旅行の「HIS」エネルギー事業から農業事業にシフト

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同社ニュースリリースより

大手旅行会社のエイチ・アイ・エス(HIS)<9603>が、事業再構築の動きを強めている。同社は2022年4月28日に、電力小売などのエネルギ―事業を手がける子会社のHTBエナジー(福岡市)を、光通信<9435>の子会社HBD(東京都豊島区)に譲渡する契約を結ぶ一方、新会社HISファーマーズ(埼玉県蓮田市)を設立し、農業事業の拡大に乗り出した。

HTBエナジーの直近(2021年9月期)の売上高は371億円ほどで、HISの直近(2021年10月期)の売上高1185億円の3分の1ほどを占める主要事業だったのに対し、農業事業の売り上げはこれからだ。

HTBエナジーは、電力調達価格の高騰などによる事業環境の悪化から直近(同)の営業損益は94億円ほどの赤字に陥っているが、コロナ前の2019年9月期は10億円を超える営業利益を計上していた。農業事業がエネルギー事業の穴を埋めることは可能だろうか。

HTBエナジー、2021年9月期は債務超過に

HTBエナジーは2015年にHISが100%出資して設立した電力小売り事業会社。電力調達価格の高騰に加え、電力販売に必要な供給量を調達できなかった場合のペナルティ(インバランス料金)が高額になったことなどから、2021年9月期には債務超過に陥った。

このためHTBエナジーの再建には時間がかかると判断し、電力小売事業に知見のあるHBDへの売却を決めた。

今回の売却を機にHISグループと光通信グループの各社が業務提携を予定しており、通信事業、保険事業などで、新商品や新サービスの共同開発などに取り組むという。

【HTBエナジーの業績推移、単位:億円】

サツマイモやトウモロコシを栽培

HISは2021年12月から埼玉県蓮田市で、ミニトマトの栽培の実証実験とマーケティングに取り組んできた。

トマトの販売を始めるにあたってHISファーマーズを設立し、2022年5月から法人として活動を始めたもので、トマトは1作目に15トン、2作目に11トンの収穫を予定している。

現在はトマトに加え、宮崎県日南市でグレープフルーツの栽培を行っており、今後は埼玉県羽生市でサツマイモやトウモロコシなどの栽培にも取り組む計画だ。

農業事業に続く取り組みも

HISの2021年10月期の売上高は前年度比72.4%減の1185億6300万円にとどまり、営業赤字は前年度の2倍以上の640億5800万円に(前年度は311億2900万円の赤字)に膨らんだ。

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、主力の旅行事業をはじめ、ハウステンボスのテーマパーク事業、変なホテルなどのホテル事業、電力小売りのエネルギー事業、バス事業などの九州産交グループは、いずれも赤字だった。

HISはコロナ禍の中、旅行事業をはじめ各事業の回復に備え、財務体質の強化に取り組んでおり、今回のエネルギー事業の売却と農業事業の立ち上げに続く取り組みも、今後浮上しそうだ。

文:M&A Online編集部