日本メーカーがベンツの「低価格車の生産中止」を見習うべき理由

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「もう安いクルマは売りません!」独メルセデス・ベンツが低価格モデルの小型車「Aクラス」と「Bクラス」の生産販売を2025年に打ち切り、同価格帯の後継車種も投入しないと報じられた。独紙Handelsblattが伝えている。真偽のほどは定かではないが、信憑(しんぴょう)性はありそうだ。なぜなら低価格モデルを「作らない」のは、ベンツに限らずドイツ車の「お家芸」だからだ。

新モデル追加で既存モデルを値上げしていくドイツ車

例えば独フォルクスワーゲン(VW)の「ゴルフ」。1974年の登場時はVWの低価格モデルだったが、1975年に下位車の「ポロ」が登場。1998年に「ポロ」の下位車の「ルポ」、2011年には「ルポ」の下位車の「UP」が登場している。

VWは新規投入した下位車を「低価格モデル」と位置づけなかった。例えばトヨタ自動車は「カローラ」の下位車に「スターレット」や「ヤリス(旧ヴィッツ)」を発売した際に、車両価格を「カローラ」よりも低く設定した。

一方のVWは「ポロ」を、かつての「ゴルフ」と同価格帯で販売したのである。その一方で「ゴルフ」の新モデルは値上げした。「ルポ」はかつての「ポロ」、「ポロ」はかつての「ゴルフ」と同価格帯で販売し、「ゴルフ」は値上げ…という具合に次々と先代モデルを「上位車種」として値上げしたのである。

もちろんトヨタも「カローラ」の上位車種として「コロナ」や「マークⅡ」などを追加し、より高価格のモデルを展開した。他の日本車メーカーも、すべてこうした「ランクアップ戦略」を採用している。既存モデルを値上げしていくドイツ方式と、高額モデルを追加していく日本方式の違いだ。

「商品力」で勝っても「ブランド力」で負ける日本車

ドイツ方式は既存車種の価格帯とブランドイメージが、新モデル追加と共に向上していく。「ゴルフ」ユーザーが、ずっと同車を選び続けても客単価は上昇していくのだ。一方、「カローラ」ユーザーは「いつかはクラウン」とばかりに上位車種に乗り換えてくれない限り、客単価は上昇しない。

つまりドイツ車メーカーは新たな下位モデルの追加ごとに、既存車種を大幅値上げしているのだ。ベンツが「Aクラス」と「Bクラス」を廃止するのも、両クラスのユーザーをより高いモデルへ半ば強制的にシフトさせるのが狙いだ。

日本車が生産を中止する理由のほとんどは販売不振によるもの。しかし「Aクラス」はボディを大型化してプレミアム感を出したり、4ドアセダンも追加するなど「ベンツらしい手軽な入門車」として安定して売れている人気車だ。ベンツとしては低価格車だが、価格は427万円からと決して安くない。

ベンツは「Aクラス」「Bクラス」と同等の小型車市場で、電気自動車(EV)を展開すると見られている。「Aクラス」「Bクラス」のユーザーを、より高額なEVコンパクトカーへ誘導するためのモデル廃止である可能性が高そうだ。

日本車の国際競争力は高いが、「商品競争力」の域を出ていない。「ブランド競争力」ではドイツ車に近づくどころか逆に離されているのが現状だ。ドイツ車メーカーの「高く売る」マーケティング手法を、「商品競争力」で負けていない日本車メーカーは見習うべきだろう。

文:M&A Online編集部

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