夏本番!アイス関連銘柄の決算書分析

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夏本番!アイス関連銘柄の決算書分析

森永乳業<2264>のロングセラー商品「ダブルソーダ」が2017年3月末で販売終了となった。2本のバーで友達と分け合うことができる懐かしい商品の販売終了を惜しむ声もあるようだ。

暑さの本番を迎える時期である今回は、アイス関連企業の決算内容を概観し、少しでも涼しい気分を味わっていただければと思う。以下では、食品大手の森永乳業<2264>、冷菓が主力の井村屋グループ<2209>、店舗展開がメインのB-Rサーティワンアイスクリーム<2268>という3タイプのアイス関連企業の決算を取り上げたい。

PINO(ピノ)を筆頭にロングセラー商品で利益率の改善めざましい森永乳業

近年の売上高、利益額の推移を見ても、業界大手の貫録を感じさせる安定した決算内容となっている。もっとも、単体売上のうちアイス関連の売上構成比は12.1%であり、多くは市乳(44.9%)、乳製品(21.5%)などが占めている。

同社の決算で注目すべきは、安定した業績の中でも利益率が大幅に向上している点だ。もともと売上に対する利益率が低い業種であるため上記グラフでは目立たないが、経常利益率と当期利益率だけをピックアップしてグラフ化してみると下記のようになる。

売上高は16年3月期に過去最高の6,014億円に達し、17年3月期は前期比1.6%減の5,926億円となったものの、営業利益、経常利益などの各段階損益は17年3月期に過去最高を記録した。これはプロダクトミックス(商品構成)の見直しと生産工程のローコストオペレーションによる徹底した合理化の推進が奏功したことによる。ともすれば、「ダブルソーダ」の販売終了もそうした商品構成の見直しによるものだったのかもしれない。

かつて森永乳業はユニリーバと提携して「エスキモー」という商標を使用していた時期がある。チョコレートでコーティングされた一口サイズのアイスをピックで刺して食べる「PINO(ピノ)」は「エスキモー」ブランドの立上げ期から存在するロングセラーだ。

森永乳業HP アイスクリームより

そのほか、「MOW(モウ)」や「PARM(パルム)」といった商品でも「エスキモー」のブランド名を使用していたが、現在では社名と同じ「森永乳業」ブランドに統一している。

井村屋グループは「あずきバー」並みの手堅い業績

井村屋の売上のうち「冷菓」の占める割合は31.8%(17年3月期)に及ぶ。冷菓カテゴリーの中でも、とりわけ看板商品となっているのが和風アイスの「あずきバー」だ。16年4月1日出荷分から価格を約10%値上げしたものの、17年3月期の売上本数は前期比103.2%と好調な売れ行きとなった。

井村屋HP あずきバー シリーズ

やはり、売上に対する利益率が低い業種であるため、経常利益率と当期利益率をピックアップしてグラフ化してみる。これらのグラフからわかるように、近年、順調に売上を伸ばし、それに伴い利益も着実に確保している。17年3月期に至っては売上高、利益額とも過去最高となる好調ぶりだ。

主力の「あずきバー」が利益率の向上に貢献したことも大きいが、きなこを使った和風アイスである「やわもちアイス」シリーズの売上が、新商品「やわもちアイスわらびもち」の健闘もあり、前期比57.2%増と大幅に伸びたことも決め手となった。

井村屋HP やわもちアイス

また、冷菓以外にも、あんまんなどの加温カテゴリー、ようかんなどの菓子カテゴリー、スイーツや調味料といった事業分野でも全般的に売上増を達成している。

V字回復に期待!のサーティワンアイスクリーム

サーティワン アイスクリームHPより

B-Rサーティワンアイスクリームは、1973年に不二家<2211>と米国バスキン・ロビンス社の合弁会社として設立された経緯を持つ。バスキン・ロビンスの日本におけるフランチャイズ本部として、ロードサイド型店舗、ビルイン型店舗、フリースタンディング型店舗などを出店し、現在では全国1,100店舗を超えるまでになっている。

同社の事業内容はアイスクリームの製造および販売となっているが、森永乳業や井村屋などのメーカーとは趣を異にし、フランチャイジー店舗への商品供給がメインストリームとなっている。16年12月の売上高197億円のうち、製品(アイスクリーム、シャーベット、スペシャリティデザート)の売上が150億円、ロイヤリティー収入が35億円、店舗用設備賃貸収入が10億円という割合になっている。

B-Rサーティワンアイスクリームの販売実績

(単位:千円) 前年同期比(%)
製品 アイスクリーム 11,699,238 5.8
製品 シャーベット 1,154,939 30.8
製品 スペシャリティデザート 2,242,414 2
小計 15,096,592 6.7
ロイヤリティー収入 3,517,238 5.6
店舗用設備賃貸収入 1,092,452 0.6
合計 19,706,283 6.2

同社有価証券報告書(28年12月期)販売実績より

過去5年間の売上高および段階損益の推移は下記のようになっている。近年、利益率の悪化が見られるため、森永乳業および井村屋と同様、利益率だけの推移も合わせて掲記したい。

15年12月期は、7月から9月の天候不順、コンビニ需要の高まりなどの影響を受けて特に業績が落ち込み、40年ぶりの最終赤字となってしまった。翌16年12月期には、かつて好調であった2000年代の原点に戻るべく、「Back to Basics」という戦略テーマを掲げ、マーケティングに注力した。フレーバー、ターゲット、キャンペーンなどを根本から見直し、6月から8月には大型のプロモーションを実施、テレビCMやSNSなども積極活用した結果、16年12月期における売上高は前期比6.2%増の197億円と回復した。

7月26日に発表された17年12月期の第2四半期(17年1~6月期)業績でも、売上高は前年同期比3.3%増の92億円、経常損益は1,500万円の赤字(前年同期は1億7,800万円の赤字)、最終損益が3,200万円の赤字(前年同期は8,900万円の赤字)と回復基調がうかがえる。なお、上半期で赤字になること自体は、季節要因を考えると致し方ない面もある。前年同期と比較して数値が改善しているのであれば、通期の数値にも期待が持てるといえるだろう。むしろ、今夏、この瞬間に、コンビニで「あずきバー」を買うのか、サーティワンの店舗に足を運ぶのかという消費行動こそが本決算での命運を分けるということができる。

3社それぞれの苦労

ガリガリ君 スペシャルサイトより

上述した井村屋「あずきバー」の値上げは実に24年ぶりの値上げであった。実は、それと平仄を合わせるように、赤城乳業(注:非上場)の「ガリガリ君」も16年4月1日出荷分から25年ぶりの値上げを実施した。

いずれのアイスも小売価格で60円(税別)から70円(税別)の値上げとなっている。当然、仕切値はさらに低く、木製バーの原料費アップだけでも原価率に相応の影響を与える。

森永乳業の主要得意先はセブンイレブン(17年3月期の販売高に占める割合11.5%)、井村屋の主要得意先は日本アクセス(同28.8%)、三菱商事(同12.1%)となっており、いずれもコンビニや商社相手にシビアな利益率での舵取りをしていく必要があるだろう。

また、サーティワンのような業態にしても、フランチャイジー店舗での売上が落ちれば自社の損益がマイナスに転じるという脆さが露呈したところだ。

今回取り上げた各社の企業努力に思いを馳せれば、普段なにげなく食べているアイスにも、より有難みを感じるのではないだろうか。

文:M&A Online編集部