東北6県のM&Aをめぐる勢力図がここへきて塗り替わりつつある。頭角を現しているのが岩手県。今年に入って同県の企業がかかわるM&Aは8件(上場企業の適時開示ベース)と2位の宮城県3件を引き離して断トツだ。岩手県躍進の理由は?
2022年のM&A件数は全国で270件(4月19日時点)。このうち東北6県の企業が買い手、売り手、対象(自社、子会社・事業がターゲット)のいずれかの立場でM&Aにかかわった件数を単純集計したところ、岩手8件、宮城3件、青森・福島各1件、秋田・山形各0件だった。
例えば、岩手県のA社(買い手)が埼玉県に本社を置くB社(売り手)の宮城県にある子会社(対象)を買収したケースは岩手県、埼玉県、宮城県をそれぞれ1件とし、逆に同じ県内ですべてが完結する場合は当該県の1件のみとカウントした。
東北6県のM&A動向をみると、経済規模の大きい宮城県が他県をリードし、福島県が続く形が定着。ところが、異変が起きたのは2021年。岩手県が前年の2件から10件に急増し、宮城県(8件)を抑えてトップに立ったのだ。この流れを受け、2022年も岩手県が大きくリードを保っている。
◎東北6県:県別のM&A推移(買い手、売り手、対象企業・事業の所在地を単純集計。2022年は4月19日時点)
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
青森県 | 1 | 1 | 1 | 1 |
岩手県 | 1 | 2 | 10 | 8 |
秋田県 | 3 | 0 | 1 | 0 |
宮城県 | 10 | 9 | 8 | 3 |
山形県 | 1 | 1 | 2 | 0 |
福島県 | 6 | 9 | 4 | 1 |
もっとも昨年、今年と岩手県が件数を伸ばしたのにはある理由がある。県内に本社を置く2社が件数を荒稼ぎしているためだ。
その1つがIoT(モノのインターネット)関連などのネクスグループ(花巻市、東証グロース)。昨年は事業見直しの一環として国内外の子会社を売却する5件のM&Aを手がけた。経営再建中の同社は3月に、第三者割当増資を実施して投資会社シークエッジ・ジャパン・ホールディングス(大阪府岸和田市)の傘下に入ったが、この1件を含めて今年も2件のM&Aにかかわっている。
もう1つは昨年6月に東京都内から岩手県に本社(登記上)を移転したエルテス(紫波町。東証グロース)。同社はデジタルリスク管理支援を主力とするが、今年に入ってすでに北海道の警備会社など3件の買収を手がけた。実は、本社移転先の紫波町は同社創業者の菅原貴弘社長の出身地で、町と連携して行政サービスのDX(デジタルトランスフォーメーション)化を推進中だ。
エルテスの本社移転で、岩手県内の上場企業は岩手銀行、東北銀行、北日本銀行、薬王堂ホールディングス(ドラッグストア)、ネクスグループと合わせて6社となった。このうち、東北銀行をめぐっては今年2月、荘内銀行(山形県鶴岡市)、北都銀行(秋田市)を傘下に持つフィデアホールディングス(仙台市)との経営統合の合意を解消する出来事があった。
文:M&A Online編集部