事業承継のカギを握る「サーチファンド」③魅力的なキャリアの選択肢

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写真はイメージです

サーチファンドとは個人(ネクストプレナー/サーチャー)が後継者として金融機関や投資家から資金を調達し、投資実行をする仕組みです。弊社としてはこの仕組みを活用し、多くの後継者を創出することで、事業承継問題を解決する糸口にしたいと考えており、これは更に後継者となる個人にとっても魅力的なキャリアの選択肢であると確信しています。

40~50代の方へ 中小企業経営者になるすすめ

事業承継のカギを握る「サーチファンド」②サーチファンドの発祥』では、サーチファンドがアメリカでMBA取得者のキャリアパスとして作られたことをご説明しました。スタンフォード大学が2年ごとに出しているサーチファンドスタディによれば、アメリカやカナダでは35歳以下のサーチャーが全体の74%を占めています。一方で日本においては、サーチャー対象者の年齢がもう少し幅広くなっています。これには海外と比べて伝統や経験を重んじる傾向の強い日本の特徴から、経営者の求める後継者像の年齢層を引き上げているからだと思います。20~30代の若くて優秀な方々がサーチャー(ネクストプレナー)として活動することはもちろん素晴らしいことですが、日本の事業承継問題の解決方法としてサーチファンドを考えると、40~50代の方々がキャリアの中で得た経験・知見を用いて後継者になることを特に推奨し、こうした事業承継の事例を増やしていくことに努めるべきだと感じます。

また私は、多くの経験・知見を積んでこられた40~50代の方々にこそ、自身のキャリアパスの観点から事業承継を経て経営者となることを検討して頂きたいと思っています。長年勤めた会社で経営者になる選択肢ももちろん素晴らしいキャリアの一つですが、突出したコアバリューを持つ中小企業と出会い、創業者の夢や想いに触れ、自身でその企業を経営し、成長・発展させることは非常に意義のあるキャリアです。もともといた会社から巣立った優秀な社員が、20年以上のキャリアの中で培ったスキルを最大限に活かし中小企業の経営者となり、古巣との繋がりも活かしつつ社会的な価値の創出に貢献する。こうした動きを通じて日本社会全体の底上げが出来たら良いと考えます。

40~50代の方がサーチャー(ネクストプレナー)に向いている理由

<1>組織でのマネジメント経験が活きる

    中小企業の経営を行うことは日々新しい課題と向き合い、決断を迫られ、物事を前に進めていくことの繰り返しです。もちろんどのような投資実行においても、可能な限り事前に組織図、財務状況、デューデリジェンス資料等を確認しつつ企業調査を行いますが、投資実行後に明らかになることも非常に多いものです。例えば、投資実行をする前に「営業職が5名」と説明を受けたとします。一般的に数字上だけで判断した場合には、自立し、高いスキルやモチベーションを持つ営業5名をイメージしがちですが、現実は必ずしもそうとは限りません。スキル、心身の健康状態、性格も十人十色な中、一人ひとりのパフォーマンスを最大化させるトレーニングを実施し、マネジメントをすることが求められるのです。これは一つの例ですが、この様な状況下において、自分に求められている役割やとるべきステップを具体的にイメージし実行できることが重要であり、ここで組織におけるマネジメント経験が活きると考えています。

    <2>特定の業界で一定期間過ごした経験から培われた知恵や人脈が活きる

      また企業の拡大においても、一定の年数を特定の業界で過ごした経験が大きな糧となります。今まで多くの中小企業の創業者からお話を伺う中で、創業時の苦労や困難、そして、それを乗り越えてこられた類稀なカリスマ性に触れてきました。そうした創業者の方々は長い年月の中でアイデアを形にし、新規の顧客開拓に励み、企業を大きくされたのだと心底尊敬の念を頂きます。一方、その次を任されるサーチャー(ネクストプレナー)に求められるスキルは少し異なるように感じます。創業者自身に求められる主なスキルが新しい発想やアイデアを迅速に形にしていく力だとするならば、サーチャーに求められることは、組織と事業の強みを適格に見極めた上で安定的な成長を積み上げることになります。新しい画期的なアイデアはもちろん重要ですが、それ以上に今まで企業が確立してきたビジネスのコアバリューを深く理解し、遡及し、安定的に成長できる性質の会社を作っていくことが求められるのです。承継した事業の伸びしろを見極めたり、販路を見出す中で今まで類似業界で培ってきた知恵や人脈が活きるのだと考えます。

      20~30代の方へ COOやCFOというキャリアパスのすすめ

      もちろんこれは、20~30代の方々が経営者に向いていない、ということではありません。実際、大学院を卒業してすぐにカルチャーの合う企業で社長になられる方もいますし、20代でいくつも会社を経営し成功させた方もいます。

      しかし私は、意識が高い20代の方々にはもう一つのキャリアパスとして、中小企業のCOOやCFOとして経営に入ることを推奨しています。会計、マーケティング、IT等、自身の強みは存分に活かしつつ、社長のもとでビジネスや、業界知識、組織マネジメントを学ぶことで、中小企業の経営者として必要なスキルを早期に身につけることができるのです。

      長いキャリアの中で、自分にとっての理想的な経営者像を実現するためには、キャリアの最初から会社の長となる選択肢をとるのではなく、社長の下で一定期間学ぶという経験を得た上で、事業を承継して社長を目指すキャリアもあります。サーチファンドスタディによると、COOやCFOのようなパートナーと共に事業を承継する事例が1/4を占めており、単独ではなくグループで事業が受け継がれていく事例が日本でも増えていくでしょう。

      より多くの方が経営者のキャリアを目指すことができる環境創りを

      人口減少が加速する中で、日本が今後GDPを維持し伸ばすためには、より少ない人員でより多くの価値を生む必要があります。こうした点を事業承継問題と照らし合わせて考えた場合、国としても多くの優秀な経営者を創出し、今までその選択肢がなかったような方々にも経営者としてのキャリアを目指すことができる環境作りが必要ではないでしょうか。私達はその環境を創出したいと考えているのです。

      文:竹内智洋Growthix Investment代表取締役