BIS、各国中央銀行の「現状への慢心」を警告

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Ira Kalish

Deloitte Touche Tomatsu
チーフエコノミスト

経済問題とビジネス戦略に関するデロイトのリーダーの1人。グローバル経済をテーマに企業や貿易団体への講演も多数行っている。これまで47の国々を訪問したKalish氏の解説は、ウォール・ストリート・ジャーナル、エコノミスト、フィナンシャル・タイムズなどからも広く引用されている。ジョンズ・ホプキンス大学国際経済学博士号取得。

金融緩和に慎重な姿勢を見せるBIS

中央銀行の中の中央銀行ともいうべき国際決済銀行(BIS)は、各中央銀行に対し、拙速な金融政策の緩和への警鐘を鳴らしています。年次報告の中でBISは、インフレへの対応や経済成長の観点では世界的に大きな進展がみられると指摘している一方で、政策の失敗といった深刻なリスクが依然として存在すると述べました。主要国におけるインフレ率は低下しているものの、「一部の主要国においてはインフレが継続していることから、中央銀行にはまだ取り組むべきことが残っていると考えられる」としています。また、同報告では、主要経済圏ではインフレ率が中央銀行の目標を上回ったままであることも言及されています。特にBISはサービス分野での持続的なインフレについて懸念を示しており、「早すぎる金融緩和はインフレ圧力を再燃させかねず、結果として政策転換に追い込まれれば、中央銀行は信頼性の喪失という大きな代償を払うことにつながりかねない」と述べています。

興味深いことに、BISの調査によると、財に対するサービスの相対価格は依然としてコロナ禍前の水準を下回っていますが、これはパンデミック初期に財価格が急騰した影響によるものと考えられます。この点に関してBISは、現状のサービス部門での高いインフレ率について、財に対するサービスの相対価格が従来の水準に戻る過程にあることを示すものであるとしています。さらなる財価格の下落がない限り、当面の間は財・サービス全体のインフレ率がパンデミック前の水準を上回った状態が続く可能性が高い見通しです。

高まる財政リスク

加えて、BISは財政赤字の高止まりや商業用不動産市場の混乱によって、世界の金融システムはリスクにさらされていると指摘し、主要経済圏における財政政策の現状の方針は持続不可能であるとも述べています。現在の財政政策の動向に関する投資家の反応はまだ否定的なものとはなっていませんが、この反応が変化すれば、金融市場は大混乱となり、中央銀行は困難な選択を迫られることとなるでしょう。BISのある高官は、「我々は、持続可能に見えたものが、突然そう見えなくなる瞬間に立ち会ってきた。それが市場というものだ」とも述べています。財政拡大はパンデミック後の主要国経済の回復に一役買いましたが、ひとたび緊縮財政となれば、その成長は鈍化するかもしれません。

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