事業承継問題のカギを握る「サーチファンド」① 事業承継問題の実態

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写真はイメージです

中小企業の事業承継が大きな社会問題となっている。後継者が見つからず、廃業となれば雇用が失われ、経済に大きな影響が見込まれるためだ。この問題の解決策として国は親族外承継を推奨しており、M&Aをはじめいろいろな取り組みが現れてきた。

サーチファンド(個人が投資家からの資金援助を受けM&Aによって経営者になる仕組み)もその一つ。そこで、サーチファンドを運営するGrowthix Investment(グロウシックス・インベストメント、東京都中央区)の竹内智洋代表取締役にサーチファンドの仕組みやサーチャー(M&A先を探している個人)になるための注意点などを連載していただく。

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私は日本の事業承継問題の解決のカギを握るのはサーチファンドだと考えています。なぜならサーチファンドは①効率的に後継者人材が育成・発掘され、②後継者不在企業との巡り合わせが実現し、③海外からの学びも取り入れつつ今後も成長し続けられる企業に変えていくという三つの特徴を持っているからです。

日本では2025年までに経営者が70歳を超える企業が245万社に達し、そのうち127万社は後継者がいないために廃業する可能性があります。またこの結果、日本のGDPのうち22兆円が消失し、この過程で650万人近い雇用が失われると言われています(中小企業庁調べ)。

そこで後継者不在問題解決の糸口になるサーチファンドの仕組みをはじめ、後継者として歩むセカンドキャリアの実態、また後継者となられる方にとって有益と思われる情報を、実例を交えつつお伝えします。

幅広い後継者候補の育成が重要

サーチファンドは経営者を志す個人が事業承継したい会社を探し、経営者とコンタクトを取ることができるモデルです。後継者候補はサーチファンドを用いることで、譲渡企業と近い業界で苦労をした経験を社長と共有したり、自身の考える企業の成長戦略について議論を重ねることもできます。

この様な対話の中から経営者と後継者候補の間で1対1の関係性が構築され、経営者の安心感はもちろん、後継者候補に親しみを感じ、応援したい、自分の会社を引き継いでもらいたいという想いに繋がっていくのだと確信しています。

日本は縁や繋がりを文化的に重要視する国であり、その結果、世界的にも知られた「親族内承継」が主流の国になったと言われています。例え身近に承継する血縁者がいなかったとしても、この感覚はなかなか変わることはなく、第三者への事業承継を選ばない一因になっています。

よって、事業承継問題を解決するためにはできる限り幅広い後継者候補を育成し、後継者を必要とする会社に紹介し、経営者と後継者候補の相互の理解を深めることで、血縁とは異なる繋がりを感じて頂ける環境を整えることが重要になるのです。

事業承継問題を考えるきっかけは

私が日本の事業承継を考えるきっかけとなったのは祖父との何気ないやり取りでした。

社会人一年目になった私が初めて名刺をもって就職報告に行くと、指で紙を撫で名刺を鋭い目つきで眺め、使用された紙とインクの種類を言い当てられたことを今でも覚えています。

幼少期を海外で過ごした私にとって祖父の仕事話を聞ける機会は限られていましたが、その時祖父は名刺一つをとっても、顧客の要求に合わせて、与えられたデザインに対して忠実に色を作り、線の太さや色使いなど非常に細やかな部分にまで気を配り作ることを説明してくれました。

従業員数名規模の会社ではありましたが、その分顧客のことを考え、一度に100枚、200枚単位で発注される名刺の1枚ずつに気を遣い、それらがビジネス現場で手渡されるところまでイメージしながら一つひとつの案件に向きあう祖父の背中を見て、強い尊敬の念を持ったことを今でも鮮明に覚えています。

現在は叔父が会社を引き継いでいますが、日本の経済にはこうした素晴らしい技術と志を持った「中小企業」があることを初めて意識すると同時に、こうした事業が受け継がれることの意味合いを考えたきっかけとなりました。

こうして先人達が作り上げ、守ってきた技術と伝統を失ってはならない、さらにはバトンを引き継いだ上でしっかりと事業を伸ばし100年後も続く会社を作っていきたいという思いが中小企業の事業承継問題の解決を目指した現在の仕事への原動力にもなっています。

中小企業の廃業によってサプライチェーンに大きな影響が

日本の中小企業の多くは連なる鎖(チェーン)の様に、商流を構築し、支えあいながら価値を創出しています。例えば、大手企業から金属パーツの加工依頼を受ける下請け会社を考えた場合、仕入れ先の原料メーカー、特殊加工の外注先、搬入搬出を受け持つ輸送会社、納入先など多くの関連会社が存在することが想像できます。

実際はこれ以上に多くの会社との関係性が存在しますが、これらすべての会社が密に協業しながら一つのパーツを作っています。関連会社の一つひとつが鎖の素子となり、一つが欠けた時に代理が入らなければ商流が繋がらなくなるのです。

長い時間をかけることができれば、一つの鎖素子が欠けたとしても、その関連会社であるサプライチェーンが代理となる企業を見つけながら、日本を支える鎖を補強することができます。

しかしながら、127万社が2025年までという限られた期間の中で失われた場合、この大きな流れに各サプライチェーンが対応することは困難を極め、影響を受ける企業も多くなります。こうした連鎖があらゆる業界で起きることにより日本全体のGDP衰退を加速させる結果を招くことに繋がるのです。

こうした問題を解決する一つの方法としてサーチファンドがあります。個人としての承継を考えている方はもちろんのこと、後継者不在で困っている企業が身近にある方、また日本の将来に不安を感じている方などのお役に立てればと考えています。

文:竹内 智洋Growthix Investment代表取締役