6月20日まで宣言延長! 新型コロナと戦うバス事業|人とものを「運ぶM&A」

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新型コロナを乗り越えられるか…東京の主要バスターミナル「バスタ新宿」(EIKICHI/写真AC)

緊急事態宣言が延長され窮地に立たされ続けるバス事業だが、死中に活路を見いだす事業者も増えているようだ。今回は「新型コロナとの戦い方が見えてきた」とも言える事業者の戦いぶりを見ていこう。

レストランバスを有効活用

旅行会社からスタートしバス、鉄道、さらに海外進出、MaaS(サービスとしての移動)アプリを活用した旅の提案へと発展させているWILLER(大阪市。村瀨茂高社長)。その傘下でバス事業を手がけるWILLER EXPRESS(東京都江東区。平山幸司社長)は、以前から展開していたレストランバスをコロナ対策としても活用し、ウェディングパーティープランまで加えて力を入れている。屋根の開くバスのため、密閉を避け、さらに乗車人数を制限する、酒類の提供をせずソフトドリンクのみとするなどの感染対策を強化している。

WILLERは2017年に、国光汽車客運股份有限会社(台湾最大手の高速バス会社)の運営する国光威楽仮期旅行社股份有限公司に出資し、グループ傘下に入れたことでも知られる。また自動運転実験などにも積極的に取り組んでいる。

独禁法特例法を有効活用

個々の事業者だけでは対応できないケースでは、共同運行も進んでいる。これは、独占禁止法特例法(地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律)が2020年3月に閣議決定、11月に施行したことを受けてのもの。

国⼟交通⼤⾂の認可を受ければ乗合バスなどの共同経営には独禁法を適⽤しないことになったのだ。そもそもは、人不足、後継者不足など運行の維持が難しいバス路線を、なんとか維持して地域の交通インフラを保とうと打たれた施策である。

その特例として2021年3月に、九州産交バス・産交バス・熊本電気鉄道・熊本バス・熊本都市バスの5社による共同運行と、岡山電気軌道と両備ホールディングスによる共同運行が認められた。

各社で個別に運行すれば、公共交通で重要な運行回数を維持、向上できる可能性もある。滅多に来ないバスをあてにする人は少ない。頻度を上げて利便性が増せば乗客も増え、経営を維持できる可能性も増す。共同運行は、コロナ禍でも有効な対策になるかもしれない。

ダイナミックプライシングで底力を発揮

最も台数を持つバス事業者は小田急グループだろう。単独のバス事業で台数トップと言われている神奈川中央交通は、小田急グループの傘下(持ち分法適用関連会社)だからだ。

小田急グループに次ぐ規模なのが西日本鉄道(西鉄)。西鉄というと鉄道事業がメインだが、実はバス保有台数で日本有数のバス会社でもある。福岡、北九州を中心としていながら、「西日本」と広大なエリアを連想させる社名。知名度は全国級なのである。

その西鉄は2019年4月に完全子会社だった西鉄高速バスを吸収合併している。目的は安定的な高速バス乗務員の確保、安全性の向上、柔軟な要員配置を実現するためだった。新型コロナ禍で減便を余儀なくされた2020年以降、図らずもこの柔軟性が発揮されている。

高速バスは、全国の高速道路網を活用することで、鉄道とは異なり、極論を言えば全国どこにでも直接、旅客を届けることができる。慢性的な人員不足、厳しい価格競争もあるとはいえ、潜在需要は底堅い。とくに、航空機(空港)、船舶(港)と主要都市や観光地を直接結ぶことができる優位さは、いまのところ代替できる交通機関はない。車両も快適性が年々向上している。

西鉄は2021年4月23日から、福岡~東京線(はかた号)でダイナミックプライシング型を導入したことも話題となっている。WEB予約限定で、便によって運賃が上下する。以前から早割(2カ月前から)を実施していたが、繁忙期と閑散期の需要の差が大きいことから、直近の予約状況に応じて幅広い価格帯でより柔軟に運賃を変動させることにしたのだ。

たとえばビジネスシートは、12,200円~16,400円の5パターンから9,000円~18,000円の12パターンとなった。以前より最安値はさらに安く、最高値はさらに高く幅を持たせた。予約状況によっては、最高値の半額もあり得る。つまり、コロナ後も見据えて、大胆に改革していくチャンスだと捉えている。

MaaSの潮流に乗り遅れるな!

みちのりホールディングスは、関東、岩手、福島から広域連携による地域経済活性化を図ろうと経営共創基盤によって2009年に設立された。2019年4月、同グループの茨城交通と日立電鉄交通サービスを経営統合(存続会社は茨城交通)している。両社は2017年にみちのりホールディングスの完全子会社となっていたが、共通の事業分野を持ち、営業エリアも隣接していることなどから、経営資源の最適化、効率化のために統合した。たとえば、ICカード導入などについても、統一的に推進していくことができる。

MaaSは、ICT(情報通信技術)を活用して私たちの交通に対する概念を変える世界的な流れとなっており、バス事業者に限らず多くの交通関係事業者が取り組んでいる。マイカー以外は、一つのクラウドの中のサービスとして予約、決済されていくことになると考えられている。

たとえば小田急グループでは、専用MaaSアプリの開発、神奈川中央交通と組んでの実証実験参加、オンデマンド交通への取り組みを推進している。オンデマンド交通とは、公共交通でありながら利用者の予約(需要)に合わせた運行をする仕組みだ。

バス事業はMaaSの中でも重要な要素となる。しかし、予約システム、Wi-Fiサービスや電子決済などで事業者によってバラツキがあるのが実情だ。

厳しい状況の続くバス事業だが、アフターコロナを見据えて、時代の要請に合わせた改革を急ぐためには、M&Aはもちろん、国際化、共同化、地域連合化などさまざまな動きが出てくるに違いない。

文:舛本 哲郎(ライター)