中国企業のM&A戦略を紹介するシリーズ。今回は、本間ゴルフの買収を取り上げる。
2016年11月、世界で初めて政府首脳で大統領選勝利後のドナルド・トランプ氏と非公式会談した安倍晋三首相 は、トランプに本間ゴルフ特注品のドライバーをプレゼントした。このことが「本間ブランド」が再度注目を集めるきっかけになり、またこのとき実質的に本間ゴルフは中国資本の傘下に入っていたことが話題にもなった。
本間ゴルフは、1958年にゴルフ練習場からスタートし、翌年に法人化した。1963年からゴルフクラブの製造に乗り出した。その後、1970年代から、ゴルフクラブをはじめとし、自社ブランドのゴルフウエアやゴルフ関連用品の販売も開始する。
1980年代から1990年代にかけては、バブル景気を背景にゴルフブームに乗り、事業を拡大していった。しかし、バブル景気崩壊後、ゴルフ市場の縮小などに伴い、資金繰りが悪化していく。
2005年、本間ゴルフは民事再生手続き開始を申し立て、ジャスダックの上場も廃止されてしまう。
そして2010年、中国系ファンドのマーライオン・ホールディングスの傘下に入ることになる。会長には劉建国氏が就任した。劉建国氏は、クリート・マネジメント・カンパニー・リミテッドと提携し、共同でマーライオン・ホールディングスを通じて本間ゴルフの株式の合計85%を買収したと発表された。
本間ゴルフ会長の劉建国氏は、どういった人物なのだろうか。
劉氏は1991年に北京大学大学院を卒業した後、北京大学の情報科学科で教授として研究を続けていた学者出身の人物である。1997年~1998年はアメリカに渡り研究に従事した。
2000年に百度(バイドゥー)に入社すると、様々なソフトウエアの開発にかかわるようになる。2006年、正式に百度の最高技術責任者(CTO)に就いたものの、同年に百度を退職する。
百度を離れた後、2007年に「愛帮(aibang)」を設立し、「愛帮網」というインターネットサイトを立ち上げた。
愛帮網は、中国ローカルの生活密着型のポータルサイトである。パソコン版だけでなく、スマホ版にも力を入れている。検索ができたり、ニュースや記事を読んだりすることができるだけでなく、SNSとの連携も強めており、オンライン共同購入に対する取引のプラットフォームも開通している。
劉建国氏は、温州出身であり、温州市は浙江省にある。浙江省は東シナ海に面しており、上海市の南側に位置している。浙江省には、杭州市・寧波市などがある。
温州人は、頭がよく、商才に長けていると言われているが、実はビジネスの世界だけでなく、政治家や学者も多い。また、「華僑」として世界中に散らばっており、様々な分野で活躍している。
ジャスダック上場廃止から11年後の2016年、本間ゴルフは香港市場で上場を果たした。
最近では2018年1月に、伊藤忠商事<8001>が本間ゴルフに出資すると発表された。これにより、伊藤忠商事の出資比率は6.29%となった。本間ゴルフにとっては、伊藤忠商事が繊維分野で持つネットワークを活用してゴルフウエアやゴルフバッグなど関連商品を強化し、ブランド力を高める狙いがあると言われている。
中国では2011年以降、中国当局によるゴルフ場整理の施策により多くのゴルフ場が閉鎖に追い込まれた。このゴルフ場閉鎖により、中国におけるゴルフ人口増加の速度が緩まり、ゴルフ業界成長の妨げになっているとも言われている。
中国のゴルフの広まりとゴルフ業界の動向とともに、今後も本間ゴルフの戦略に注目していきたい。
文:M&A Online編集部