相次ぐ弾道ミサイル発射、北朝鮮の「ものづくり力」は向上した?

alt
北朝鮮の弾道ミサイル発射実験がハイペースで繰り返されている(Photo By Reuters)

北朝鮮の弾道ミサイル発射実験が今月で7回を超えた。これを受けて岸信夫防衛相は「敵基地攻撃能力の保有も含め、あらゆる選択肢を検討している」と危機感を強め、韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領もおよそ1年ぶりに国家安全保障会議(NSC)全体会議を開き「(ミサイル発射実験が相次いだ)2017年の緊張時に似た様相を呈している」と警鐘を鳴らした。気になるのは軍の交戦能力に直結する北朝鮮の「ものづくり力」だ。

「一品生産」ものであれば容易

北朝鮮のミサイル制御能力は向上しているとの見方がほとんどだ。1月30日午前に発射されたミサイルは通常より高い軌道を通過する「ロフテッド軌道」で発射され、あえて飛距離を抑えた可能性が高い。北朝鮮は2016年2月に発射実験した「光明星」で射程1万2000〜1万3000kmの飛行を実現していることから、すでに大陸間弾道ミサイル(ICBM)の製造は十分に可能だ。

北朝鮮製ミサイルのベースとなる技術は、旧ソ連のマカエフ記念設計所が開発した「R-27潜水艦発射弾道ミサイル」(通称「SS-N-6」)から得た。北朝鮮の弾道ミサイルはコピー品もしくは改良品だ。とはいえ、今年に入って7回の発射実験に成功している。北朝鮮の「ものづくり力」は高いのだろうか?

一概にそうとは言えない。実は弾道ミサイルのような「一品生産」の工業製品であれば、少数の熟練工が存在すれば生産は可能だ。ただ、同じミサイルでも月産数十台レベルを超え、少数の熟練工だけでカバーできなくなると品質の維持が難しくなる。命中精度が下がったり、場合によっては発射に失敗するケースも多発するだろう。

「ものづくり力」は「量産力」

旧日本軍でも日米開戦に備えて、米フォード・モーターや米ゼネラル・モーターズ(GM)から調達していた軍用トラックの国産化に乗り出した。試作車では米国車を上回る品質や性能を発揮したものの、実際に量産が始まると品質不良が多発したとの記録が残る。

これも試作車では優秀な熟練工が製造の全行程に携わったものの、量産ではそこまで手が回らなかったため製造工程で一般工員によるミスや不具合が多発したことが原因だった。日本の「ものづくり力」すなわり「量産力」が向上するのは、生産管理が広く普及した戦後の高度成長期を待たなければならなかった。

つまり、「ものづくり力」とは高品質での量産を可能にする生産管理・技術を指す。経済不振が続き、大型工業製品の量産実績が乏しい北朝鮮の「ものづくり力」は高くなさそうだ。軍事力でも「一品生産」の弾道ミサイルや輸入品の兵器は機能しても、純国産の通常兵器では品質不良による稼働率の低下が懸念される。

1998年には北朝鮮の小型潜水艇がサンマ漁の網にかかって航行不能となり韓国海軍に捕獲されるなど、実際の運用上でも問題が発生している。少数しか配置できない弾道ミサイルは、外交交渉の威嚇か先制攻撃でしか使えない。仮に北朝鮮が先制攻撃に成功したとしても、安定した品質の量産兵器を供給できる「ものづくり力」がなければ、軍事的な反撃に耐えられず短期間のうちに全土が制圧されることになる。

文:M&A Online編集部