韓国への輸出管理批判は、米「対日経済制裁」の絶好の口実になる

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2019年7月4日、日本政府が「安全保障上の問題」を理由として、輸出管理の強化に踏み切った。一方、7月10日に韓国産業通商資源省は、2015年から2019年3月までに軍事技術へ転用可能な戦略物資の違法輸出が156件に上ったと発表。日本のマスメディアは「それ見たことか!」と規制強化を正当化している。しかし、事態はそう単純ではない。

日本からも軍事転用可能な物資の違法輸出が

実は日本からも、こうした戦略物資の違法輸出が発生しているからだ。2016年11月に経済産業省が公表した「安全保障貿易管理の現状と課題」によると、以下のような事例が報告されている。

・2014-2015年にかけてイラクとシリアにまたがる地域で活動するイスラム過激派組織「ISIL」の即席爆発装置(IED)に日本企業製のEC2信号用リレーやマイクロコントローラーが使われていた。

日本から輸出された部品がテロリストに利用された事例も(Photo by tookapic)

・2014年に日本製の炭素繊維7.2トンが中国からイランに向け出荷されたものの、イラン到着前に第三国で差し押さえられた。炭素繊維はウラン濃縮用の高性能遠心分離機に不可欠とされる。

そのほかにも高精度の工作機械や三次元測定機、磁気測定装置、無人ヘリコプターなどの輸出が違反事例として摘発されたという。

「安全保障貿易管理の現状と課題」でも指摘されているが、「民生技術が技術革新を主導するようになり、機微性の高い民生技術(機微技術)が影響を及ぼす軍事分野の範囲が拡大」しているのだ。

かつては軍事で用いられる最先端技術が、後になって一般企業や消費者向けの民生品へ流用されるのが当たり前だった。現在は民生品の技術が軍事に転用されるケースが増えている。つまり、企業も気づかないうちに民生品を軍事物資として輸出してしまう可能性が高まっているのだ。

安全保障上の問題で日本に圧力かけるトランプ政権

最大の懸念は日本が主張する「安全保障上の輸出管理」批判が、米国に利用されることだ。トランプ米政権は2019年7月の参議院選挙後に、貿易問題で日本に大幅な譲歩を求めてくる。日本政府との交渉が難航すれば、トランプ政権は日本が韓国に使った「安全保障上の輸出管理」をたてに懲罰的な関税引き上げなどの強硬策を打ち出しかねない。

日本政府は韓国への輸出規制強化を「世界貿易機関(WTO)で認められている安全保障上の問題によるもの」と言い切るが、同様の主張をトランプ政権から突きつけられかねないのだ。決して「絵空事」の杞憂ではない。2019年5月にドナルド・トランプ大統領は「自動車や部品の輸入により米国の安全保障が脅かされている」と断言している。

韓国政府は「日本は違法輸出の摘発件数さえ明らかにせず、一部の事例を選んで公開しているだけだ」としている。確かに「安全保障貿易管理の現状と課題」でも、事例を挙げているだけで違反件数は明らかにしていない。

日本は軍事産業で欠かせないセンサーをはじめとする精密電子部品や生産装置、高機能素材などで世界最高レベルにある。ひそかに持ち出されるなど、「水面下」では相当数の違反事例が存在する可能性も否定できない。そこを突かれれば、トランプ政権に絶好の「口実」を与えることになる。

「安全保障上の問題」をトランプ大統領(写真左)に利用される懸念も=右は杉山晋輔駐米大使(ホワイトハウスホームページより)

日本政府が「わが国と韓国では違反内容が違う」と主張したところで、攻勢に回ったトランプ政権が耳を貸すことはない。「われわれは日本が韓国に対して行ったことを、そのままやっただけだ」とツイートで返されるのが関の山だろう。日本経済にとっては「悩みのタネ」が、また一つ増えることになりそうだ。

文:M&A online編集部