「20年ぶりの円安」って、大騒ぎするような問題なのか?

alt
1ドル=134円台に突入した円安は「大問題」なのか?(Photo By Reuters)

止まらない円安に、日本中が大騒ぎだ。6月8日には1ドル=134円台まで円安が進み、2002年2月以来、20年4カ月ぶりの水準に。しかし、その当時に同134円の為替レートで困った記憶がある人は少ない。この程度の円安ごときで、大騒ぎする必要はあるのだろうか?

バブル絶頂期は現在よりも円安だった

2002年当時、日本人は海外旅行も普通に楽しんでいたし、現地での買い物も「高い」と感じることはなかった。海外の高級ブランド品もバブル期ほどではないにせよ、そこそこ売れていた。そもそもバブル真っ盛りの1989年の年間平均為替レートは同137円96銭、翌1990年には同144円79銭と現在よりも円安だったのだ。

だが、単純に為替レートだけで比較はできない。例えば米国での物価が日本以上に上がっていれば、同一の為替レートでも「高く」感じる。仮に同67円と現在の2倍の円高になったとしても、米国の物価が10倍に値上がりしたら現在よりも5倍高く感じるはずだ。このような為替と物価の「歪み」を補正するために使われる指標が「購買力平価」だ。

これは2国間で販売されている商品の価格を比較して、物価に即した実質的な為替レートを引き出す方法だ。例えば日本で300円で売られている商品が、米国で2ドルなら購買力平価による為替レートは同150円になる。比較対象となる商品で最も有名なのが、米マクドナルドのハンバーガー「ビッグマック」だ。

実質的には1ドル=305円の「超円安」

各国における「ビッグマック」の販売価格で購買力平価を比較した数値を「ビッグマック指数」と呼ぶ。この指数が高いほど、通貨の「実力」が高いことになる。英 「エコノミスト」誌が毎年発表しており、2022年2月に最新の指数が公表された。

それによると、日本は390円で、804円と最も高いスイスの半額以下。3位の米国は669円で日本価格を米国価格(5ドル81セント)で割った同67.12円と名目為替レートの差が通貨の「実力」だ。単純に言えば日本円よりも価格が高ければ、その国の通貨は「強い」ということになる。

問題は順位で、15位のシンガポール(503円)、26位の中国(442円)、27位の韓国(440円)といったアジア諸国を下回る33位だ。現在よりも円安だった1989年のビッグマック価格は米国が269円だったのに対して、日本は370円と高かった。だから現在よりも円安だったにもかかわらず、海外旅行や輸入品の買物でも「割高感」がなかったのである。

ある国の貿易額における相手国別の割合を元に、その国とそれぞれの貿易相手国の通貨との為替レートを加重平均して算出する「実効為替レート」では、50年前の1972年と同じという。この年の平均為替レートは同305円だった。つまり「輸入品を買う」あるいは「海外旅行を楽しむ」時の経済的な負担は、見かけの為替レートよりも大幅に円安なのだ。

ユニクロの製品が一気に1000円も上がり、「便乗値上げではないか」との声も上がっている。しかしコロナ禍が解消し、日本人の海外旅行が本格的に再開すれば、決してオーバーな値上げでないことが分かるだろう。同時に「円の弱体化」を痛感することになる。

文:M&A Online編集部

関連記事はこちら
「MacBook」大幅値上げ、「iPhone14」はこうなる
もし最強の円高なら「MacBook Pro」は11万円も安かった!