会社の事業を他の会社に移転する「会社分割」

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写真はイメージです

M&Aスキームの中に「会社分割」というものがあります。会社分割とは会社の有する事業の全部、または一部を他の会社に移転するものです。

この会社分割には分割した事業を既存の会社が引き継ぐ「吸収分割」と、新たに設立した会社が引き継ぐ「新設分割」の二つがあります。

会社分割の目的とは?

会社分割の目的は主に三つあります。一つ目は成長部門を切り離して別会社、子会社化する、二つ目は不採算部門を分離・譲渡して事業を集約、効率化する、そして三つ目が手続きが煩雑な「事業譲渡」を回避することで、早期に事業を移転するというものです。

会社分割するメリット・デメリットとは?

会社分割にはメリット・デメリットそれぞれあります。分割会社と承継会社に分けて見てみましょう。

分割会社のメリット・デメリット

メリットとしては一定の場合、課税を回避できること。デメリットとしては、①税務処理が煩わしい②非上場株式を取得した場合、換金化が難しいことなどです。

承継会社のメリット・デメリット

メリットとしては①対価として必ずしも現金を用意する必要がない、②事業譲渡などに比べて引き継ぎが容易、③利益準備金・剰余金の引き継ぎもできること。 デメリットとしては事業に必要ない資産や簿外債務などを引き継ぐリスクがあることなどです。

会社法における「吸収分割」と「新設分割」

会社法上は分割会社が、承継会社・新設会社から分割の対価を受ける「分社型分割(物的分割)」のみですが、法人税法上は「分社型分割(物的分割)」と「分割型分割(人的分割)」があります。

会社法上の会社分割は法定手続きに沿って見ていくと理解しやすいと思います。

吸収分割の手続きの流れ

①分割会社と承継会社による分割条件についての基本合意を行う
②分割会社と承継会社における取締役会等での承認を得る
③吸収分割契約の締結
④分割契約書その他書面の事前開示を行う
⑤分割会社と承継会社における株主総会特別決議を行う(簡易分割、略式分割では、株主総会特別決議を省略できることがある)
⑥反対株主からの株式買取請求手続きを行う
⑦債権者保護手続きを行う(分割後の分割会社に債務の履行を請求できる債権者には必要ない)
⑧必要事項を記した書面の事後開示を行う
⑨分割会社と承継会社による商業登記上の変更登記をする

新設分割の手続きの流れ

①分割会社における取締役会等による新設分割計画案の決議を行う
②新設分割計画の策定をする
③分割会社における分割計画書その他の書面の事前開示を行う
④分割会社における株主総会特別決議を行う(吸収分割と同様、簡易分割、略式分割の規定がある)
⑤反対株主からの株式買取請求手続きを行う
⑥債権者保護手続きを行う(吸収分割同様、履行請求できる債権者の手続き省略規定がある)
⑦必要事項を記した書面の事後開示を行う
⑧新設会社の設立登記及び分割会社の変更登記を各別にする

なお、新設会社の分割の効力は設立登記により、分割会社・承継会社の分割の効力は分割契約に定めた日によるとされます。ですから分割後、これらの会社と取り引きする場合には注意が必要です。

税務上の会社分割とは?

法人税法上、会社分割は、分社型分割(物的分割)と分割型分割(人的分割)に分けられますが、さらに、税務上の要件を満たすものを「税制適格分割」、それ以外のものを「税制非適格分割」に分類します。 税制適格分割のほうが税制非適格分割に比べ、課税の繰り延べ等分割会社・承継会社共にメリットがあります。

M&Aにおける会社分割は法改正などにより、以前よりも使い勝手のよい組織再生スキームとなりました。 そのため、自社の経営戦略上の目的に照らし、他のM&Aスキームとも比較・検討しながら有効活用したいものです。

文:特定行政書士 萩原 洋