスの絵をどう描き、施策を実施していくのか。グループ内に業界の経験を持つ十分な人材がいなかったことから、ご縁をいただくことになった。

カード刷新、メインは30~40代女性

-カード事業の変革に向け、どういうスタンスで臨んだのですか。

百貨店のお客様は50代以上が半分を占める。またオンラインによる買い物も大きな流れだ。5年後、10年後を見据え、若い人にもっとアピールすべきだと考えた。店頭に来ていただいているにもかかわらず、つかまえられていないお客様も少なくない。そこで30~40代の女性をメインターゲットにすることにした。

カードのデザインはもちろん、コミュニケーションツールとして、SNS(交流サイト)立ち上げ、Webサイト刷新、アプリ導入を進めた。その第一弾が「大丸松坂屋カード」の全面的なリニューアル。大丸は300年、松坂屋は400年の歩みを持つ。歴史のある百貨店ならではの安心感やホスピタリティーといった良い部分を残しながら、新しいお客様にアピールしたいとの思いを込めた。

-業界初の縦型デザインを採用した新カードは今年1月にお目見えしました。手ごたえはどうですか。

カードのデザインとともに、サービス内容を一新した。従来の大丸・松坂屋ポイントに加え、新たに「QIRA」ポイントを導入。大丸・松坂屋ではダブルでポイントが貯まるほか、大丸・松坂屋以外の利用でもQIRAポイントが貯まる。獲得したQIRAポイントの移行や交換もさまざまなメニューを用意した。

カード発行枚数は現在、約160万枚(約140万口座)。新カード導入に合わせて年会費を上げたことで20万枚ほど減ったが、これは想定内。既存会員の解約は思ったよりも少ない。幸い、カード1枚当たりの稼働率と利用率は改善しており、その点で手ごたえを感じている。

一方、新規会員についてはコロナ禍による一部施設の臨時休業や外出自粛などが続いていることから、時間がかかると思っている。Webやアプリなどのデジタル接点も積極的に活用しながら、新カードの認知度向上に根気よく取り組みたい。

保険・ローン・信託…リレーションシップを深化

-クレジットを起点に、具体的にはどのような金融サービスを展開するのですか。

新カードの導入を機に、お客様とのリレーションシップを深化させたい。クレジットはあくまで支払い手段であり、ツールの一つ。その先で、マネーや健康、家族の安心、老後の暮らしを支えるさまざまな生活提案を行いたい。具体的な商品でいえば、保険、ローン、信託などだ。保険は以前から販売しているが、今年2月からオリックス・クレジットと提携してカードローンの取り扱いを始めた。

例えば、親が認知症や介護状態になった場合。所有不動産の売却ができなくなる、銀行口座が凍結されるなど、資産が有効活用できなくなることがある。こうした問題を未然に防ぐための老後の資産管理対策のメニューの一つとして、8月から「家族信託」の提供も始めた。

持ち家をどう処分するか、といった住宅の悩み事も多い。相続、事業承継、節税などの問題もしかり。高齢社会の到来で、健康やマネーに関する心配は尽きない。情報提供とともに、相談・コンサルティングの体制をしっかりつくっていきたい。昨年11月にはその新拠点として「QIRAフィナンシャルラウンジ」を心斎橋パルコ(大阪市)にオープンした。

-メインターゲットと位置づける30~40代の女性に向けた施策については。

医療、美容、健康のための特典・サービスを充実させたい。ウェルビーイングと言われるように、単にきれいになるというだけでなく、生涯にわたって心身ともに健康的に楽しく暮らしたいというニーズにこたえていきたい。「マネー美人養成講座」と銘打った家計セミナーの開講もその一環。セミナーのライブ配信にも取り組んでいる。

東京オフィスを立ち上げ、50人規模に

-それにしても、東京オフィス(東京・日本橋)はスタートアップ企業を思わせる斬新さです。

実は私が3年半前、当社の経営を預かった時、東京に社員はゼロだった。会社を強くするには人材採用がカギとなるが、業界での知名度もなかった。そうした中でのスタートだったが、オフィスのあり方としては会社の戦略であったり、企業カルチャ―といったものを体現しているべきだとの考えを強く持っていた。

現在、総勢約270人の社員のうち、東京には50人ほど。百貨店からの出向者のほか、新規に採用した社員が多く含まれており、オフィスに興味を持ってもらったことが幸いしているのであれば喜ばしい。

-M&Aの取り組みはどうですか。

J.フロントグループ全体でビジネスモデルが変化しつつあり、戦略実行のうえでM&Aは有力な手立ての一つ。決済・金融事業の成長加速に向けて、そうしたオプション(選択肢)は常にテーブル上にあるといっていい。

◎二之部 守さん(にのべ・まもる)
1986年アメリカン・エクスプレス・インターナショナル日本支社に入社。2000年住銀アメックス・サービス副社長。2003年アメックス・カード・サービス社長。その後、リシュモン・ジャパン、ビザ・ワールドワイド・ジャパンなどの要職を経て、2018年3月にJFRカード社長兼J.フロントリテイリング執行役に就任。
1986年東京大学文学部卒。1991年ニューヨーク大学経営大学院修士課程修了。三重県出身。

聞き手:M&A Online編集部  黒岡 博明