24人の死者を出した大阪繁華街ビル火災、同じ事態になったら?

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大阪市の繁華街にある「堂島北ビル」で12月17日に発生した火災は、わずか30分ほどで鎮火したにもかかわらず、24人もの死者を出す大惨事になった。火元になったのは心療内科・精神科「働く人の西梅田こころとからだのクリニック」で、放火とみられる。なぜ、ここまで被害が大きくなったのか。万一、そうした事態に遭遇したら、どうすればいいのか。

密閉空間でのガソリン放火で生き残る可能性はほぼない

放火事件は2019年7月に36人が死亡、33人が重軽傷を負った京都アニメーション放火事件や、今年10月に京王線車内で犯人が刃物で他の乗客を切りつけた上、可燃性の液体をまいて放火し18人が重軽傷を負った事件など、相次いで起こっている。

今回の繁華街ビルでは京都アニメーション同様、ガソリンのような揮発性の高い液体可燃物を引火させた可能性が高そうだ。今回のように狭い屋内で、しかも火元付近にしか出入り口がない密閉空間の場合、できることはほとんどない。もはや出入り口付近に放火された時点で、内部に取り残された人たちの運命は決まっていた。

しかし、出入り口が複数あり、空間が広ければ助かる道はある。今回の繁華街ビルでは犠牲者のほとんどにやけどなどの外傷が見られなかったことから、一酸化炭素中毒死の可能性が高そうだ。一酸化炭素は密閉空間での火災が酸素不足によって不完全燃焼状態になった場合などに発生する。

空気中における一酸化炭素濃度が0.16%を超えると、死亡するリスクがあるという。1.28%を超えると1〜3分で死亡する。高濃度の一酸化炭素を吸った場合は、頭痛や目まいなどの自覚症状がなく瞬時に昏睡に陥り死に至るという。ほぼ即死だ。

一酸化炭素中毒のリスクがある中で、最もやってはいけないのは高い場所へ移動すること。京都アニメーションでは1階に放火されたこともあり、屋上へ逃げ出そうと階段を登ったところで意識を失い、死亡した人が多かった。

犠牲者のうち20人は、3階から屋上へ上るわずか10数段の階段で折り重なるように倒れた状態で死亡。このうち5人は屋上扉のすぐ手前で力尽きていた。つまり、ここで亡くなったほとんどの犠牲者は、やけどなどの外傷を負っておらず、階段を駆け上がる体力があったことになる。

逃げるのは横か下、タオルやハンカチは濡らさない

意識を失う瞬間までは身体機能もほぼ完全だったはずで、まさか数歩上がったところで倒れるとは本人たちも想像がつかなかっただろう。これが一酸化炭素中毒の恐ろしさだ。

火災が発生すると、一酸化炭素を含む煙は毎秒3~5mの速度で垂直に上昇する。人間の足で階段を駆け上がっても逃げ切れない。さらに天井に達した煙は秒速0.5~1mの速度で横方向に広がり、徐々に低い場所へ下がっていく。つまり上層階へ逃げるのは、一酸化炭素の濃度が高い所へ飛び込むのと同じ行為なのだ。

火災が起きた場合は、横方向か下へ逃げるのが正解だ。避難する際には立ち上がって走るよりも、ゆっくりでも姿勢を低くして移動した方が一酸化炭素中毒のリスクは軽減する。逃げ遅れた場合も、できるだけ姿勢を低くしておくことが生還につながる。

家具や壁などのすきま、壁や家具などと床との間の隅、階段の隅に空気層が残っている可能性があるので、呼吸をする時はそうした場所を選ぶ。タオルやハンカチを鼻と口に当て、一瞬たりとも外さずに避難するのも重要だ。

タオルやハンカチで鼻と口を覆っても一酸化炭素や有毒ガスを防ぐ効果はないが、咳などの原因となる白煙などの刺激性物質の吸入は抑えられる。白煙を吸い込んで咳き込むと呼吸が苦しくなって、より大量の白煙や一酸化炭素などを吸い込んでしまう。それを防ぐだけでも生還率は高まる。

「水に濡らしたタオルやハンカチを口に当てると良い」とも言われるが、消防庁消防研究センターの実験によると、乾燥していても水に濡らしていても白煙の吸入を防ぐ効果は同じ。むしろ濡らすことで通気抵抗が高まり、息苦しくなるため、避難には逆効果だという。タオルやハンカチは乾いたままで鼻と口を覆って逃げるのが正解だ。

「なんだ、その程度の対策か」と思われるかもしれないが、ガソリン放火のように爆発的に燃え広がる火災では、その程度の対策しかないのが現実だ。こうした火災では運が悪くて助からないのではなく、助かる方が幸運なのである。わずかな可能性しか残っていないにせよ、最善を尽くして幸運な生還に一縷(いちる)の望みをかけるしかない。それほど人間は火災に対して無力なのだ。

文:M&A Online編集部