昭光通商をTOBで傘下に収めた「アイ・シグマ・キャピタル」とは

alt
アイ・シグマ・キャピタルの本社がある「大手町ファーストスクエア」

昭和通商を丸紅グループへ統合

昭和電工<4004>の子会社昭光通商<8090>がTOBで上場廃止となる見込みです。買収を仕掛けたのは丸紅<8002>傘下の投資ファンド「アイ・シグマ・キャピタル」(千代田区)です。昭和電工は28.89%分の昭光通商株をTOBに応募し、連結対象から外れます。アイ・シグマ・キャピタルは昭光通商を丸紅グループに統合することにより、経営の効率化が図れるとしています。

アイ・シグマ・キャピタルは2008年に135億円の1号ファンド、2013年に203億円の2号ファンド、2019年に318億円の3号ファンドを立ち上げました。5大商社の一つ丸紅の広範なネットワークを生かして案件を獲得し、老舗からベンチャーまで旺盛な勢いで取り込むアイ・シグマ・キャピタルとはどのような会社なのでしょうか。

この記事では以下の情報が得られます。

・アイ・シグマ・キャピタルの概要、業績推移、投資先
・昭光通商を買収した理由

バイアウト投資とベンチャー投資の2軸で活躍

アイ・シグマ・キャピタルは、日本の独立系投資ファンドの先駆けとなったアドバンテッジパートナーズ(港区)が丸紅と共同で国内初のバイアウトファンド「MBIファンド」1号を1997年に立ち上げたことが、誕生のきっかけとなりました。

このとき、アドバンテッジの創業者である笹沼泰助氏とリチャード・フォルソム氏の提案に対して、丸紅はゼネラル・パートナー(GP)、リミテッド・パートナー(LP)として出資することを決めました。これが軌道に乗ったことで2000年に両社共同でMBIファンド2号を立ち上げます。

同時期に丸紅はベンチャーキャピタルファンド1号を組成しました。そして、丸紅の100%子会社としてアイ・シグマ・キャピタルが設立されます。

5月下旬に稼働…丸紅の新本社ビル(東京・大手町、旧本社ビル跡地に建設)

1990年代後半から2000年代にかけては銀行の不良債権処理が加速し、再生ファンドが大活躍した時代です。更にIT革命と呼ばれる時期が近付いており、1996年にオン・ザ・エッヂ(後のライブドア)、1997年にエム・ディー・エム(後の楽天)、1999年にイー・マーキュリー(後のミクシィ)などの先進的な会社が次々と誕生していました。

アイ・シグマ・キャピタルは、日本のバブル崩壊とIT革命のはざまで生まれた商社系ファンドとして、ベンチャー投資から再生ファンドまで、幅広い案件を手掛けています。同社のような商社系ファンドのベンチャー投資は、エグジット目的のベンチャーキャピタルとしてだけではなく、本業との相乗効果を得る目的で運用するコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)の両方の性格を持っていることになります。

■アイ・シグマ・キャピタルの沿革

1997年 ・アドバンテッジパートナーズと丸紅が共同で国内初のバイアウトファンド「MBIファンド」1号を立上げ
2000年 ・MBIファンド2号をアドバンテッジパートナーズと丸紅が共同で立上げ
・丸紅が、丸紅ベンチャーキャピタルファンド1号を立上げ
・アイ・シグマ・キャピタル設立
2003年 ・旧UFJ銀行等と丸紅が共同で企業再生ファンド「シナジー・キャピタル」を立上げ
・MBIファンド3号をアドバンテッジパートナーズと丸紅が共同で立上げ
2004年 ・中国国際信託投資公司(CITIC)、 住友信託銀行、新生銀行と丸紅が共同で、中国に進出する日本企業を支援するバイアウトファンド「CITIC Japan Partners」(約170億円)を立上げ
・アイ・シグマ東京ベンチャーファンド1号の設立
2006年 ・バイアウトファンド運営関連業務を丸紅からアイ・シグマ・キャピタルに移管
2008年 ・アイ・シグマ事業支援ファンド1号(135億円)を立上げ
2013年 ・アイ・シグマ事業支援ファンド2号(203億円)を立上げ
2019年 ・アイ・シグマ事業支援ファンド3号(318億円)を立上げ

※ホームページをもとに筆者作成

アイ・シグマ・キャピタルは投資実行後の支援にも特色があります。経営戦略や事業推進支援を行うのは他のファンドと同じですが、丸紅のネットワークを活かして国内の商流構築ができます。また、海外からの資材調達や海外の販売拠点も設立でき、世界展開の足掛かりを得ることもできるのです。

投資をする条件として企業価値が200億円、出資規模が75億円を上限として設定しています。独立系投資ファンドは外食・小売り系企業が比較的多くなりがちですが、アイ・シグマ・キャピタルは、どちらかというと製造・販売業の比重が高い印象です。

■アイ・シグマ・キャピタルの投資先

〇アイ・シグマ事業支援ファンド1号

投資時期 会社名 事業内容 現状
2009年3月 株式会社 スイートスタイル ベーカリー・カフェ事業(麻布十番モンタボー、元町珈琲) 譲渡済
2009年12月 株式会社 寿製作所 医療機関向け特定サービスのアウトソーシング受託事業 譲渡済
2011年1月 ゴールドパック 株式会社 清涼飲料及び原料果汁・野菜汁等の製造販売 譲渡済
2012年3月 株式会社 マオス/株式会社 新総企 コインパーキング事業 譲渡済
2013年4月 プレミアファイナンシャルサービス 株式会社 オートクレジットおよびワランティ(中古車車両部位保証)事業 譲渡済

〇アイ・シグマ事業支援ファンド2号

投資時期 会社名 事業内容 現状
2013年9月 株式会社 飯野ホールディング 自動車部品製造業 譲渡済
2015年4月 合同会社 コーケンホールディング 重防食塗装・補修工事等 譲渡済
2016年6月 バリオセキュア 株式会社 マネージドセキュリティー事業、セキュリティー機器販売事業 継続支援中
2016年7月 株式会社 京都セミコンダクター 光半導体デバイスの開発・製造 継続支援中
2016年7月 株式会社 日東コーン・アルム 冷凍ケーキを中心とした菓子類の製造 譲渡済
2018年3月 株式会社 ショクカイ 食品卸売 継続支援中
2018年3月 株式会社 ミスズライフ ぶなしめじ生産・販売 継続支援中

〇アイ・シグマ事業支援ファンド3号

投資時期 会社名 事業内容 現状
2019年10月 ミニター 株式会社 電動マイクログラインダー等の製造販売・仕入販売 継続支援中
2019年8月 株式会社 和コーポレーション 金属加工業、各種産業装置製造業 継続支援中

ホームページより引用

ベンチャー企業には、ソーシャルレンディングのマネオ(品川区)、アフィリエイトネットワークのバリューコマース(港区)、金融機関向けのシステム開発を行うキャピタル・アセット・プランニング(大阪市)などに投資をしています。

アイ・シグマ・キャピタルの業績は堅調に推移しています。

■アイ・シグマ・キャピタルの業績

2018年3月期 2019年3月期 2020年3月期
純利益 1億3,600万円 4億1,900万円 5億2,800万円

※決算公告より筆者作成

昭和電工が昭光通商の売却に踏み切った3つの理由

昭光通商は昭和電工の子会社。昭和電工が製造する化学品、合成樹脂、金属セラミックスなどの製品を販売し、昭和電工の材料の仕入れも担う中核商社として機能しています。1947年に設立され、1976年に昭和電工の商事子会社と合併しました。2020年6月末の段階で、昭和電工は43.79%の株式を保有しています。

昭和電工が昭光通商の売却に踏み切った理由は大きく3つあります。

1つは昭光通商の業績が振るわなかったことです。昭光通商は2020年12月期の売上高が前期比16.0%減の1,007億2,600万円となりました。営業利益は39.6%減の12億9,700万円に留まっています。

化学品商社の堺商事<9967>は2021年3月期の営業利益が前期比23.5%増の8億円での着地を予想しており、昭光通商の苦戦ぶりを際立たせる結果となりました。また、昭光通商は競合商社と比較して低利益率に苦しんでいます。昭光通商の営業利益率は1.5%。堺商事が1.7%、非鉄金属商社のアルコニクス<3036>が2.5%と、他社と比較して遅れをとっていました。

売却に至った2つ目の理由は、昭和電工が事業ポートフォリオ再編へと動いたことです。昭和電工は2020年4月に日立化成をTOBによって完全子会社化しました。この買収には1兆円を投じており、昭和電工は2,000億円分の事業を売却する方針を打ち出しています。今回の昭光通商の売却はその一環となります。

昭和電工は2018年ごろから昭光通商との資本関係の見直しを進めていました。これは、親子上場などを問題視したものです。これが理由の3つ目です。

丸紅と昭和電工は、旧富士銀行の融資企業を中心とした芙蓉グループに属しています。両社の関係が近く、企業文化などが近いことからアイ・シグマ・キャピタルのTOBに賛同することとなりました。なお、昭和電工はTOBの成立後も経営に一部関与するため、保有株式の14.9%は保持する意向を示しています。

昭光通商の買い付け価格は796円。過去3か月の終値平均に23.2%のプレミアムをのせました。昭光通商は丸紅グループで経営改善と成長に向けて走り出すこととなります。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由

参考記事:
丸紅系投資会社、昭和電工<4004>傘下で化学商社の昭光通商<8090>をTOBで子会社化
TOBデータ詳細(ログインすると閲覧できます)