バチカン市国より広い「イオンモール取手」で見えた次の一手とは

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2025年に日本最大のショッピングモールが茨城県取手市で開業する。「イオンモール取手(仮称)」がそれ。総開発面積は67万6000平方メートルと、テーマパークの東京ディズニーランド(51万平方メートル)を超える。世界最小の国家であるバチカン市国(44万平方メートル)よりも広く、「一つの街」といえる規模だ。

「商業不動産」に強いイオンが都市開発に参入

大型ショッピングモールを全国展開しているイオンモールだが、現在最も広いのが「イオンレイクタウン」(埼玉県越谷市)の33万7000平方メートルなので、その2倍の規模となる。商業施設は専門店街の「North-Town」とモールの「South-Town」で形成され、住宅街区や警察署、消防署、温浴施設、公園などを備えた「完結した街」だ。

イオンはこれまでの大規模商業施設開発から一歩踏み出し、より規模が大きい都市開発に乗り出す。イオンは「小売業と言うよりも不動産業」と呼ばれる。大型商業施設を建設して専門店を誘致、店舗の賃貸収入で安定した収益をあげるビジネスモデルを確立した。

現在では百貨店がイオンに追随してホテルやオフィス併設型の再開発を実施、自社の売り場よりも不動産賃貸料で稼ぐようになっている。

イオンが開発対象を従来の商業施設から街にまで広げれば、住宅や公共施設などの不動産開発も手掛けることになり、ビジネスチャンスや売上規模は拡大するはずだ。生活の利便性が高まるため、開発した「街」の不動産物件は地元の平均的な地価よりも高値で取引されるのは間違いない。

鉄道会社の次は大型量販店が都市開発をリードする

専業の不動産会社以外だと古くは阪急電鉄による宝塚開発、最近では東急電鉄による二子玉川開発など、鉄道会社が沿線を中心に都市開発の主導権を握ってきた。「イオンモール取手」が成功すれば、大手量販店が都市開発の新たなプレーヤーとして躍り出ることになる。

インターネット通販の普及や専門店の集客力強化で、大手量販店や百貨店といった大規模小売業は「冬の時代」を迎えている。都市開発という不動産ビジネスが、大規模小売業を救うかもしれない。

イオンのような大規模小売業は広大な空き地を、あっという間に商業集積地に生まれ変わらせることができるのが強みだ。郊外の安い土地に巨大ショッピングセンターを建設して地価を引き上げ、賃貸または分譲することで利益をあげる。

鉄道会社でも新路線を開業し、沿線の地価を引き上げた上で賃貸・分譲するスキームはそっくりだが、時間軸が違う。鉄道会社の新路線開設は数十年かかることもざら。一方、日本最大のショッピングモールとなる「イオンモール取手」ですら、準備組合が結成された6年後には開業する計画だ。

長期的な経済状況が読みにくい中、都市開発期間の短さは需要見誤りのリスクを引き下げる。その結果、イオンによる都市開発の精度は高くなり、不動産事業者としての存在感は今後ますます増していくことになるだろう。

文:M&A Online編集部

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