絵本作家でお笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣氏が2021年9月8日に、自らが購入した「YS-11」の画像をインスタグラムで公開した。西野氏は2020年11月のテレビ番組で同機の購入を明らかにしていたが、実機画像の公開は初めて。同機は2019年9月、インターネットオークションの「ヤフオク!」に3500万円(送料別)のスタート価格で出品されたが、せり無しに購入できる「即決価格」の5000万円で落札されて話題になった。さて、この価格は高いのか?それとも安いのか?
「YS-11」は第2次世界大戦の敗戦で航空機製造を禁じられていた日本が、戦後初めて開発した国産旅客機。1965年4月に航空会社での運用が始まり、国内では2006年9月に旅客機としての運用を終了している。国内での運用が終わった「YS-11」は東南アジアへ中古機として輸出されたが、55年以上前の機体だけに多くは退役している。
2014年12月に国土交通省航空局が実施した公開入札では2007年4月に運用を停止した「YS-11」が、航空機の部品販売や整備を手がけるエアロラボ・インターナショナル(大阪府八尾市)に223万200円(税込)で落札された。同機は2009年と2010年にも入札を実施したが、応札がなかった。「YS-11」は知名度の割に実機の需要はなく、落札価格も相応とみていいだろう。
そう考えれば西野氏が落札した5000万円は運用可能な状態であったとはいえ、相場の20倍以上の「高値つかみ」だったことになる。実際、「ヤフオク!」でも1件の入札もないまま西野氏が即決価格で買い付けたため、他の応募者が「いくらなら買ったのか?」も分からない。
ただ、国土交通省航空局機の落札価格からみて、「ヤフオク!」で提示された3500万円というスタート価格自体が割高だった。西野氏の応募がなければ売れ残った可能性も十分にある。ちなみに「ヤフオク!」のスタート価格に当たる国土交通省航空局機の予定価格は20万2684円だった。
西野氏が支払うのは5000万円だけでは済まない。西野氏が落札した機体は2019年6月までスリランカの航空会社サクライ・アビエーションが運用していた機体で、あと10年は現役の旅客機として運用できるという。そのためには格納庫での整備費用が月30万~50万円、パイロットなどの人件費が同数百万円はかかる。
西野氏はテレビ番組で「東京からそう遠くない森の中に移して、主宰するオンラインサロンのメンバーが泊まるための宿にしたい」と語っており、航空機としての運用はしない模様だ。それでも日本までの移送と空港から設置場所までの輸送費が必要になる。
2021年7月にヨルダン川西岸でレストランとして再利用するため「ボーイング707」を購入したケースでは、イスラエル国内の移動にもかかわらず輸送費に2万ドル(約220万円)かかった。加えて「YS-11」を設置する土地の取得または借り受けの費用も必要になる。さらには宿舎仕様にするための内装費も必要で、総コストはかさみそうだ。
もっとも西野氏のブログによると、2019年に新作個展の開催費を集めるためのクラウドファンディングで1200万円の光る絵画が発売直後に売れるなど、クリエイターとしての人気も高い。「YS-11」の機体や内装に西野氏が絵を描けば、アート作品として高額販売も期待できる。
文:M&A Online編集部