赤字拡大の「HIS」と黒字転換見込む「JTB」その分かれ目は?

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大手旅行会社のエイチ・アイ・エス(HIS)<9603>が2021年12月28日に、延期していた2021年10月期の決算を発表した。

当初は12月13日に発表を予定していたが、子会社2社に GoToトラベル事業の給付金の不正受給などの疑いが生じ、調査に時間がかかったためだ。

決算は70%を越える大幅な減収と、640億円を超える営業赤字となっており、前年度を上回る厳しい内容となった。同業のJTB(東京都品川区)もコロナ禍の中、経営環境は変わらないが、赤字幅は縮小傾向にあり、2022年3月期の第2四半期では当期黒字を達成し、通期でも当期黒字を見込む。両社の業績の分かれ目は何なのか。

子会社2社の不正で業績を修正

HISの2021年10月期の売上高は前年度比72.4%減の1185億6300万円と大幅な減収となった。これに伴って営業損益は640億5800万円の赤字(前年度は311億2900万円の赤字)、経常損益は632億9900万円の赤字(同312億8300万円の赤字)、当期損益は500億5000万円の赤字(同250億3700万円の赤字)となった。

新型コロナウイルスの感染症拡大の影響で、主力の旅行事業の売上高が前年度比88.0%の減収となり、営業損益が383億3600万円もの赤字(同211億2700万円の赤字)に陥ったのが最大の要因で、電力小売りなどのエネルギー事業の営業赤字102億6400万円、ホテル事業の営業赤字58億6800万円(同34億8100万円の赤字)を大きく上回った。

さらに、決算発表延期の原因となった子会社2社に対する調査では、GoToトラベル事業の給付金の不正受給などが判明し会計処理の修正を行った結果、売上高は20億100万円、営業損益は5億8700万円、経常損益は5億8700万円、当期損益は3億9500万円の減少となった。

旅行以外の事業に差

これに対しJTBは、2021年11月19日に発表した2022年3月期第2四半期決算では、売上高は前年同期比38.5%増の1789億円と増収を達成。営業損益は331億円の赤字(前年同期は711億円の赤字)、経常損益は260億円の赤字(同580億円の赤字)、当期損益は67億円の黒字(同782億円の赤字)で回復傾向が見られた。

海外旅行は相変わらず壊滅的な状況に陥っているものの、国内旅行が前年同期比43.0%増加し、訪日旅行も10倍ほどに増えたほか、ふるさと納税事業やオンラインサービス、人事総務系などのソリューション事業などの旅行以外の事業が同71.5%と好調だったのが効いた。

それでも営業損益、経常損益は赤字から抜け出せなかったが、当期損益は不動産の売却などによって、黒字を確保することができた。

旅行以外の事業の売上高は931億円で、旅行事業の売上高867億円を64億円上回り、コロナ禍で旅行事業が縮小する中、売上規模が逆転した。

通期でもこの傾向は変わらず、国内旅行需要を取り込み、ソリューション事業などに注力するとともに経費の圧縮などに取り組むことで、当期損益の黒字を維持する計画だ。

国内旅行の取り込みが進み、旅行以外の事業が好調に推移するJTBと、国内旅行に回復が見られず、エネルギー事業などの旅行以外の事業でも大きな赤字を計上したHISとの間で、業績に格差が生じた。

文:M&A Online編集部