【博報堂DYホールディングス】世界に通用するノウハウの買収を仕掛け、電通と異なる成長を

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※画像はイメージです

 2014年5月、社内カンパニーの「kyu」を発足からM&Aを強化しだした博報堂DYホールディングス。電通のように買収による派手な規模的な成長を得るのではなく、アシュトン・コンサルティング、Digital Kitchenの買収に見られるように、世界に通用するノウハウの買収を仕掛けている。

 シナジーによってオーガニック成長を促すのが当面の方向性か? 業績やBSの推移から探る。

世界に通用するノウハウの買収を仕掛け、電通と異なる成長を

 博報堂DYホールディングス<2433>は、博報堂を中心とする広告代理店の持株会社である。

 グループの中核である博報堂は、1895年に教育雑誌の広告取次社として創業された。1950年に「内外通信社」に商号変更された際も広告部門は「内外通信社広告部博報堂」と称して名を残し、55年に再度「博報堂」に戻る。2001年に広告会社である大広、読売広告社と提携。2003年10月に3社の株式移転によって博報堂DYホールディングスが設立された。05年に上場。

 博報堂DYホールディングスの16年3月期の連結売上高は1兆2152億円であり、電通に次いで国内広告業界2位の広告代理店である。3位以下とは一線を画する二大巨頭として博報堂とともに「電博」と称される。

 日本国内首位であり、世界有数の広告会社となった電通とも比較しながら博報堂DYホールディングスのM&A経歴を見ていきたい。

■博報堂DYホールディングスの行ったM&Aは以下のとおりである。

年月 内容
2006.7 博報堂DYメディアパートナーズを通じて、F1層に特化した広告メディアレップのF1メディアの株式34.42%を第三者割当引受により買収。
2007.4 博報堂DYメディアパートナーズを通じて、映画製作・劇場配給とビデオ・DVDの発売などを行う東芝エンタテインメントの株式100%を買収。
2008.1 店頭マーケティングのアウトソーシングを専門とするメディアフラッグの株式10万株を買収、出資比率・金額共に非公開。
2008.6 連結子会社の読売広告社を通じて、インターネット領域に強みを持つ不動産広告のデベロップジャパン(売上高13億4千万円)の株式20%を第三者割当増資引き受けにより買収。
2008.9 博報堂を通じて、Webインテグレーション事業大手(売上高42億8千万円)のアイ・エム・ジェイの株式20.88%を買収。
2009.5 博報堂DYメディアパートナーズを通じて、スポーツ・コンテンツ・データの販売に強みを持つデータスタジアム(売上高12億8千万円)の株式53.12%を6億1千万円で買収。
2010.11 デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムを通じて公開買付によりインターネットマーケティング広告を主業とするアイレップ(売上高115億円)の株式を20.55%から53.76%まで9億2千万円で追加取得。
2011.12 博報堂を通じて公開買付により、営業支援、販売促進業務のアウトソーシング事業及び人材派遣事業を行うバックスグループ(売上高110億8千万円)の株式93.55%を31億8千万円で買収。
2012.3 デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムを通じて公開買付により、インターネット関連広告事業のngi group(売上高53億3千万円)の株式42.38%を18億8千万円で買収。
2013.4 博報堂を通じて、ファッション、スポーツ関連業種の広告事業を行うコスモ・コミュニケーションズ(売上高71億3千万円)の株式100%を14億1千万円で買収。
2014.2 博報堂DYメディアパートナーズ、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムを通じて、インターネットマーケティング広告を主業とするアイレップの株式を3.25%ずつ11億4千万円で追加取得。博報堂DYメディアパートナーズが7.85%、デジタル・アドバタイジングが57.08%まで持株比率を引き上げる。
2014.5 米国の専門マーケティングサービス企業であるSYパートナーズの株式100%を買収。
2014.5 米国の専門マーケティングサービス企業であるRed Peak Groupの株式100%を買収。
2015.1 博報堂を通じて、企業広報支援を手掛ける英国のアシュトン・コンサルティングの株式の65%を買収。
2015.6 デジタルコンテンツ製作及びブランド体験創出に特化したDigital Kitchen(米国)の株式100%を買収。
2015.7 カナダのクリエイティブエージェンシーSid Lee Internationalの株式100%を買収。
2016.2 米国の世界的に高名なデザイン/イノベーション会社のIDEO LPの持分30%を取得。将来的に過半数を所有するオプションを保有することに合意。

 08年にはインターネットやECの台頭を見据えてWebインテグレーション事業大手のアイ・エム・ジェイの株式を取得しているが、それ以外の買収対象は主に同業の広告会社である。買収金額・対象の売上規模共に大きくはないのも特徴だ。現在までの時点で売上高が最も大きい買収対象は10年11月に株式を約30%追加取得したアイレップで、売上高は115億3千万円。次いで11年に31億円を投じたバックスグループであり、こちらの売上高は110億8千万円。

 13年まではM&Aの対象エリアも国内のみである。もちろん自前で拠点を構えて進出しているが、早くからアジアや米国、インドなどにM&Aで進出していた電通とは対照的だ。13年には英国イージス社を買収し、世界に飛び出した電通に比べると、どこか攻め手に欠ける印象が拭えない。

 博報堂DYホールディングスがM&Aを強化する方針を打ち出したのは14年5月、社内カンパニーの「kyu」を発足してからだ。

 13年11月に発表した19年3月期までの新中期経営計画により、広告事業のみにとどまらずマーケティング戦略の企画・提案など企業に対するコンサルティング事業を成長事業と位置付けた。「枠取り」に徹し、広告会社が顧客の注文通りに広告をつくるだけの時代は終わったとして、アイデアを売り込み、川上に打って出る形だ。しかしながらほとんど広告事業専業に近い博報堂DYホールディングスはこの分野でのノウハウに強くない。北米や欧州の専門的・先進的なマーケティング手法を提供する企業の買収にkyuは向こう5年間で500億円以上を投じる使命を担う。

 14年5月のkyuの発足と同時に米国の専門マーケティング会社であるSYパートナーズ及びRed Peak Groupを買収。欧米への進出の足掛かりとする。

 翌15年1月には企業の広報支援などを手掛ける英国のアシュトン・コンサルティングの株式の65%を取得。6月にはデジタルコンテンツの製作やブランド体験環境の創出を手掛け、多くのクリエティブアワードを獲得している米国のDigital Kitchenを完全子会社化。同じ期中に、カナダのSid Lee International、米国のIDEO LPと続く。

 宣言通りに、専門性が高く、世界に通用するノウハウの買収を仕掛ける。

 博報堂DYホールディングスの業績の推移を見て行きたい。

■業績推移

 上場直後の05年3月期の売上高が1兆895億円で営業利益が223億円。その後若干の波はあるがおおむね順調に推移し、09年から10年にかけてはリーマンショックの影響で落ち込みが見られる。13年以降は売上高を着実に積み上げながら、営業利益ベースでは過去最高益が続く。博報堂DYホールディングスによると、13年3月期の過去最高益の達成位は売上総利益の伸びとグループ各社の販管費コントロールによるものであると言い、14年3月期も同様。

 14年3月期に掲げた19年3月期へ向けての経営目標はのれん償却前営業利益で450億円。成長イメージとしては売上総利益増額に占める成長割合を「オーガニック:M&A=50:50」としていた。16年3月期にはのれん償却前営業利益は472億円となり、既に中期目標を前倒しで達成している。

 なお、基準年となる14年3月期からの売上総利益増分に占める割合はM&A:オーガニック=41:59。オーガニック成長に追い付くべくM&Aを行うとしても、あまり大規模な買収は必要ない。最初からM&Aを売上や利益の単純な積み増しに位置付けていないことがうかがえる。電通のイージス社買収のように規模的に派手な成長を追い求めるのではなく、あくまでM&Aでは規模よりノウハウを買いに行き、シナジーによってオーガニック成長を促すのが当面の方向性というところか。

■ネットデットと自己資本比率

 BSの推移においても博報堂DYホールディングスは電通と対象的である。多数のM&Aやイージス買収によって借入が増え、一時は自己資本比率が30%を下回った電通と比べ、博報堂DYホールディングスは自己資本比率が40%を下回ることがない。加えて、上場以来ネットデットは常にマイナスであり、年々キャッシュを蓄え続けている状態だ。

 大変良好なバランスシートだが、過大な現預金を社内に眠らせているという見方もできる。kyuの発足から5年間のM&A予算が500億円以上というのは同社の過去のM&A経歴から見れば強気な設定だが、財務面から見るともう少し冒険できるようにも見受けられる。リスクを取ってでも事業規模を追う電通とはこの点でも趣が異なる。

 kyuの発足から日が浅い中、早くも中期経営目標を達成した博報堂DYホールディングス。19年までは電通とは異なる成長戦略を描くが、その戦略にM&Aが組み込まれていることに変わりはない。事業のノウハウ、M&Aのノウハウを蓄えて19年以降はどのような戦略を描くのか。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部