売手企業・買手企業で違う「売買希望金額」の落としどころ

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写真はイメージです

中小企業がM&Aなどにより自社を売却したり、他社を買収する際、その対象となる会社を「いくらで売るか」「いくらで買うか」。その売買の値段は、どのようなプロセスを経ながら決まっていくのでしょうか。

売手企業と買手企業が希望する値段

売手企業からすれば、苦労して創業しその後も幾多の苦難を乗り越え、現在まで手塩にかけた会社です。さらに、特許権やブランド、ノウハウ、技術などの知的資産や知的財産などがあるかもしれません。

このような無形の資産・財産も含めての評価額ですから、売却の際にはできるだけ高く売りたいと考えるのも当然です。売手企業は、どちらかといえば主観的な評価による売却価額を設定します。

これに対し、買手企業は、あくまで事業活動の一環としてM&Aを行うわけですから、その買収価額は、経済的な裏付けのある、客観的・合理的な評価によるものになります。

ただ、実際の売買取引の場面では、このような客観的・合理的な価格を提示しても、売手企業は自社の希望する売却価額でなければ、なかなか応じようとしません。

一方、買手企業にとっては、何らかの必要性があるため買収するわけですから、買収不成立となった場合、経営戦略上または事業戦略上に支障が生じて、その後の経営戦略などが思うように進展しなくなる恐れも出てきます。

そこで、売手企業の希望する売却価額に対し、仮に買手企業がその価額で買収したとして、自社の事業上採算がとれるかどうかを検討し、採算に合わなければそれに応じた価格を再度提示し、売手側が応じてくれるか検討します。

こうしたプロセスを経ることで、最終的な売買価額に落ち着いていきます。

会社の値段を決める企業価値評価と決定方法

会社の値段を決める前提に、客観的・合理的な企業価値を算定・評価する必要があります。

企業価値評価は、M&Aを行うため、株式増資に際して、あるいは相続時における相続税算定のためなど目的に応じた様々な手法があります。これらの手法を単独で使用したり、複数組み合わせて使用したり、用途に合わせた使い方があります。主な企業価値評価の手法を簡単に紹介します。

アセット(コスト)アプローチ
会社の有する資産に着目したものです。主に、成熟期以降の会社を対象とした企業価値評価を行う場合に適しています。

インカムアプローチ
会社の収益やフリーキャッシュフローなどの額を、一定の割引率で割引いた現在価値に着目したものです。成長段階にある会社を対象とした企業価値評価を行う場合に適しています。

マーケットアプローチ
株式市場における価値(株式相場)に着目したものです。同じ業種で上場している会社があり、比較がしやすい場合によく使われます。

一方、最終的な会社の価額の決定方法については、客観的・合理的な判断基準などを参考にしながらも、売手企業・買手企業の主観的な思惑に左右されます。

このような主観的・相対的な価額の決定方法としては、「相対方式」と「オークション方式」と呼ばれる方法があります。こちらも簡単に解説すると以下のようになります。

相対方式
売手企業・買手企業双方が1対1で行います。その都度価格交渉できるので、まとまりやすい反面、1対1ということで、その価額は妥当かどうか客観的判断が難しいというデメリットもあります。

オークション方式
複数の会社を対象とする方法です。価格を比較検討することができる反面、価格のみで判断をするため、買収後の事業統合に支障をきたすリスクもあります。

会社の値段というのは、企業価値評価による合理的な価格のみで決まるわけではありません。また、売手企業・買手企業が希望する価格だけで決まるわけでもありません。売手企業・買手企業が交渉をする中で歩み寄っていくことで、両者が納得した会社の値段が決まっていきます。

文:特定行政書士 萩原 洋