アニメ会社ゴンゾを再生させた投資ファンドいわかぜキャピタルとは

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いわかぜキャピタルの本社がある虎ノ門

2022年6月にいわかぜキャピタル(東京都港区)が、WAQ(大阪市)の株式70%を取得しました。WAQはアウトドア用品の企画・販売を行う会社で、野外でも快適に眠れるコット(簡易ベッド)がキャンパーに支持されています。

いわかぜキャピタルは、首都圏に焼肉店を展開する新和(東京都北区)や、「オリオン餃子」などを運営するダイニングファクトリー(栃木県宇都宮市)など、コロナ禍を迎える前は外食企業への投資を強めていましたが、最近ではヘアサロンチェーンなどへと方向性を転換しています。

いわかぜキャピタルの名を世間に広めたのが、2008年9月にアニメーション制作会社ゴンゾ(東京都杉並区)に出資をし、2016年7月にアサツーディ・ケイ(現:ADKホールディングス)に売却した案件です。

この記事では以下の情報が得られます。

・いわかぜキャピタルの投資先一覧
・ゴンゾのM&Aの詳細

名うてのハゲタカファンドで腕を磨く

いわかぜキャピタルは、2008年2月に設立されたPEファンド。2008年9月に1号ファンド「いわかぜ1号投資事業有限責任組合組成」を立ち上げました。2017年7月に2号ファンド「いわかぜ2号投資事業有限責任組合」を組成。新和やダイニングファクトリーへの出資を行っています。2021年9月に3号ファンド「いわかぜ3号投資事業有限責任組合」を立ち上げました。WAQは3号ファンドの案件です。

1号ファンドはゴンゾと、金型エンジニアリングのエイムス(さいたま市)の2社に出資をしました。このファンドは管理報酬を含むLPの投資総額に対して2.44倍のリターンを出し、8年間を通した年率平均リターン(IRR)は12.78%となりました。

「いわかぜ」の名前の由来は力士の岩風角太郎。岩風は小柄で機敏な動きを得意とし、粘り強い相撲で人気力士となりました。スピード感のある投資活動、粘り強い精神を大切にするとの思いが込められています。

代表取締役社長の植田兼司氏は、1974年に関西学院大学経済学部卒業後、東京海上火災保険(現:東京海上日動火災保険)に入社し、資産運用業務に携わりました。1999年にハゲタカファンドとして名高いリップルウッド・ホールディングス(ニューヨーク州)に移籍しました。リップルウッドは日本長期信用銀行(現:SBI新生銀行)、日本コロムビア(東京都港区)、フェニックスリゾート(宮崎市)、日本テレコム(後にソフトバンクに吸収合併)などの再生案件を数多く手がけています。

植田兼司氏はリップルウッドでマネージング・ディレクターなどとしてM&Aを手がけました。2005年5月には日本法人RHJインターナショナル・ジャパンの代表取締役を務めています。なお、リップルウッドは2013年に日本から撤退しています。

植田氏は自身が執筆するコラムの中で、ソーシング(案件探し)において以下のような考えを述べています。

「売上高、企業価値、営業利益、EBITDA(償却前営業利益)、EBITDA Multiple(企業価値の EBITDA に対する倍率)、事業内容、株価推移、大株主、役員構成・年齢、取引銀行、株価推移など 15~16 の定量・定性指標からスクリーニングし、最終的に「その会社に興味があるか」と「その会社は売りに出る可能性があるか」の二つを満たす会社を対象企業として選び出す。」(「不透明な金融情勢下での Private Equity Fund の戦略と実務」より抜粋した文章を一部変更)

また、ディールを進める上で重要なのは「時間をかけないこと」と「関係者を増やさないこと」であるとし、仲介者は基本的に使わないとしています。

投資先は以下の通りです。

■投資先一覧

会社名 事業内容 投資時期 エグジット
Oasis Garden 直営店13店舗、FC店舗8店舗(2022年4月現在)のヘアサロンチェーンを展開 2022年4月 -
WAQ キャンプ用品の企画・販売 2022年6月 -
新和 「Aging Beef」のブランドで熟成黒毛和牛の焼肉店等を首都圏を中心に16店舗運営 2017年9月 -
ダイニングファクトリー 栃木県宇都宮市を拠点に、複数の業態(オリオン餃子、焼肉モンスター、鳥放題、CAFETORA、九州男児等)で北関東、首都圏、東北地方を中心に展開 2018年11月 -
テキサスハンズ 福井県を中心に北陸地方や滋賀県で20数店舗を運営するカジュアルタイプの手作りピザ専門店 2019年6月 -
東北建設企画 宮城県仙台市を拠点に北海道から北関東までを主な営業エリアとするの大規模修繕請負会社 2020年7月 -
保安道路企画 横浜を拠点に道路保安用品の開発・製造・販売・リースなどを手がける 2020年12月 -
セブンシックス 最先端レーザー機器の輸出入販売 2021年3月 -
ゴンゾ アニメのプロデュース・制作スタジオ 2008年10月
エイムス 自動車ボディーの金型エンジニアリング会社 2008年11月

公式ホームページより筆者作成

評価損で巨額の赤字を計上、債務超過へ

ゴンゾは、NHKで放送されていた人気アニメ「ふしぎの海のナディア」のプロデューサーである村濱章司氏が中心となって立ち上げた有限会社ゴンゾが前身。村濱氏が社長を務めていました。当初はゲームソフト向けのCGアニメーションを手がけていました。

CG技術を活かして制作し、1998年にリリースしたOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)「青の6号」の完成度が高く、アニメファンの注目を集めます。

そのころ、ボストン・コンサルティング・グループ(マサチューセッツ州)で経営コンサルティングの経験を積み、社費でMBAを取得した石川真一郎氏が、日本のデジタルアニメに商機を見いだしていました。石川氏は1996年5月にアニメーションの企画制作を行うディジメーションを設立。1999年5月にボストン・コンサルティング・グループを退社すると、ディジメーションの代表取締役に就任しました。

ディジメーションは「サクラ大戦 轟華絢爛」の動画制作、「地球防衛企業ダイ・ガード」の制作協力などを行っていました。

ゴンゾは1999年5月に石川氏を迎えて持株会社ゴンゾ・ディジメーション・ホールディングを設立。ゴンゾとディメーションを子会社化しました。石川氏は翌年に代表取締役兼CEOに就任します。同社は2004年11月に東証マザーズ市場に上場しました。

その後も業績は堅調に推移しますが、2007年3月期に突如として25億9,400万円もの純損失を計上します。

ゴンゾは2005年2月に人気小説「マルドゥック・スクランブル」のアニメ化を発表していました。創立15周年の大型企画でしたが、プロジェクトの中止を決定。2007年3月期に特別損失13億3,500万円を計上します。また、DVDの販売不振で版権事業も営業損失となるなど、業績不振が鮮明になりました。

その後もアニメーション市況の悪化は進行します。リーマンショックを迎えた2008年3月期に37億5,200万円の巨額損失を計上しました。ゴンゾは北米で展開するアニメ作品を中心に出資をしていましたが、版権収入が計画を下回り、出資債権の評価損失を計上。版権事業が18億1,800万円の営業損失を出します。

また、グループが保有する固定資産や売掛債権などの資産を評価しなおし、会社全体での純損失額が37億5,200万円まで膨張しました。

ゴンゾは3期連続で巨額の赤字を計上し、2009年3月期に27億2,900万円の債務超過に転落します。いわかぜキャピタルは2008年9月に第三者割当増資を引き受け、筆頭株主となりました。2009年6月に上場廃止が決定。再建を進めます。

巨額の赤字を出していた当時、ゴンゾはアニメの制作会社だけでなく、ベンチャー投資やオンラインゲーム事業、モバイルサイト事業などを行う会社が数多くグループ傘下にありました。

いわかぜキャピタルが経営に参画するようになると、子会社やグループ会社の整理、売却、独立化を進めます。2010年3月期の売上高は前年同期の3分の1ほどに縮小しているものの、2,800万円の純利益を出しています。

2016年7月にアサツーディ・ケイが買収しました。アサツーディ・ケイは広告代理店の中でも「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」シリーズなどのアニメ部門に強みを持っています。ゴンゾの子会社化はシナジー効果が高いと判断しました。

ゴンゾを62億円で買収しましたが、買い付けが終了した後になって不適切会計処理が発覚。アサツーディ・ケイは、「売上計上、棚卸資産計上、貸倒引当金計上等の会計処理について、一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠していない可能性があり、従来の会計処理方法を修正することが適切であるとの結論に至りました」と発表します。

当初、損害補償請求を行う方針をとっていましたが、提訴に至る前に和解が成立しています。

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