NOVAREを拠点に発展する清水建設のオープンイノベーション

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小原 智剛氏

清水建設株式会社
ベンチャービジネスユニットCVCグループ コンダクター

2008年清水建設入社。エンジニアリング事業本部土壌環境事業部でエンジニアとして従事。2023年社内のジョブチャレンジ制度を利用し、ベンチャービジネスユニットCVCグループに異動。2024年から米国に駐在予定。

宮本 飛悠氏

清水建設株式会社
ベンチャービジネスユニットCVCグループ イノベーター

2018年清水建設入社。LCV事業本部で水力発電事業の開発に従事。2024年ベンチャービジネスユニットCVCグループに異動。GX関連のスタートアップをメインに担当する。

オープンイノベーション推進へ100億円のスタートアップ出資枠を設定

尖った技術やアイデア、市場に対応する機動性などを持つスタートアップとのオープンイノベーションは、企業の競争力強化と持続的な成長にとって重要性が高く、近年、CVC活動が活性化しています。清水建設は、2015年にユーグレナから結成されたリアルテックファンド、2016年にシリコンバレーのVCであるDraper Nexus Ventures(現DNX Ventures)に出資するなど経験を蓄積したうえで、2020年には100億円の出資枠を設定しCVC活動を本格化しました。

CVCの狙いは、人手不足、脱炭素への取り組みなど様々な課題を抱える建設業の生産性向上やDX推進のために優れたスタートアップの技術やソリューションを現場とマッチングし、業務に落とし込むことだといいます。そのため、建設現場を持つ事業部門との連携が重要で、投資先にはLiDARを用いた3Dデータ解析技術を持つマプリィ(mapry)、360度カメラによる施工管理のOpenSpace(オープンスペース)など建設テックやその周辺領域の企業が多く含まれます。

近年は建設以外にも投資先を拡大しており、2022年には画像解析や生成AI技術を持つLightblueに出資しました。今後注目する領域について、小原氏は「何でもありも建設ありきも、どちらもよくないですね。領域を見極める必要はあると考えています。新規事業や社会課題解決など将来のストーリーを描いていくことも私たちの役割になるでしょう。今はディープテックにも注目しています」と言います。

最大の課題はオープンイノベーションの実現

スタートアップとのオープンイノベーションの機運が高まる一方で、多くの大企業が成果の創出には苦戦しています。清水建設は歴史のある建設会社であり、スタートアップ連携の成功例と言われる米国ビッグテックなどと比べると、企業文化、組織構造、意思決定プロセスなどに大きな違いがあると推測されます。CVCの難しさについても話を聞きました。

小原氏と宮本氏は「オープンイノベーションこそが本来の目的なのですが、難しさは実感しています」と語ります。VCのための枠組みとしては、投資委員会を設置し、通常の取締役会での決裁ルートより数カ月単位で短縮できる仕組みを整備しました。海外情報の収集も重視し、米国シリコンバレーにイノベーションセンターを設け、米国発のスタートアップOpenSpaceへの出資にもつなげています。

小原氏は「全社で800以上の現場が稼働しており、スタートアップの重要な顧客になることができます。スタートアップにとってはその点は当社の魅力となるでしょう。しかし、スタートアップのソリューションを導入するかどうかは現場所長の関心や興味に大きく左右されます。スタートアップとの連携に慣れていない人もまだまだ多い。社内の認知向上も必要です」とコメントしました。

旧渋沢邸が佇むイノベーションの拠点「NOVARE」

ベンチャービジネスユニットが拠点を移し、今後、スタートアップなどとの共創を行っていくのが、江東区潮見に新設した温故創新の森NOVAREです。情報発信と交流の拠点なるNOVARE Hub(ノヴァーレ ハブ)のほか、NOVARE  Lab(技術研究所 潮見ラボ)、高層ビル建設現場の一部を切り取った1/1スケールのモックアップなどを置く体験型研修施設NOVARE Academy(ものづくり至誠塾)、NOVARE Archives(清水建設歴史資料館)を構えます。

NOVARE Hub内部

NOVARE Hubの内部は、IoTや赤外線カメラなどの技術を使って自由なスペースと快適さを提供するオフィス、AIによるエネルギー効率化など、最新の建築技術を搭載しています。現時点では広いスペースが空いており、共創スペースとしての活用方法は今まさに検討中とのことです。宮本氏は「第一歩としては施設を使っていただく実証実験があり、モックアップがある研修施設でのドローン飛行などを行いました。先々は、建設領域以外も含めた様々なスタートアップにこの場所をご提供したいと考えています。社員に刺激を与える場所になることも望んでいます。『課題解決に向けた新しい発見がNOVAREにはある』と社内で認知され、スタートアップとの交流を通じて会社が活気付く。そういった拠点にすべく、チームで知恵を絞っているところです」と意気込みを語りました。

また、敷地の中央には、同社二代目の清水喜助氏が手掛けた旧渋沢邸が移築されていることも注目です。2024年8月末現在では一般公開はしていませんが、一般公開を検討しているとのこと。新紙幣1万円札の顔である渋沢氏ですから、多くの人が訪れることでしょう。

温故創新の森NOVAREの運河沿いの広い敷地は緑豊かです。明治初期に建てられた旧渋沢邸の隣で、スタートアップの最新のアイデアや技術が集うスペースが生まれることが期待されます。