旅行大手のHIS「コロナ禍収束」を見越し反転攻勢に

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H.I.S.ホテルホールディングス​が運営する変なホテル(東京・浜松町)

大手旅行会社のエイチ・アイ・エス<9603>が、コロナ禍の収束を見越して攻勢に打って出た。同社子会社のH.I.S.ホテルホールディングス(東京都港区)が、新型コロナウイルスの影響で収益が悪化しているホテルや旅館を対象に、M&Aや資本、業務提携、人材派遣などの取り組みを強化する。 

早期の市場回復を見込む国内旅行需要や2021年の東京五輪で増加が見込まれる訪日旅行需要に、いち早く備えるのが狙いで、すでに沖縄・久米島のリゾート施設「リゾートホテル久米アイランド」の運営や管理業務に参画することで同ホテルの運営会社と合意したほか、複数の宿泊施設と同様の協議を行っているという。 

新型コロナウイルス向けワクチン開発が急速に進んでおり、順調にいけば2021年前半には多くの人へのワクチン接種が実現する可能性がある。 

こうした情勢を踏まえ今後、外出や旅行の自粛などで溜まっていた観光需要が一気に盛り上がることを想定した、同様の取り組みが広がっていきそうだ。 

地域経済の活性化や雇用の確保も 

H.I.S.ホテルホールディングスは、リゾートホテル久米アイランドの運営会社で海洋深層水を利用したミネラルウォーターや自然塩の製造販売を手がける久米島海洋深層水開発(沖縄県久米島町)と業務提携し、同施設の運営や管理業務を通じて、ホテル事業を拡大するとともに、エイチ・アイ・エスグループの集客力を生かした久米島の観光産業の発展に取り組む。 

リゾートホテル久米アイランド

リゾートホテル久米アイランドは、久米島最大級の敷地面積と201室の客室のほか、プールやテニスコート、宴会場、レストラン、ラウンジなどを備え、日本の渚100選に選ばれたイーフビーチに隣接している。 

H.I.S.ホテルホールディングスは今後、既存のホテルや旅館との資本提携を含む協業を強化する方針で、同社が持つ先進性やテクノロジーなどとホテルや旅館が持つ運営ノウハウを合わせ、新しい運営スタイルを確立することで、地域経済の活性化や雇用の確保などに貢献するとしている。 

H.I.S.ホテルホールディングスは2016年の設立で、変なホテル、ウォーターマークホテル、グリーンワールドホテル、グアムリーフホテルの4ブランドを展開し、日本やバリ島、台湾、グアムで36施設を運営している。 

エイチ・アイ・エスは赤字に転落 

エイチ・アイ・エスの2020年10月期第2四半期は新型コロナウイルス感染症による影響で、売上高は3443億5300万円と前年同期比8.9%の減収となり、営業損益は14億6900万円、経常損益は7億6000万円、当期損益は34億5900万円のいずれも赤字に転落した。通期の業績見通しについても新型コロナウイルス感染症による影響を読み切れないとして未定としている。 

新型コロナウイルスのワクチンについては、日本政府が英国の製薬会社であるアストラゼネカとの間で、2021年初めから1億2000万回分(このうち3000万回分は2021年1-3月)のワクチン供給を受ける契約を結んでおり、米国の製薬会社ファイザーからも2021年6月末までに6000万人分の供給を受けることで基本合意している。 

さらに武田薬品工業<4502>が米国のバイオ企業のNovavaxから技術移転を受け年間2億5000万回分を製造(時期は未定)するほか、塩野義製薬<4507>も2021年末までに3000万人分を生産する計画。このほかにもアンジェス<4563>などの日本企業3社がワクチンの量産に取り組んでいる。 

これら企業によるワクチンの供給量や日程などが明らかになってくるのに伴って、いち早く需要回復後の準備に入ったエイチ・アイ・エスに続く動きが旅行業界で現れることが予想されるほか、他の業界でもコロナ後に向けた取り組みが次第に表面化していきそうだ。

文:M&A Online編集部