第16回 地域一体感のある地方創生の道のり

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旗印とそれを活用したISOT出展の効果

江島 成佳

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
エグゼクティブブランドアーキテクト

ブランディングのコンセプト開発・企画立案・トータルディレクションおよびマネジメントの実行責任者を歴任。幅広い業種のブランディングを担当しVI開発やプロダクト、サービス開発、空間設計、コミュニケーション施策などにも関与。株式会社シー・アイ・エー代表取締役社長を経て、現デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 ブランディングアドバイザリーに所属。

――複数回のワークショップを経て完成した旗印に込めた思いをお聞かせください。

江島:旗印づくりは、シティプロモーションの一環として、共通のアイコンを作る目的で始まりました。学生、企業、市役所の方々を交えたワークショップを複数回実施する中で、メッセージやキーワード、イメージなどを議論して製作したものです。加えて、デザイナーと共にワークショップの結果を反映させながら案を作成していきました。

旗印は、色合いや機能性、視認性なども検証しながら完成させたもので、「織り成す」をキーワードとし、人と人、文化、企業などを結びつける意味が込められています。また、若年層を含めた住民の方をはじめ、企業、そして市外の方など、様々な人々を大切にする思いも含まれています。

具体的には、四国中央市の持つ企業文化や地域性を反映し、市の特産品である紙や地域の花の色なども意識して色を選定しました。市内外での認知度向上と一体感の醸成を目指す「わたし おりなす」というメッセージもキーポイントです。将来的には市で生産された製品に付けられるマークとして、活用いただくなど、市の認知度向上に貢献することを期待しています。

ロゴを使用した様々なグッズが制作されている

――旗印ができたことにより期待できることについてお聞かせください。

江島:今後は、市内での認知度と使用の広がりが期待しています。すでに、学校の給食プレートや備品など、市役所内の他部門でも積極的に使用されていますが、これからは企業との連携強化を進めていければ良いと思います。

ISOTのような展示会の企業ブースや会場での統一感のある使用を通じて、市と企業が一体となったプロモーション活動の展開が望まれます。また、地元企業の製品裏面などにロゴマークを付けることで、市の認知度向上を目指す取り組みもより必要でしょう。

そして、県外の人々への四国中央市のアピールが重要です。「帰りたくなるまち」としてのブランド確立を通じて、市民の一体感を醸成する活動がシティプロモーション戦略で今後も継続していくポイントです。様々な年齢層や立場の人々が共通のシンボルとして認識していければより成果が生まれるのではないでしょうか。

帰りたくなるまちづくりと新しい取り組みの広がり

選ばれるまちを目指して地域の魅力アピールを強化

大西 宏さん

四国中央市みらい創造
室長

2001年、旧伊予三島市役所に入庁。直近では情報政策課でシステムの管理開発を担当し、保健推進課で新型コロナワクチン対応業務を担当する。2022年度からみらい創造室長を務め、シティプロモーションやDX、SDGsなど総合的に推進する事業に従事。

筱原 勇弥さん

四国中央市みらい創造

2002年、旧伊予三島市役所に入庁。文化振興・社会教育の生涯学習分野、障がい者福祉、窓口センター、法制執務、庁内の情報システム分野、学校関係の管理・ICT関係業務を経て、現在のシティプロモーション、DX推進業務に従事。

――多様な意見交流を経て完成した旗印を前に、市役所や地域の皆さんからはどのような感想が出ているでしょうか。また、活用事例などについてもお聞かせください。

大西:今回完成した旗印に対して、市役所の庁内のみならず、市民の方、企業の方からも大変好評を得て浸透を実感しています。市民の方からも「かわいらしいデザインですね」といった意見をいただいています。

今年度は四国中央市発足20周年で、関連事業のポスターやチラシ、ノベルティなどにも活用するなど、市役所内でも積極的に旗印を使用しています。また、企業の方からも、展示会でのノベルティに使用するなど、一つのコミュニケーションツールとして活用いただいており、優しい色合いや親しみのあるデザインのおかげで想像以上に存在が広がり、非常に良かったなと感じています。

四国中央市の16社が集結したISOTの会場風景

――ISOTの出展を経て、今後の期待と展望をお聞かせください。

大西:「日本一の紙のまち」である四国中央市で生産される紙製品のパッケージごとにロゴを使っていただいて、四国中央市をアピールする流れが高まってほしいと期待しています。すでにパッケージデザインにロゴを採用していただいている市内の企業もあります。「made in 四国中央市」をPRできる紙製品が増えるように、市役所としてもより一段とロゴの活用推進をお願いしていくつもりです。

本年7月に開催された展示会「ISOT 夏(第36回 国際文具・紙製品展 夏 )」には、市内企業16社と共に出展させていただきました。ISOTの会場では、シティプロモーションのロゴ以外にも四国中央市が「日本一の紙のまち」であり種類の豊富な紙製品が集積していることをPRしてきました。今後は、まちの知名度アップだけでなくビジネス面でも企業間の取引におけるマッチングができるような展開を進めていきたいと考えています。

出展時には、旗印によって自然と発生した企業同士の一体感といった新たな繋がりも生まれています。来場者の方から商品の問い合わせがあったものの自社では生産していない場合、隣りで出展している企業を紹介するなど、市内の企業間で連携していく様子にISOT出展の手応えを感じました。出展企業からは来年度も出展を検討したいと前向きな意見もいただけたので、旗印が果たした役割は非常に大きかったと感じています。

――「若者が帰りたくなるまち」を目指すシティプロモーションは、今後どのように進めていきたいとお考えでしょうか。

筱原:シティプロモーション戦略は、「人間」や「人間関係」の大切さに主眼を置いた取り組みです。その具体的なターゲットとしては若年層を設定していますが、現在、四国中央市の魅力を伝えていくことの難しさを改めて実感しています。

「18っ祭!」やワークショップなどを通じて関わってきた高校生たちにも年代ごとにカラーがあり、年の差による特徴の違いによってどう伝え方を変えていくかが課題です。第1回「18っ祭!」の運営スタッフだった高校生は今年20歳で成人式を迎えます。市外に進学・就職した方も、一斉に帰省するタイミングなので、今年度の「18っ祭!」を運営する高校生と一緒にコラボレーションができれば、新しいステップになるのかなと感じてます。高校生時代に運営スタッフや来場者としてイベントに関わった年代が年々増えて、他の年齢層の市民も巻き込むようなイベントへと発展していくのが理想です。

――改めて、選ばれるまちになるために、市として取り組むべき重要なことはどんなことでしょうか。

筱原:現在の高校生たち若年層が大人になったとき、紙産業が盛んな四国中央市には様々な雇用があるという魅力をもっとアピールしていきたいと考えています。

そのためには、市内の企業とも連携し、高校生など若年層に対して、四国中央市で働く魅力を発信する活動により一段と力を入れていきたいところです。進学・就職で一度市外に出た若年層も、シティプロモーションの取り組みを通じて、まち全体に一体感があふれており、多様な働き方ができる企業がたくさん集まるまちだと実感していただきたいです。こうしたまちの魅力が高校生の間に浸透していけば、四国中央市で暮らしていくことにもっと興味を持ってくれるのではないかと思っています。

企業間の連携を強め発信力を高める施策に期待

森実 慶太郎さん

株式会社モリオト

紙製品製造販売を手がける株式会社モリオト担当者。テレビ業界での経験を経て、祖父が創業した同社に2021年から参画。四国中央市と東京の2拠点で活動している。

――市内企業合同でISOTに出展した印象はいかがでしたか。

森実:世界一の紙のまちをPRする新しい試みとして、市の支援を受け、市内企業16社が参加したISOTでの経験は、地域の企業が一つになるいい機会だったと思います。

予想以上に商談も進み、企業間の新たな連携も生まれました。ただ、まだまだ発信力が足りないと感じています。展示会については、最低3年は継続すべきですね。来年は20社規模に拡大できるよう働きかけていくつもりです。

――四国中央市のシティプロモーションに関連して、若い世代が戻ってきたくなるような会社、まちにするために一番大切なことはどんなことでしょう。

森実:企業として市民として、働くことへのやりがいや地元の暮らしの素晴らしさをもっと全面に出していくことが大切だと思います。シティプロモーションで行われていた旗印やロゴ作成、動画制作など、あらゆる方向から発信力を高める取り組みが重要です。

特に、高校生が直接運営・参加する「18っ祭!」のイベントは、ステージ発表や展示コーナーだけではなく、さらに大きなスケールでの開催を目指して欲しいと思います。地元ゆかりの日本を代表する大企業と連携すると、もっと「四国中央市ってすごいまちなんだ」と実感するのではないでしょうか。

――地元企業やまちの魅力発信については何が課題だとお考えですか。

森実:紙のまちの企業として、各社ともせっかくすごいことをやっているのに、表に出しきれていないですね。謙虚なのは良いことなのですが、もったいない気がします。

若者に地元に帰って来てもらうためには、高校生や中学生のうちから地域と関わる機会を作ることが重要です。市外に出てからでは遅いので、「18っ祭!」のようなイベントには必ず地元企業として参加するようにしています。地域の一企業として、地元の青年会議所に所属したり、小中学生向けの職業体験活動の展開などを通して、今後も地元の若年層に職業の魅力、人の魅力を伝えていきたいと考えています。

若者たちに響くシビックプライドの醸成が鍵

シティプロモーションの始まりから3年あまりを経て、市と連携してきたDTFAの江島は、今回の施策による成果や課題、今後の展望を語ります。

ブランディング活動を継続する意義

江島:長期的なブランディング戦略の基盤における10年計画の一環として、継続的なブランド構築の土台となることを期待しています。行政の方針転換に左右されない、一貫性のあるブランディングが重要です。市の長期目標を示す旗印やビジョンの浸透を進める中で、市民や企業にシティプロモーションの意義を理解してもらうための活動が必要でしょう。

特に大切なのが、若者の参加促進です。高校生など若い世代の市政への参加意識を高めるためにも、グッズ制作や様々なイベントでの活用など幅広い使用方法によって、多様な展開の可能性を模索しなければなりません。

同時に、行政の縦割りや単年度予算の課題克服に向けた取り組みも求められます。行政は年度ごとに区切られた予算計画の影響を受けやすいため、長期的な視点での戦略を立てて実行する必要があります。市役所が一丸となり、長期的なビジョンに基づく一貫したブランディング活動を継続していくことで、市外に出た人々への再アプローチになります。

旗印を用いた広報活動を通じた四国中央市の知名度を高める取り組みが重要で、四国中央市の製品などに旗印を利用することで、全国的、あるいは国際的に知名度を拡大する活動も加速させたいです。あわせて、旗印を地元以外でも使用可能にし、企業や市民が自主的に利用する機会を増やす方向性も検討しながらシビックプライドの醸成に力を注いでいくことが大切だと考えています。旗印を通じて、四国中央市とのつながりを思い出すきっかけづくりがさらに深まれば素敵です。

――若者たちが帰ってきたくなるまちづくりのスタートを切った四国中央市。未来へ向けて展開される様々な取り組みに期待がふくらみます。