事業承継のカギを握る「サーチファンド」②サーチファンドの発祥

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写真はイメージです

1984年4月1日、アメリカのスタンフォード大学を卒業したジムサザン(Jim Southern)がNova Capitalを立ち上げたのが初めてのサーチファンドと言われています。ハーバード大学院やスタンフォード大学院で教鞭をとっていたIrving(アーヴィング)教授が経営大学院(MBA)卒業生のキャリアパスの一つとして提唱したモデルが初めて形となった瞬間でした。

Nova Capitalの大きな特徴は当時MBA卒業生であったジムサザン自身の承継企業を探す活動(サーチ活動)のために個人投資家や機関投資家から資金調達を行い、さらに、その後の投資検討費用や投資実行に必要な譲渡金額も投資家から集めたことです。1984年に始まったこのサーチファンドスキームは世界各国に広がり、今日までに550近くのサーチファンドが組成されています。

後継者候補として認めてもらうには

先日アメリカに渡った際に、現地でサーチファンドを設立し、現在サーチ活動をしているサーチャーと話す機会がありました。メキシコ出身でアメリカのMBAを取得した彼は複数の投資家から資金を調達し、2年間インターンなどを雇いつつ企業への電話やメールを送りアポイントを取り付け、譲渡意思のある企業を探し、直接売主へアプローチをしています。このサーチ活動の進め方は前述したアーヴィング教授が提唱した起源に近しいことからトラディショナル型サーチファンドと呼ばれています。

2年間のサーチ活動の中でサーチャーは企業のオーナーに対して企業譲渡をしてもらえるように資金調達はもちろんのこと、魅力的な事業計画を作成するなど幅広いスキルを身につけます。一般的にサーチ活動中はその活動に専念し企業に属して収入を得ることはありませんから、活動期間の確保を含め、サーチャー自身には大きな負担がかかります。しかしながら、こうした苦労を経験することで将来経営者として成功するために必要なあらゆるスキルが磨かれるのだろうと思い、トラディショナル型サーチファンドに魅力を感じています。

トラディショナル型サーチファンドは一般的なファンドと最も異なる点として、企業の経営者が自身の後継者となる次期経営者候補に投資実行前から会い、コミュニケーションをとっていることです。サーチャーはサーチ活動を行う中で自ら1社ずつ候補企業に出向き、会社についての理解を深め、自身の事業計画も示しながら、後継者候補として認めてもらえるように説得を試みます。

確かにこれらサーチャーの裏にはサーチ活動を支援するファンドや金融機関が存在するものの、あくまで会社を承継して経営を行うのは「田中さん」「伊藤さん」「安藤さん」といった一個人であるサーチャー(後継者)です。これらのサーチャーは経営者と直接接し、一対一の関係性を深めます。この関係性を構築するからこそ、経営者には企業をファンドという得体のしれない資金の集合体に譲渡するのではなく後継者候補個人に譲渡する気持ちになっていただくことができるのです。

日本での広がり

サーチファンドが日本に初めて輸入されたのは2014年に遡ります。現在Search Fund Japanの代表を務めている伊藤公建さんがマッキンゼーやベインキャピタルでのご経験をもとにサーチ活動を行い、株式会社ロハスインターナショナルの代表になられました。

そこから数年が経過した後、2020年にYMFG Search ファンドの渡邊謙次さんが、そして、同年に弊社の河本和真が駒沢の森こども園を承継する形でサーチファンドの実行数が少しずつ増えています。現在では弊社の把握している投資案件だけで11件のサーチファンドが存在し、少しずつこの数は増えております。次期後継者(サーチャー)が自身でサーチ活動をするアメリカで主流のトラディショナル型のサーチファンドとは異なる日本特有の形も模索されています。

日本特有のサーチファンドはM&A仲介業との連携がポイント

日本特有のサーチファンドを可能にしているのが、日本で強く普及しているM&A仲介業の存在です。1990年代より日本でも多くのM&A仲介会社が設立され、事業者の規模は大小様々ですが現在は1、2名の小規模な会社も併せ、400社以上存在していると言われています。

こうしたプロの仲介会社が日々金融機関との情報交換や電話・DMなどを通じた全国の譲渡意思のある企業の発掘を行っています。M&A仲介会社が多数存在することによりサーチャーは自身で企業への電話やメールでのアポイントを取るのではなく、彼らと連携し、自身の承継対象となる企業の発掘を一緒に行うことが可能になります。

弊社では日本の事業承継問題を解決するためには、一人でも多くの後継者となりえる経営者人材を作り出すこと事がカギになると考えています。よって、トラディショナル型サーチファンドの推進はもちろんのことですが、これに加えて現職に籍を置きながら、経営する上で必要なスキルやマインドを学ぶ環境を作り、仲介会社と連携してサーチ活動を行うことで完結させる取り組みを推奨しています。これらの仕組みは効率的に経営者となるための準備を促し、サーチファンドを推進する上で、非常に意義が大きいと実感しています。

サーチャーは、上述のようにプロのM&A仲介会社からの支援を受けられる環境に身を置き、承継したい企業の条件を定めることにより、効率的に承継候補となる企業情報の紹介を受けることができるようになります。この仕組みを通じて、月に数十件の企業情報を獲得しているサーチャーも増えてきました。

これらの仕組みを総称して、我々は「日本式サーチファンド」と呼んでいます。この「日本式サーチファンド」の導入は、M&A仲介会社を活用した効率的な承継候補企業の発掘と、後継者候補が中心となった承継スタイルという、トラディショナル型サーチファンドの持つ魅力を、両立させたモデルとなります。

既存のトラディショナル型サーチファンドに加え、この仕組みを最適化していくことで、サーチャーにとっても、後継者を探す経営者(売主)にとっても価値のある機会提供になると信じています。

文:竹内 智洋Growthix Investment代表取締役