池澤あやかの「M&Aって、ホントはどうなの?」|マネーフォワード・菅藤達也執行役員CSOに聞く(後編)

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Fintechの先駆的企業であるマネーフォワード執行役員CSO/提携・事業責任者の菅藤達也氏に、M&Aの相手探しやポイントを聞いてみたら、やたら惚れっぽい菅藤さん流M&Aのお話が飛び出してすごく盛り上がりました。Part.3の今回、M&Aのイメージが変わるお話なので、ぜひ最後まで読んでくださいね。

最大の目利きであるお客さまの評判がM&Aのきっかけになる

池澤マネーフォワードでは、M&Aの候補となる会社を、どうやって探しているんですか?

菅藤 僕ら役員と先方の代表が知り合いとか、人を介して知りあうとか、経営陣同士のコミュニティーとかで出会うことが多いですね。結局、ドメインの周辺にいる会社って補完関係にあることが多いんですよ。クラビスもそうでしたけど、お客さまから「あのサービスはすごくいい」みたいな評判が聞こえてくるので、そのとき接点があれば「一回会ってみましょう」という話になる感じですね。

池澤 お客さんの評判って、嘘がないですもんね。

菅藤 クラウドツールって似たようなサービスが一斉にリリースされるので、中には使い勝手の良くないものもあるんですよ。お客さまが使われて「あれは使いにくいから避けたほうがいい」とか、「ここは使いやすかったよ」みたいなことを教えてくれるんです。つまり、お客さまが最大の目利きなので、評判が良いということはシナジーを生み出せる可能性が大きい会社といえます。

池澤 ドメインが近いコミュニティーで相手を探すのと、仲介会社を経由するM&Aって、やっぱり違うものですか?

菅藤 近いルートで出会う場合は確度が高い分、いわゆるボルトオン(事業補強)型のM&Aになりがちです。一方、仲介会社さんが入ることで初めて出会える会社もあります。お見合いパーティーでの偶然の出会いたみたいな感じで、一気に発展することがあり得ますし、世話焼きの仲人さんがいると話が進みやすいことはあると思います。

“好き”になった会社にはすぐプロポーズ

池澤 M&Aするかどうか、何を見て判断しているんですか?

菅藤 重要なのは、マネーフォワードと同じ匂いがする仲間かどうか、そこはすごく考えます。例えば、その会社が掲げているミッションやビジョン、社長は何を目指しているのか、何を重んじているのか、深く探ります。僕だけじゃなくて信頼できる仲間たちにも会ってもらって確認を重ねます。期間は短いことが多いですが、すごく濃密に会話してそこで見分ける感じですね。

池澤 プロダクトだけ見て判断するわけではないのですね。

菅藤 プロダクトが未熟でも、このチームと一緒にやれば、もっと伸ばせると感じれば動きます。

池澤 検討に入ってからは、どういうアクションを取るんですか?

菅藤 僕は、単刀直入にプロポーズしちゃうタイプですね(笑)。

池澤 短期間で濃密に会話するといっていましたけど、好きになったらガーっといくタイプですか?(笑)

菅藤 そうそう(笑)。でも、相手から「ほかに好きな人がいて」とか「お父さんに確認しなきゃ」みたいに言われることもあるわけです。だから、デートはするけど、本当に結婚するかどうかは別で、ラブレターを送り続けて時期がきたら動くこともありますよ。

池澤 EBITDA(利息・税金・減価償却前利益)を基準にする会社もありますけど、マネーフォワードさんが好きになる基準ってあるんですか?

菅藤 数字的なものだけで判断することはないですね。僕は、経営者と会話しながら可能性を感じたらすぐに一緒にやりたいと思って、すぐ「好き」って言っちゃうけど、社内には「あの人のご家族は大丈夫かしら」とか身辺調査する、いわゆるデューデリ(デューデリジェンス)のチームがいて、財務、法務、成長性とかきちんと評価しています。そう言う意味では、勢いだけでM&Aすることはないです。

池澤 好きになったら勢いでいっちゃうのかと思いましたが、ちゃんと止める人もいるんですね。

菅藤 そうなんですよ。止める人たちを突破できるような相手を探さなきゃっていう部分もありますね。

M&Aを活用して日本のクラウド率をあげたい

池澤 今までM&Aってお金のイメージが強かったのですが、そればかりではないんですね。

菅藤 北風と太陽的な感じだと思うんですよ。お金で買って「おまえら、成果出せよ」って言う北風派なのか、「一緒にがんがんやろうぜ」って盛り上がって一緒に成長していく太陽派なのか、僕らは断然後者のほうが楽しいと思っています。

池澤 自分たちだけじゃなく、一緒になった相手も幸せになるM&Aって良いですね。

菅藤 M&Aって本当めちゃくちゃ楽しいですよ。同時代に同じ志を持ち、同じような仕事をしている人たちが、たまたまA社やB社にいるわけですけど、その境界線を外すと青い水と赤い水が混ざり一気に成長が加速する、そんなイメージです。壁が取り払われた瞬間「君はこういう捉え方していたのか」「この課題を君はこうやって解決していたんだ」みたいなのが見えてくるところが、ものすごく楽しいです。

池澤 素敵ですね。最後の質問になりますが、マネーフォワードさん自身もベンチャーで、M&Aの相手もベンチャーという若い者同士の結婚って難しくありませんか?

菅藤 端から見たら難しく見えるかもしれませんけど、僕らはそうとは感じていません。むしろチャレンジは、先輩企業との結婚です。

例えば、中小企業は「マネーフォワードのクラウド経費はいいよね」って、すぐに使いはじめてくれますけど、中堅企業や大企業は意思決定や基盤システムの変更をクイックにすることが難しいですよね。クラウドに興味があっても、リスクを考えるとそう簡単に乗り換えることはできない。

一方で、インストール型ソフトウエアを提供している会社も、リソースやノウハウに課題があって、既存のお客様を抱えたまま自社サービスをクラウド化させるのに苦戦しているケースもあり得ます。それが日本でクラウド化が進まない要因のひとつではないかと考えています。僕らはそれを突破したいんです。

例えば、インストール型ソフトの会社さんとM&Aさせていただき、マネーフォワードのクラウドサービス開発が得意なエンジニアと共同開発させて頂くことで、お客様に乗り換えの負担をかけずにクラウドにスイッチできると思います。

インストール型を開発してきたドメイン知識と経験が豊富なエンジニアと、僕らの若手のエンジニアが交わり、すごい化学反応が起きると期待しています。それを次のチャレンジにしていきたい。それが日本のクラウド率を上げる突破口になるんじゃないか、そう思っています。※前編記事、中編記事

【インタビューを終えて、池澤あやか】

マネーフォワードはクラウド会計ソフトのイメージでしたが、M&Aでグループのシナジーを高めて成長していることを知り、あらためてM&Aのおもしろさを感じました。前回のSHIFTさんもそうでしたけど、M&Aでうまくいっている企業に共通点があることもわかりました。

また、菅藤さんのM&A恋愛論みたいな話もわかりやすくて、楽しかったです(笑)。感情の共有、シンクロが大事で、そこをちゃんとしないと、従業員が不幸になるっていうお話にはすごく納得できました。

企画:ストライクIT業界チーム(最新情報はこちら