【人材サービス分野のM＆A】3年連続の27件、高水準をキープ｜じげん、トップの4件を手がける

2022年の人材サービス業を対象とするM＆A件数は前年と同じ27件だった。実は27件は3年連続。過去10年で最多だった2018年の30件には届かなかったものの、高水準をキープしている。コロナ後を見据え、経済活動が正常化に向かう中、ITエンジニアをはじめ物流、不動産関連など専門人材に対するニーズの高まりが旺盛なM＆Aにつながっている。

大手企業の人材子会社・事業の売却が目立つ

コロナ禍初年の2020年は経済活動の縮小に伴い、産業界では派遣社員を削減する動きが広がり、人材サービス各社は逆風にさらされた。ところが、M＆A意欲をむしろ刺激する形となり、前の年（2019年）の16件から27件に増加。続く2021年、2022年も基調に大きな変化はなかった。デジタル革新で業務の効率化を目指すDX（デジタルトランスフォーメーション）の進展でIT関連の人手不足に拍車がかかっていることも見逃せない。

2022年のM＆A戦線で目立ったのは上場の大手メーカーなどがグループ内の人材サービス子会社・事業を手放す動きだ。コプロ・ホールディングスは高砂熱学工業の子会社が手がける人材派遣・有料職業紹介事業を取得した。高スキルの技術者を多数受け入れ、主力である建設・プラント技術者派遣事業の基盤を強化する狙い。

日総工産はニコンとの共同出資子会社で人材派遣・紹介のニコン日総プライム（横浜市）の株式を追加取得し、子会社化（所有割合51％）した。ニコン日総プライムは2003年に、ニコンが高年齢従業員の雇用機会の開拓や確保を目的に設立したニコンスタッフサービスが前身。製造・技術系派遣大手である日総工産の傘下で、新たな事業展開を目指す。

大丸、松坂屋を傘下に持つJ.フロントリテイリングから人材サービス子会社のディンプル（大阪市）を買収したのは、ワールドホールディングス。百貨店業界で培ってきた接客スキル・経験を備えた人材を迎え入れ、主力の製造系派遣・請負にとどまらず、接客販売やコンタクトセンターといったサービス系人材事業の強化を目指す。ディンプルの株式90％を約38億円で取得した。取得金額は2022年の人材サービス関連のM＆Aで2番目の規模だ。

アウトソーシングとUTグループは各1件

2021年はアウトソーシングが最も多い年間6件のM＆Aを手がけ、これにUTグループが3件で続いたが、2022年は一転して両社とも1件にとどまった。

それでもアウトソーシングは62億円あまりを投じて金額トップとなる案件に取り組み、存在感を発揮した。子会社化したのは倉庫内作業向け人材派遣・請負のサンキョウ・ロジ・アソシエート（東京都渋谷区）。アウトソーシングが主力とする製造・技術系派遣は景気変動の影響を受けやすいが、事業サイクルが異なる分野の業容拡大につなげる狙いだ。一方、UTグループはベトナムでの人材サービス事業再編に伴い現地子会社の譲渡を決めた。

メディア企業のじけん、主役に躍り出る

2022年のM＆A戦線で主役に躍り出たのは、メディア企業のじげんだ。同社は求人・不動産関連の情報サイト運営を主力とする異業種だが、人材サービス分野で4件のM＆Aを実行した。また、人材サービス分野で2件以上の複数をこなしたのも同社だけだった。

じげんがターゲットにしたのは4件中、3件が人材紹介会社。建設業向けのStruct（東京都渋谷区）、不動産業向けのビヨンドボーダーズ（東京都新宿区）、製造業向けのタイズ（大阪市）で、主力の求人・不動産情報領域での送客力の強化や顧客基盤の拡大などの相乗効果を見込む。残る1件は運送業界向けに求人メディアを運営するオーサムエージェント（名古屋市）で、これまでカバーしていなかった運送業界での展開を目論む。

DXの進展で即戦力のITエンジニアの獲得ニーズはますます高っている。ギークスは、IT人材サービス事業のオーストラリアLaunch Group Holdings（シドニー）の株式70％を約19億円で取得し、2023年1月に子会社化する。アジア太平洋域内で国境をまたぐ形でIT人材のマッチングやIT人材育成ビジネスに乗り出す。

◎人材サービス業を対象とする主なM＆A（HDはホールディングスの略）