中国の経済指標と政府計画

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Ira Kalish

Deloitte Touche Tomatsu
チーフエコノミスト

経済問題とビジネス戦略に関するデロイトのリーダーの1人。グローバル経済をテーマに企業や貿易団体への講演も多数行っている。これまで47の国々を訪問したKalish氏の解説は、ウォール・ストリート・ジャーナル、エコノミスト、フィナンシャル・タイムズなどからも広く引用されている。ジョンズ・ホプキンス大学国際経済学博士号取得。

低水準にとどまる中国のインフレ率

中国では、インフレ率は低水準にとどまっています。9月の消費者物価は前年同月比0.4%上昇と、6月以来最低水準でした。前月比では横ばいの状態です。一部、食品価格においてインフレが継続しており、食品価格は前年比3.3%の上昇、中でも豚肉価格は16.2%上昇しています。食品価格の上昇は主に悪天候の結果によるものです。また、エネルギー価格は下落しています。変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数は、9月に2021年2月以来の最低水準となる前年同月比0.1%の上昇にとどまり、前月比でも0.2%下落しました。さらに、旅行需要の減少で航空運賃やホテルの価格も下落しています。

中国の低インフレに関するニュースを受けて、中国経済の弱さへの懸念から原油価格が大幅に下落しました。低水準のインフレは、商品生産が強い中で国内需要が低迷していることを反映している可能性が高く、結果として過剰になった生産能力によって価格の下押し圧力につながっています。実際、9月の生産者物価は前年同月比2.8%下落と、3月以来の大幅な落ち込みとなっています。さらに中国で販売された電気自動車の小売価格は前年比6.9%下落しています。これは中国の電気自動車(EV)が米国や欧州で高い関税障壁にさらされている中で、生産能力が過剰になっていることを示しています。一方、輸出の伸びが鈍化する中、投資家は政府が内需拡大に十分な措置を講じないのではないかと懸念しているようです。弱いインフレ指標は、成長を促進するために政府が何をするべきかという問題を再び提起しています。 

中国政府の反応

中国政府は最近、財政政策を利用して弱体化している経済を刺激する意向を示していますが、これまでのところ投資家が求めるような詳細についてはまだ明かされていません。最近、中国の財務大臣である藍仏安は政策の考えについてさらなる情報提供を試みています。彼が言及した政策は、地方政府の債務負担を軽減するための支援提供、銀行資本増強のための特別目的債の発行、不動産市場の低迷を食い止めるための地方政府利用、学生の支出を支援するための援助の実施、の4つです。

地方政府に関して、同大臣は地方政府の債務上限を一時的に大幅に引き上げると述べています。加えて地方政府が、不動産開発業者からの遊休地や中古住宅の購入、住宅所有補助金の交付に特別債を利用することができるようにすると述べています。

さらに、藍氏は「検討中の他の政策手段」があり、「中央政府が債務を増やし、赤字を拡大する余地はまだ比較的大きい」と述べました。ただ、追加の景気刺激政策の規模について問われても詳細を明らかにはしませんでした。これはまだ決まっていないようです。 

中国における主要な景気指標の動向

2024年第3四半期、中国の実質GDPは前年同期比4.6%の成長で、第2四半期の4.7%成長を下回り、直近6期で最低となりました。しかもこれは政府目標の5%を下回っています。一方で、投資家が予想していたよりは速いペースの成長であり、実質GDPは第2四半期から第3四半期にかけて0.9%増加しました。また、小売売上高や工業生産などの月次指標には好調の兆しが見られましたが、前述の通り9月の輸出成長は低調でした。最後に、多くの投資家は、政府が大規模な財政刺激政策を実施すれば、今後の数四半期で成長が回復すると予想しています。

小売売上高は9月に前年比3.2%増と、5月以来の高い伸びを記録しています。一部のカテゴリーでは大幅な成長が見られ、穀物・石油・食(11.1%増)、家電・AV機器(20.5%増)、医薬品(5.4%増)が該当します。一方で、化粧品は4.5%減、宝飾品は7.8%減、建築資材は6.6%減でした。小売売上高は物価調整されていませんが、中国全体のインフレ率は非常に低水準である中で食品価格は上昇しており、これは食品消費支出が大幅に伸びている一因となっています。 

9月の中国の工業生産も好調であり、前年同月比は5.4%増と、5月以来最大となりました。内訳は製造業が5.2%増、公益事業が10.1%増となっています。製造業の中では、非自動車輸送が13.7%増、コンピュータ・通信が10.6%増、金属製錬が8.8%増でした。

2024年上半期の中国の固定資産投資は前年比3.4%増と控えめな伸びでしたが、製造業は9.2%、公益事業は24.8%増加しています。一方で、不動産投資は10.1%減少しました。 

中国からの輸出は、4カ月連続で急成長した後、9月には緩やかな成長となりました。9月の輸出(米ドルベース)は前年同月比2.4%増で、4月以降で最も低い伸びとなりました。地域別では、米国向けが2.2%増、EU向けが1.3%増、東南アジア向けが5.5%増、ロシア向けが16.6%増となりました。中国税関当局は、異常気象とそれに伴う輸送の混乱が輸出を鈍化させている原因だと指摘しています。また、中国の国内製品価格の下落が輸出価格に波及し、前述のように輸出を抑制しています。  

また、中国の輸入は9月に前年比0.3%増にとどまり、6月以来最低の水準となりました。輸入は米国が6.7%、東南アジアが4.2%の増加でした。一方、EUからの輸入は4%減少しました。ハイテク製品や基礎金属の輸入が大幅に増加した一方で、レアアース鉱物の輸入は急減しました。輸入の低調は内需の弱さを反映している可能性があり、また輸入材を必要とする輸出製品の需要低迷を反映しているかもしれません。 

他方、中国の中央銀行は、非銀行の金融機関に株式購入を奨励するスキームを導入しました。その結果、経済成長が低迷しているにも関わらず、中国の株価は急騰しました。しかし、より重要な財政刺激政策はまだ発表されていません。

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