M&Aで会社を高く売却するために知っておきたいポイント

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写真はイメージです

M&Aにおける売却価格の交渉は最重要課題です。近年は「スモールM&A」といって、中小企業や小規模・個人事業主までもが、経営戦略や事業承継のためのM&Aを行っています。

そのため、売手経営者が単独でM&Aに臨むといったことも見られます。しかし、単独で行うのはお勧めできません。

ここでは、売手企業経営者が、M&Aで会社高く売却するために知っておくべきポイントについて、解説してみたいと思います。

M&A交渉で必要なこと

一般的に、売手企業経営者にとってM&Aは一生に一度の大仕事です。しかし、買手候補企業の場合、M&Aを経営戦略の一環として位置付けているので、過去に何度もM&Aを行っている可能性があります。その都度、経験豊富なM&A仲介事業者や専門家の支援のもと、交渉を行っていますから、このままでは売手・買手交渉以前に結果は明白です。

M&Aで、売手企業経営者が会社を高く売却する前提としては、M&A仲介事業者の選定、そして適時な情報開示と情報収集などが必要です。

①︎M&A事業者の選定

M&Aを有利に行うためには専門知識を持ったパートナーが必要です。それには、M&Aの経験が豊富で成約率の高い仲介事業者を選定すること。確かに、事業者へ支払う費用も重要ですが、自社との相性もまた大切な要素です。複数のM&A仲介事業者と面談し、その事業者、特に担当者との相性を見極めます。

また、業務委託契約(FA契約)締結の際は、双方契約(双方の間に同じ事業者が入る)や不利な専任契約を強要されないよう注意が必要です。

②︎適時な情報開示と︎買手候補企業の情報収集

開示すべき情報としては、まず、財務情報で直近3年分の決算書が必要です。当然財務内容の良い方が有利な価格交渉が可能になります。

また、他社にない独自の技術・知識・ノウハウといった知的資産など非財務情報も、積極的に開示しておきます。逆に、経営者が高齢で体調が思わしくないなどネガティブな情報は、控えた方が良いでしょう。

一方、買手企業についての情報収集も必須条件で、その際の主なポイントは以下の通りです。

・大企業か中小企業か(上場会社か非上場会社か)
・どのような業種・業態なのか
・M&Aの目的は、M&Aに求めるものは何か

これらにより、上場会社で大企業なら財務内容や経営規模も明らかなため、売却価格の概要なども把握しやすいでしょう。また、シナジー効果が目的なら、自社の事業との整合性、そしてどのような人材・技術・ノウハウを求めているのかなどもわかります。

売買交渉の手法は?

一般的なM&Aの売買交渉の手法としては、「相対方式」と「入札方式(オークション)」の二つがあります。売手経営者は、自社の希望する売却価格と買手候補企業の情報から、相手候補の検討・絞込みと交渉方法の選定とを行っていきます。

相対方式…買手候補企業を1社のみとして交渉する手法
メリットは、買手候補企業と今後の経営方針など十分に検討できるため、M&A後の企業の成長性について相互に理解を得やすいこと。デメリットは、十分時間をかけて検討できる分、逆に買手候補企業に交渉の主導権を握られ、希望した売却価格に至らないこともあるということ。

入札方式…複数の買手候補企業と同時に交渉する手法
メリットは、複数の買手候補企業が提示した売却価格から、より有利な条件で価格を選べる。デメリットは、長期間にわたる交渉になるため、売手企業にとっても、買手候補企業にとっても負担が大きく、中小企業などでは敬遠されがち。

相対方式入札方式のどちらがよいかというものではなく、自社の事情に応じて、使い分けや折衷的な手法も検討すべきでしょう。

売手企業経営者はM&A仲介会社を介して、買手候補企業と交渉するわけですが、自社の利益を優先するあまり客観性・合理性のない売却価格をおし通していては、まとまるものもまとまりません。M&Aも売買契約の一つですから、相手の信頼や理解があって初めて成立します。

買手候補企業がどのような目的でM&Aをしたいのか、どのようなシナジー効果を期待しているのか、どのような成長を目指しているのかなど、相手に歩み寄り理解する努力も必要です。

そうすることで、買手候補企業も同様に歩み寄る過程で、売却価格も双方が納得する合理的な金額に落ち着いていくのです。M&Aおける最良の売却交渉テクニックとは地道な努力そのものなのです。

文:特定行政書士 萩原 洋