第13回 地域の企業が挑むまちづくりの課題と展望

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紙の可能性を再発見し新たなアイデアでまちに力を

株式会社モリオト:森実慶太郎さん

――株式会社モリオトは1946年創業のリサイクル製紙原料回収業者で、創業からリサイクルを重視し、環境に配慮した紙製品の加工製造にも力を入れていると伺いました。今回、「18っ祭!」のイベントに出展された経緯をお聞かせください。

森実:以前から市のイベントにはよく参加させていただいていましたが、今回の「18っ祭!」のコンセプトが「帰りたくなるまち」「未来に続くまち」であると市役所からの案内で知り、運営する高校生に刺激を受けて地元企業としてお役に立ちたいと思ったのがきっかけです。企業展示に加え、弊社製品のワークショップを通じて「紙のまち」を肌で感じてもらえたらと思います。

――四国中央市では若者が18歳をきっかけに都会に出て行ってしまい、戻って来ないという「まちの課題」についてどうお考えですか。

森実:四国中央市は、古くから「紙のまち」として栄えてきました。しかし、近年はペーパーレス化が進み、紙の需要は減少傾向にあります。ただ、紙にはまだまだ知られていない用途や可能性があります。市の魅力を高めるためにも紙の可能性を再発見し、地域をあげて新たな価値を生み出す取り組みが必要だと感じています。

――今回の企業・製品展示やワークショップで高校生に何を伝えたいですか。

森実:今回、ワークショップでは参加者に紙の畳で様々な作品を作っていただきました。「畳楽(じょうらく)」は、「たたあみ(紙畳クラフトシート)」をはじめ紙を素材として開発・製造した新しい畳です。従来の畳とは異なり虫がつかず撥水加工を施し、水にも強く、様々な用途に活用できます。畳楽は単なる畳材としてではなく、若者の創造性を刺激する素材として捉えています。

四国中央市は、紙の技術や知識を持つ人材が豊富に集まっています。愛媛大学紙産業イノベーションセンターもあり、紙に関する研究開発の環境が整ったまちです。あとは、どれだけ熱意を持って取り組むかが重要なのではないでしょうか。「18っ祭!」のようなイベントをきっかけに、ワークショップを通じ若い人たちが紙の可能性に触れ、新たなアイデアを創出していくことが、まちの未来につながると考えています。

高校生との交流の好機となる意義ある出店

宇摩自動車教習所:洲﨑俊二さん・大倉龍馬さん

大倉龍馬さん

――宇摩自動車教習所は、託児室や女性専用宿泊施設を整備し、全国的にも珍しい「お子様連れプラン」による合宿免許を提供する教習所と伺っています。「18っ祭!」のイベントに企業出展したきっかけを教えてください。

洲﨑:市役所からの案内でイベントを知りました。通常、定期的なオープンキャンパスやSNSによる情報発信で集客をしていますが、教習所のターゲット層である高校生との接点づくりのため参加を決めました。教習中を除くと高校生と触れ合う機会が少ないため、イベントを通して魅力を伝え、地元での教習所利用やUターン促進につなげたいと考えています。

――大倉さんは地元出身で、大学を卒業後に四国中央市に戻り就職したと伺いました。このイベントは「帰りたくなるまち」がコンセプトなのですが、若者がUターンしたくなる地域活性化に何が必要だと思いますか。

大倉:一度市外に出て戻って来た経験からすると、四国中央市は遊ぶ場所が少ないため、若者がUターンしたくなるような環境づくりが必要だと思います。ボーリング場をはじめ大きな娯楽施設も減ってきているので、若者が満足できるまちではないと感じています。

――自動車教習所には様々な地域から高校生や大学生が集まってくると思います。四国中央市の若者たちの印象をお聞かせください。

大倉:以前は四国中央市でも高校卒業までに普通車の運転免許を取得するのが一般的でしたが、最近の高校生は卒業後、市外の進学先で教習所に通うケースが多いです。実際、弊所も高校3年生の入所が減少しています。

洲﨑:この地域の子は真面目で素直な子が多い印象です。今回のイベントでも、高校生スタッフの皆さんが丁寧に対応している様子が見られました。若者がUターンしたくなるようなまちづくりのひとつとして、高校生主体で運営する「18っ祭!」のようなイベントが毎年続いていくことで、若者の自主性を育み地域の活性化にもつながると期待しています。

Uターンを促進する働きやすい職場環境の整備を

服部製紙株式会社:服部美奈子さん

――服部製紙株式会社は1914年創業の紙製品メーカーで、昨年(2023年)10月には愛媛県「ひめボス宣言事業所認証制度」の認定を受け、女性活躍やワークライフバランス支援など働き方改革に積極的に取り組んでいると伺いました。今回の「18っ祭!」に出展された経緯をお聞かせください。

服部::弊社は「四国中央市SDGs推進プラットフォーム」にパートナー登録しており、市役所との情報共有の中でイベントの開催を知りました。SDGsへの積極的な取り組みを通じ、環境問題への取り組みはもちろん地域社会への貢献にも力を入れています。

また、愛媛県「ひめボス宣言事業所認証制度」認定をきっかけに、県の広報番組で弊社の育休取得促進の取り組みを取り上げていただきました。進学や就職により18歳で市外に若者が流出する流れは変えられないとしても、地元へのUターンを促進するには企業単位でもっと働きやすい環境を整備する必要があります。

今の時代、結婚や出産・育児などライフステージの変化が大きい女性が働きやすい職場づくりを通して、女性も男性も関係なく活躍できる企業でなければなりません。家事・育児に力を注ぎながら従業員の得意分野で成果を発揮できるよう、ワークライフバランスを実現できる企業を目指しています。

――四国中央市でも人口減少対策が求められていますが、御社の採用状況はいかがですか。

服部:毎年、地域の高校生を3~4名、大学生を若干名採用しています。ただ、年々採用数が少なくなっているのが現状です。そのため、弊社の採用活動において「18っ祭!」など地域イベントへの積極的な参加も地域とのつながりを深め、若者との交流を促進する貴重な機会となっています。

――若手社員の成長のために工夫している点を教えてください。

服部:職場の活性化のためには自由闊達な意見交換も大切です。その第一歩として、毎月全社員が会社に対する「改善・提案シート」を提出しています。仕事内容から職場環境までテーマの幅は広く、自ら改善したことや会社にお願いしたいことなど、記名式で意見を出すという体験を通して、業務に対する積極性を引き出すことが目的です。上司が認めた改善・提案には報奨金が出るなど、ちょっとしたモチベーションアップにもつながっています。

――企業の将来を担う若手社員に期待することや今後の課題についてお聞かせください。

服部:四国中央市のSDGs推進プラットフォームも、本来は若手社員が積極的に活動するのが理想だと思います。ただ、実際には業務で手一杯で、企業の未来に対する取り組みにまで時間も労力も割けないのが現状です。また、働き方に対する若者の意識変化によって、仕事や給料のために残業するよりも、プライベートを大切にし、ワークライフバランスを図りたいといった若手社員が年々増えています。中小企業としてどこまで待遇アップするか採算的に厳しい面もありますが、企業や地域の将来のため今後もSDGsや働き方改革を推進し、四国中央市に帰ってきたいと思える魅力ある企業づくりを続けていきたいです。

地域おこしで地元にしかない価値をアピール

新宮霧の森(株式会社やまびこ):高野由里子さん

ルーカス ビークラさん(左)、高野由里子さん(右)

――新宮霧の森(株式会社やまびこ)は、四国中央市新宮町で道の駅や宿泊施設などの「霧の森・霧の高原」を運営し、新宮茶を活用した村おこしに取り組んでいます。全国区の人気を誇る「霧の森大福」の製造販売でも知られる第3セクターです。イベント2回目の今回がマルシェ初出店と伺いましたが、出店のきっかけを教えてください。

高野:市から案内をいただきました。弊社は地域おこしを目的に活動している企業なので、高校生が主体となってまちづくりのためのイベントを運営するという「18っ祭!」のコンセプトに共感し、協力させていただきたいと参加を決めました。

――前回同様、今回のイベントコンセプトも「帰りたくなるまち」ですが、18歳を機に一度市外に出た若者が戻ってくるためには何が必要だと思いますか。

高野:都会への憧れはありますが、いつかは実家の地元に帰ってゆっくりやりたいという気持ちも、若い人の中にはあるのではないでしょうか。そのために、若い人たちがやりたいことを実現できるような環境づくりができたらいいなと思います。

――御社の地域おこしの具体的な取り組みについて教えてください。

高野:弊社は地域おこしの一環として、交流人口増加に取り組んでいます。人口800人の小さな集落である新宮に年間25万人の観光客を呼び込むことに成功しました。

例えば、「霧の森大福」は農薬に頼らず栽培した地元の茶葉のみを使用しています。地元のお茶を大切に使って製造することで、新宮でしか買えない価値を生み出しました。その結果、日本全国からこの山奥までお越しいただけるようになったのではないかと思います。

最近はお茶栽培を手がける部署を作り、地元の方と協力してお茶栽培に向けて取り組んでいるところです。ここでしか体験できない、食べられないといった、土地の手触り感や限定感を大切にする試みは、他店や他地域でもアピールポイントになると思っています。

連続出店で若者たちの社会経験を後押し

YOGASTUDIO MAJORA:石村慶さん

石村慶さん(左)とスタッフの方

――石村さんは、市内でヨガスタジオ「YOGASTUDIO MAJORA」を運営されており、今回のマルシェにはマフィンなどのスイーツを販売しています。2回目の出店ですが、前回との違いや高校生とのコミュニケーションの印象はいかがでしたか。

石村:去年は初回で、しかも社会経験の少ない高校生が運営スタッフということもあり、搬入で待ち時間があるなど手間取った場面もありました。しかし、今年は準備段階での誘導や案内はスムーズになっていて、ビジネス的にスマートな感じが出てきました。

今回、高校生と共同開発したコラボメニューを販売していますが、発案は高校生からあったものの、詳細な商品企画を考えるのは難しい様子でした。最終的にこちらから何点かアイデアを伝えて選んでもらうスタイルを取りましたが、企画段階でもっと意見交換の機会や準備の時間があれば良かったなと思います。より主体的に商品づくりに関わることで食品ビジネスの一面を体験できるいい機会になるはずだからです。

――2年連続での出店を通して、今後の「18っ祭!」に期待することはどんなことでしょう。

石村:もっと高校生と地元企業が直接話し合ったり交流できたりする場を設けることで、より深いところまで理解し合い協力体制ができるのではないかと感じています。「18っ祭!」は高校生が地域活性化と向き合うきっかけになるのと同時に、地域の企業や商店にとっても大事な機会になるので、両者の間に信頼関係や達成感のようなものが生まれるともっと充実した内容になるのかな、というのが個人的な印象です。

ボランティアスタッフとして高校生が大人たちと触れ合い、イベントを運営するのはとても良い経験になります。ぜひ次回も参加して少しでも若者の社会経験の後押しができたらと思います。

――各社から、「18っ祭!」というイベントが四国中央市の若者たちと地域企業との懸け橋になっていることが感じられる言葉が寄せられました。また次回以降の開催にも期待が高まります。