インドが中国からの海外直接投資の拡大を議論

alt

Ira Kalish

Deloitte Touche Tomatsu
チーフエコノミスト

経済問題とビジネス戦略に関するデロイトのリーダーの1人。グローバル経済をテーマに企業や貿易団体への講演も多数行っている。これまで47の国々を訪問したKalish氏の解説は、ウォール・ストリート・ジャーナル、エコノミスト、フィナンシャル・タイムズなどからも広く引用されている。ジョンズ・ホプキンス大学国際経済学博士号取得。

中国からの投資に対するインドの反応

欧米市場への参入に際して中国製品がこれまで以上に関税などの障壁に直面する中で、多くの中国企業は輸出用の製品を生産するために他国への投資を行っています。これらの海外の製造施設は、中国から原材料を輸入し、最終製品を欧米に出荷していますが、このような投資はこれまで東南アジアやメキシコで行われてきました。こうした流れは「チャイナプラスワン」と呼ばれる、より大きなトレンドの一部となっているところであり、中国との関わりを維持しつつもサプライチェーンを中国から分散させる動きもみられるところです。

しかし、インドはこれまでこうした動きによる利益を十分に享受していませんでした。インドはヒマラヤ地域の国境地帯での軍事衝突を受けて、2020年に中国からの対内FDI(海外直接投資)に制限を設けたためです。しかし、インド政府の首席経済顧問であるV アナンサ ナゲシュワラン氏はこの方針を再考する時期が来たと述べています。彼は「チャイナプラスワンによる恩恵を受けるためにFDI受け入れを認めることには、大きな利益があるように思われる。欧米が急速に中国からの取引を減らしている中では、中国からの輸入品にわずかな付加価値をつけて再輸出するよりも、中国企業にインドへ投資してもらい、インドから製品を欧米市場に輸出する方が効果的である」と述べました。

インドの財務大臣はこの政策変更を支持しているようですが、一方で商工大臣は「中国からの国内投資について、支援する方向に政策を転換する考えは現時点ではない」と主張しています。このように、政府内でもこの点への対応については明確な対立があります。

中国からの投資受け入れによる恩恵

2020年に導入された制限は中国からのFDIを完全に禁止するものではなく、投資を行う前にインド政府の承認を得ることを求めるというものでした。2020年以来、中国企業による投資の申請は435件ありましたが、承認されたのはその約3分の1に過ぎません。一方、インドは直近の会計年度で中国から1,017億米ドルの商品を輸入した一方、輸出はわずか167億米ドルにとどまっています。

インドがこれまで以上に海外投資を受け入れれば、こうした貿易不均衡は緩和され、中国が現在強みを持つ産業を中心に、製造能力やノウハウがインドにもたらされることでしょう。今やインドは、中国が一世代前に成し遂げたような経済成長を再現できる潜在能力があるとみなされています。しかし、中国が経済成長の過程で多額の海外からの対内FDIを受け入れていたこと、そしてそうした投資のおかげで多くの産業のバリューチェーンが高度化し、世界有数の輸出国となったことを忘れてはいけません。中国からの投資に対するインドの否定的な態度は、外国による搾取を避けて自立を目指すという戦後一貫した姿勢と整合しています。一方で、中国との間で近年深刻な問題を抱える国々でさえ、中国からの一定の投資については引き続き歓迎していることも事実なのです。

※本記事と原文に差異が発生した場合には原文を優先します。

Deloitte Global Economist Networkについて

Deloitte Global Economist Networkは、デロイトネットワーク内外の視聴者向けに興味深く示唆に富むコンテンツを発信する多様なエコノミストのグループです。デロイトが有するインダストリーと経済全般に関する専門知識により、複雑な産業ベースの問題に高度な分析と示唆を提供しています。デロイトのトップマネジメントやパートナーを対象に、重要な問題を検討するレポートやThought Leadershipの提供、最新の産業・経済動向にキャッチアップするためのエクゼクティブブリーフィングまで、多岐にわたる活動を行っています。