4月のインサイダー課徴金は2件と大幅減も取引審査数は増加

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金融庁の証券監視委、取引審査が3年連続で増加

金融庁が4月に決定した2023年度の課徴金納付命令の件数が、前年度比4件減の計2件と大幅に減少した。過去5年間では2020年度のゼロ件に次ぐ少なさだった。課徴金額の累計も51万円と少額の水準にとどまっており、5月以降も同様の傾向が続くか注目される。

TOB実施のN・フィールド株でインサイダー取引

2023年4月は、訪問看護事業を手掛けるN・フィールド株で内部者(インサイダー)取引をした飲食店従業員の女性に34万円の課徴金納付命令が下された。また、その従業員に利益を得させる目的で自社に対する株式公開買い付け(TOB)実施を正式発表前に伝達した同社の男性社員にも17万円の課徴金納付が命じられた。

過去5年間の4月度同期比別でみると、2022年4月は都内の建設会社株式に係る仮装売買に対する3億3475万円もの高額な課徴金納付命令を皮切りに8件の命令が決定。うち3件がインサイダー取引だった。通年の命令発出件数も前年度比10件増の29件となり、課徴金額の累計は過去5年で最多の35憶5291万円に上った。一方、2020年度は4月の命令発出がなかった。

もっとも、4月に7件を記録した2021年度は10月から翌年2月まで納付命令が発出された事案がなく、累計も19件と少なかった。反対に、4月は2件だった2017年度の累計は30件を超えたことから、年度当初の推移だけでは判断できない。ただ、2017年度は5月が8件と多かったのも事実で、年度当初の動向が一定の影響を及ぼすのは確かだ。

証券監視委の情報受付、取引審査は増加傾向

金融庁の証券取引等監視委員会の情報受付件数は3年連続で増えており、2022年度は前年度比389件増の6713件だった。このうち、相場操縦やインサイダー取引など個別銘柄に関するものが5061件と大半を占め、2018年度(5097件)以来4年ぶりに5000件台を突破した。

さらに、証券監視委と財務局などによる取引審査の件数も増加傾向で、2022年度は3年ぶりの1000件台となる1065件(前年度比96件増)だった。価格形成は過去5年間で最も少ない29件だったが、インサイダー取引は最多の1024件。前年度比102件増と伸び幅も大きくなった中、2017年度以来5年ぶりの1000件台を記録した。

TOBを含めたM&A市場が活発化している半面、金融取引においては公正性・健全性をいかに確保するかが重要な課題となっている。証券監視委は3月にインサイダー取引など3件で課徴金納付命令の勧告や東京地検への告発に踏み切っており、「不自然な取引が見逃されることはない」と注意を促している。

関連リンク:令和5年度課徴金納付命令等一覧:金融庁 (fsa.go.jp)

文:M&A Online