緊急事態宣言解除は東京五輪開催の最終的な「ゴーサイン」

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東京都や大阪府など全国10都道府県に発令している緊急事態宣言の期限まで10日あまり。政府は来週後半に宣言解除について決定するが、期限通り6月20日に解除し、まん延防止等重点措置へ移行する方針という。

同措置の期限は東京五輪開幕日の7月23日までと一部で報道されており、明らかな「五輪シフト」。政府は「新型コロナウイルス感染症の拡大をもたらす」とする反対論を押し切って、五輪開催を最終決定することになりそうだ。

すでに「五輪中止」は時間切れ

すでに政府は五輪合宿での外国代表チーム受け入れや警備に当たる警察官などへのワクチン接種を進めており、中止を決断するには「時間切れ」とみられていた。国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長も6月10日の記者会見で「東京大会は完全に開催に向けた段階に入った」と、もはや後戻りができない段階にあることを示唆している。

菅義偉政権は東京五輪を中止した場合、秋までに実施する衆議院選挙での大敗は避けられないと判断したようだ。東京五輪を開催してコロナ感染が拡大した場合は、さらに厳しい選挙を強いられることになるだろう。ただ、大規模な感染拡大なしに五輪が閉幕すれば、菅政権の支持率上昇につながる望みはある。

五輪開催までに、まん延防止等重点措置で感染拡大を抑え込めるかどうかがカギになりそうだ。しかし、その行方は不透明といわざるを得ない。最大のリスクは、インドで変異したとされる新型コロナウイルスのデルタ株。日本でも感染者が出ている。

デルタ株はまだ完全に解析されていないが、英イングランド公衆衛生局(PHE)の推定値では同株に感染した場合の入院リスクは英国で変異したとされるアルファ株の2.6倍、集中治療室での治療が必要になるリスクは1.6倍に上るという。感染力についても初期株よりも強いといわれていたアルファ株よりも40%以上強いのではないかとみられている。

医療関係者の間では「デルタ株が感染爆発する前に、全国民へワクチンを2回接種できるかどうかがカギ」とみられている。20日に緊急事態宣言が解除されれば国民の危機感も薄れ、人流の増加により感染が再拡大する可能性が高い。

安全に開催するなら「東京封鎖」だが…

英国でもデルタ株の流行により、ワクチン未接種者の間で再び新規感染が拡大している。すでに新規感染のうちデルタ株が4分の3を占めているという。Our World in Data(6月11日時点)によると英国でのワクチン接種完了率は43.38%と高いが、それでもデルタ株の感染拡大を抑えきれない状況だ。

接種完了率が4.32%と英国の10分の1以下の日本で、デルタ株の感染拡大が起これば第5波の到来は避けられない。日本の一般国民でのワクチン接種は、65歳以上を中心に進んでいる。これはアルファ株は高齢者が重症化する可能性が高かったため。

一方、デルタ株は若年層でも重症化するケースが多数報告されている。移動頻度が高い65歳未満人口の大半がワクチン接種を受けていない五輪期間中に国内で同株の感染が広がれば、感染拡大を抑え込むのは極めて難しいだろう。

唯一、感染を抑え込んで大会を成功させる可能性があるとすれば、五輪終了まで過去3回の緊急事態宣言よりも厳しいロックダウン(都市封鎖)を実施し、人流を徹底的に抑え込むことだろう。だが、東京五輪のためのロックダウンとなると、1年以上に及ぶ「自粛疲れ」で国民の反発は大きくなる。

政府としては、より緩やかなまん延防止等重点措置で不要不急の外出を自粛するよう働きかけるのが精一杯だろう。もっとも、緊急事態宣言発令中にもかかわらず東京23区の繁華街では4週連続で増えており、その実効性は疑問だ。

文:M&A Online編集部