ガザ地区を戦場とするハマスとイスラエルとの戦闘開始から7カ月が経過した。当初は国際世論も先制攻撃されたイスラエルに同情的だったが、戦線が拡大してパレスチナ側の死者が子供を含む約3万5000人に達したことから非難の声が上がっている。こうした状況下で、日本企業によるM&Aをはじめとしたイスラエル企業への投資は安全なのだろうか?
「イスラエル企業への投資はメリットがあり、ためらう必要はない」と、齊藤貢元駐イラン大使は断言する。日本記者クラブでの会見で、M&A Onlineの質問に答えた。イスラエル企業への投資で最も懸念されるのは、アラブ産油国による「アラブボイコット」だ。
これはアラブ連盟加盟国による対イスラエル経済制裁のこと。イスラエル企業と取り引きしている外国企業との商取引をボイコットし、イスラエルに経済的打撃を与えるための措置だ。
連盟のボイコット委員会が作成する企業リストに記載されると、連盟加盟国でのビジネスができなくなる。
政府や商社にとってはアラブ産の原油を取引できなくなったり、多額の資金が動くインフラ整備に関われなくなるなどのリスクがある。
半面、イスラエルのハイテク企業との取り引きは通信やDX(デジタルトランスフォーメーション)、AI(人工知能)はビジネスで欠かせない。日本企業にとってはアラブとイスラエルの「板ばさみ」となる格好だ。
しかし、齊藤氏は「アラブボイコットは心配しなくていい」と断言する。理由はアラブ諸国がイスラエル企業のハイテク技術を必要としているからだという。
「2020年8月にアラブ首長国連邦とイスラエルの間でアブラハム和平協定合意が結ばれたのも、アラブがイスラエルのハイテク技術を求めてのこと」(齊藤氏)。
あらゆる産業の現場でDXが必須となる中で、研究開発力に優れたイスラエル企業が開発した最先端の情報通信技術(ICT)は全産業で求められており、アラブ諸国としてもガザ地区を救うよりも優先度が高いというわけだ。
同合意の締結後にバーレーンやスーダン、モロッコなどがが相次いでイスラエルとの関係正常化に踏み出したことからも、イスラエル企業との取り引きに大きな魅力があることを裏付けている。
つまり、かつてのような「アラブボイコット」を他国に課そうものなら、自国もイスラエル企業との関係を断絶する必要がある。それではアラブ諸国も困る。
東証適時開示によると、日本企業によるイスラエル企業のM&Aは2019年(1-12月)から2023年(同)までの5年間で5件、平均で年に1件ペースと少ない。
一方、海外企業はイスラエル企業への投資に積極的だ。イスラエルの非営利団体 Start-Up Nation Centralによると、ハマスによる攻撃開始から2カ月足らずの間にM&Aを含むイスラエルのスタートアップへの投資額は10億ドル(約1560億円)を超えたという。齊藤氏は「日本企業もイスラエル企業に安心して投資するとよい」と太鼓判を押す。
イスラエルのスタートアップが、アラブ諸国による経済制裁を回避する強力な「武器」になっているようだ。これがイスラエル政府を強気にさせている要因でもある。
文:M&A Online
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