新規上場(IPO)銘柄で検証! 投資家が注目する企業はこれ

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新規上場件数は、2016年92社、2017年94社、2018年が95社と年々増加しています。IPO人気は衰えません。2018年は、人工知能のHEROZ<4382>が公募価格4,500円に対して10倍以上の49,000円の初値をつけて話題になりました。また、メルカリ<4385>やソフトバンク<9984>の大型上場もあり、ニュースを賑わせました。

この記事は、2018年から2019年3月13日までに上場した銘柄の初値から、市場が注目している企業にスポットをあてたものです。需給バランスというフィルターを外し、市場が真に求めている企業や分野を炙り出します。

業者間取引プラットフォームのMマート
業者間取引プラットフォームのMマート


AI、SNS、サブスクリプションが人気銘柄に

まずは初値の上昇率が高かった企業から見ていきましょう。

順位 企業名 事業内容 上昇率 初値
1位 HEROZ 人工知能(AI)を活用したインターネットサービス +988.9% 49,000円
2位 アジャイルメディア・ネットワーク ソーシャルメディアの分析サービス「アンバサダープログラム」の提供 +415.7% 15,470円
3位 ビープラッツ サブスクリプションの販売・管理プラットフォーム +354.5% 10,000円
4位 Mマート BtoBインターネットプラットフォームの提供 +333.9% 5,380円
5位 ジェイテックコーポレーション X線ナノ集光ミラーの開発・販売、各種自動細胞培養装置等の開発 +331.1% 9,700円
6位 RPAホールディングス ロボットアウトソーシング事業、アドネットワーク事業 +300.0% 14,280円
7位 サーバーワークス Amazon Web Servicesのインフラ基盤構築・運用など +276.6% 18,000円
8位 Kudan 人工知覚技術の研究開発 +276.3% 14,000円
9位 エーアイ 音声合成に関連するソリューション +250.0% 3,500円
10位 ZUU メディア「ZUUonline」の運営 +246.9% 3,950円

やはり、AI関連が目立ちます。将棋の人工知能で知られるHEROZ、自動運転に活用が期待される人工知覚技術のKudan<4425>、人間らしい音声を合成するエーアイ<4388>がAI関連に該当します。

2位のアジャイルメディア・ネットワーク<6573>は、ソーシャルメディアを活用したマーケティングサービス。これまで、検索エンジンに最適化したリスティング広告などが新規上場の主流でした。マーケティングの世界も時代とともに変化しています。

ビープラッツ<4381>は、サブスクリプションと呼ばれる定額制サービスを構築するための、プラットフォームを提供しています。例えば、家電などの製品に月額サポートサービスを導入したい企業があった場合、同社のサービスを活用することで面倒な決済インフラの仕組みを整える必要がありません。

初値の上昇率が高い銘柄を見ると、次代を先取りした企業が並んでいるように感じます。

さて、ここからが本題です。

RPAホールディングス
注目度の高いRPAホールディングス


吸収額が初値上昇のカギ

IPOは、企業が資金を調達するための手段です。企業は株を市場に放出し、それを現金に換えることで資金を得ます。この吸収金額が小さいほど、初値は上がりやすい傾向があります。なぜなら、株が市場に出回る株数が少なく、株式の希少性が上がるからです。

例えば、公募価格の10倍以上も初値が高騰した、HEROZを見てみましょう。公募株数は172,200株、売出株数は25,800(オーバーアロットメント分のみ)でした。公募価格は4,500円でしたので、吸収額は8億9100万円です。一般的に8億円くらいまでだと、特に初値が上がりやすいと言われています。

反対の大型案件を見てみましょう。10分ヘアカットのキュービーネットホールディングス<6571>は、公募価格2,250円の6.0%減となる2,115円でした。このIPOは、投資ファンド・インテグラルの買収資金回収案件で、吸収額は253億2000万円と巨額でした。ソフトバンクも同様の理由で公募割れの状態となっています(詳しくはこちら)。

そうなると、吸収額が比較的大きいにも関わらず、初値が上昇している銘柄は、市場の注目度が高いものといえそうです。希少性フィルターを外しても、投資家が株を手に入れたいと思うほどの銘柄だからです。

それでは、吸収額が10億円以上で、初値の上昇率が高い企業を見てみましょう。

事務作業ロボット化(RPA)に熱い視線が

見え方はだいぶ変わってきます。

※順位の( )内は今回調査した全体の中での順位

順位 企業名 事業内容 吸収金額 上昇率 初値
1位(5位) ジェイテックコーポレーション X線ナノ集光ミラーの開発・販売、各種自動細胞培養装置等の開発 25億8700万円 +331.1% 9,700円
2位(6位) RPAホールディングス ロボットアウトソーシング事業、アドネットワーク事業 21億4200万円 +300.0% 14,280円
3位(7位) サーバーワークス Amazon Web Servicesのインフラ基盤構築・運用など 17億7000万円 +276.6% 18,000円
4位(12位) ヒューマン・アソシエイツ・ホールディングス 人材紹介事業 13億2300万円 +207.7% 3,600円
5位(21位) イーソル 組込み機器向けのOSの開発 19億9900万円 +138.1% 4,000円


ジェイテックコーポレーション<3446>は、大学や研究機関などに、X線集光ミラーを提供しています。大型研究施設に多数導入されており、ニッチ分野での技術力の高さが高騰に繋がったようです。

今回挙げた5つの企業の中で、特に注目したいのが2位のRPAホールディングス<6572>です。その理由は、売出株数が公募株の10倍以上にも関わらず、初値が公募価格の4倍も上昇しているためです。

どういうことか詳しく説明します。

IPOで市場に売り出される株には、公募株と売出株の2種類があります。公募株とは、上場するにあたって企業が新規で発行する株式です。その株を売って得た資金は、すべて企業の成長資金として活用できます。一方、売出株は既存の株主が保有するものを、市場に放出して現金に換えるものです。そこから得た資金は株主のもとに入るので、会社の成長資金にはなりません。ベンチャーキャピタルエンジェル投資家などが保有する株式がこれに当たります。

ジェイテックコーポレーションと、RPAホールディングスの構成を比較してみましょう。

企業名 公募株数 売出株数 企業が吸収する資金 株主が吸収する資金
ジェイテックコーポレーション 500,000株 650,000株 11億2500万円 14億6200万円
RPAホールディングス 50,000株 550,000株 1億7800万円 19億6300万円

ジェイテックは、企業の成長資金として11億2500万円が入りますが、RPAホールディングスには1億7800万円しか入りません。上場によって市場から吸収した残りの19億6300万円は、RPAホールディングスではなく、既存株主のもとへと消えることになるのです。

それにも関わらず、同社は初値で4倍もの値上がりを記録しました。それだけ会社への注目度が高いということになります。

RPAは、データ入力などの単純作業を自動化するサービス。「マクロを組む」などの複雑な手続きをすることなく、基本的にはドラッグ&ドロップで作業をロボット化できます。

データマイニング時代の到来で、多くの企業は高速でPDCAを回して成果を出すため、膨大なデータを毎日抽出する必要が出てきました。一方、人材不足で時給単価は上がっています。また、残業を無くそうという世相もあって、単純作業が嫌われるようになりました。誰でもできる作業は自動化したい。RPAは、その需要にピタリと答えられます。

先ほどの上位5企業ランキングの中に、人材紹介業のヒューマン・アソシエイツ・ホールディングス<6575>も入っています。人材不足をカバーするサービスや仕組みが、注目を集めやすい分野となっているのかもしれません。

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